《新戦艦》
―ユスティニアヌス級戦艦
エリュテア王国は戦後のワシントン海軍軍縮条約に批准したが、イタリア・フランス両国と同じくロンドン海軍軍縮条約には一部批准にとどまっていた。
しかしイギリスとの友好関係を再考する派閥の出現と、その派閥のトップである海軍大臣ミトリダテス・パパドプーロスにより、条約内で『ニカイア級装甲艦』が建造されることになった。
『ニカイア級装甲艦』は新基軸を盛り込んだ最新鋭の艦であったが、そのために一番艦からトラブルが続出し、当初条約無視で六隻建造の予定が、未起工分の二隻はキャンセルとなった。
またそれらと並行して整備するはずだった駆逐艦も護衛対象である装甲艦が未起工で中断となったためにキャンセルするべきか否かという案が議会にもたらされ、造船所を巻き込んだ労働争議が勃発した。
これに対してパパドプーロスとシメオン一世は、ワシントン海軍軍縮条約からの離脱を視野に、キャンセルされた艦艇の予算を『国産新型戦艦』の予算へ転用することとした。
一から戦艦設計案を書き起こすのはほぼ不可能であったため、設計はパパドプーロスの愛弟子であるアーロン・マーフィー技官の『28D型設計案』を元にしている。
『28D型設計案』は他巡洋艦との連携行動を念頭に置いて設計された巡洋戦艦案で、艦船設計のみがなされたものだった。
そこからの動きは早く、アーロン・マーフィーを筆頭に『28D型設計案』に携わった設計者たちが『28D-Hyper型設計案』を取りまとめ、建造が承認された。
『28D-Hyper型設計案』は基準排水量42000トン、16インチ連装砲を4基備え、速力は28ノットを発揮する案であった。
艦首はアトランティックバウで、船形は中央楼型船体で鋼鉄の使用量を削減しつつ、凌波性と居住性を確保する設計となっている。
シアのかかった艦首甲板上に一番・二番砲塔が背負い式で配置され、二番砲塔基部から1段高くなって上部構造物が始まり、司令塔を組み込んだ操舵艦橋がある。
その後ろには戦闘艦橋があり、これは上すぼまりの台形で、断面図が八角形の塔型艦橋構造になっている。形状はドイツ装甲艦や軽巡洋艦デ・ロイテルなどのものに酷似している。
艦名は王朝名に由来するもので、1番艦が「ユスティニアヌス」2番艦は「パレオロゴス」となっている。
主砲は沿岸砲として試作した16インチ砲を改良したMk.1 16inch45口径連装砲を4基、計8門搭載しており、大重量の砲弾を使用し、これを対16インチ防御のなされた主砲塔に収めた。
防御面も16インチ搭載前提でほとんどが16インチ防御を念頭においた集中防御配置となっており、ドイツ的なシンプルな塔型艦橋には弾片防御のみが施されている。
装甲は356mmを傾斜装甲で備え、甲板装甲は弾薬庫上面が152mm、機関部上面が102mmとなっている。
副砲は断片防御にとどめた連装砲塔に10.2㎝両用砲を装備し、6基12門。近距離防空に8連装40mmポムポム砲を5基40門、4連装4基16門、ヴィッカース50口径機関銃を8基装備。
機関はバブコック・アンド・ウィルコックス式重油専焼水管缶8基に、パーソンズ式ギヤード・タービン3基の3軸推進で速力は28ノット。
1番艦の「ユスティニアヌス」は1935年8月にビスカイノ造船所で起工、1937年12月に進水。1940年4月に就役した。
2番艦の「パレオロゴス」は1936年2月にヘスペリデス王立海軍工廠で起工し、1937年9月に進水。1940年11月に就役。