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③入学式絨毯のピンクに靴跡

この風景もだいぶ、身体に馴染んできた。


人が視界を賑わす光景が、いつもここにはある。


夜になればなるほど、目映い光が瞳を歪ませる。


ベランダから見える景色は、心と共に常に流れている。


時の流れと共に、何かが移り変わっている。


常に変化を続けているのに、周りの空気はしっかりと馴染む。


そして、一番馴染んでいるのが、後ろにいる優しい彼。


象徴的な暖かさを持つ大地から、右も左も分からず、この街に出てきた。


そんな街に、同じような夢の塊を携えて舞い降りてきたのが、天使の姿をした彼だった。


身を凍えさせるベランダから、部屋に一歩戻れば、彼がいる。


そして、彼は私が寂しければ、いつでも抱き締めてくれる。


気持ちも環境も、田舎にいた学生時代とは、全くもって違う。


そのことが、田舎にいた時とは種類の異なる、双方の感情へと誘っているのだろう。


「寒くないの?」


「うん。大丈夫だよ」


「何を考えてたの?」


「今の状況を考えたら、昔と全然変わったなって」


「何が変わったなって思うの?」


「私もそうだし、周りの環境もそうだし。こんなこと想像してなかったなって」


「そうだよね」


「最初は馴染まないなと思っても、今の環境が馴染んできているんだよね」


「昔と今で変わったなって思うキッカケになった出来事とかって、例えば何があるかな?」



【ポジティブを キャンプファイアに 煽られて】



学生の頃もそんなに積極的ではなくてね。


大声で叫んだり、元気に走り回るタイプではなかったんだけど。


なぜか、キャンプファイアが目の前にいると心に移るというかね。


炎が心に燃え移るような感覚になったの。


それも学生だったからかなって思う。


気持ちも環境も、今は少しずつ大人に近づいているってことだよね。


「僕もキャンプファイアのときは、不思議な感覚になったな」


「そう」


「子供が夜に炎を見つめるんだよ。もう異世界だよ。初めての時の感覚は、飛び抜けていて当然だよね」


「私だけじゃなかったんだね。でも、大人になった今見ても、そんな感情は抱かないだろうね」


「大人と子供の頃の感覚の違いは、かなり差があるからね」


「うん」


「キャンプファイアって、今思えばスゴいものだよね?」



【冷酷な キャンプファイア 崩れゆく】



キャンプファイアの燃え盛る炎が、子供の頃は目にしっかり焼き付いていたよ。


でも、あの燃え盛ったあとに崩れゆく光景が、特にグサッと心に来たの。


残酷さとか、無惨さとか、儚さとか、幻想とか、そういうものが一纏めになったようなね。


なんとも言えない衝撃があったな。


今はキャンプファイアを見ても、冷酷とか、負の感情は溢れてこないだろうな。


「キャンプファイアを綺麗だなって思う人も多くいると思うけど、僕も不安感が多かったかな」


「やっぱり、そうだよね」


「暗闇で赤く燃えて、そして崩れてゆく。なんか心とか、大切なものが燃えたり、崩れたりする感覚をそそるみたいな感じがあるよね」


「うん。でも、今もしっかりと思い出として心にいるってことは、いい出来事だったってことかもしれないよね」


「そうかもね」


「昔のことを振り返るって、何かいいよね」


「そうだね。他に今と昔で感じ方が変わったものってある?」



【秋雨の為に目覚める 午前二時】



小さい頃や、学生の頃とかは、音が多少うるさくても、ぐっすりと夢の中に浸っていられた。


でも、今は常に眠りが浅いのか、少し音量の大きいものだったら、目が覚めてしまうの。


昔は、知識が少ないが故に、不安とか、悩みとかも抑えられていたと思う。


でも、学生から飛び立ったとき、抑えきれない不安が纏い始める感覚があった気がする。


純粋と呼ばれる時期が、どれだけ落ち着いていられたかは覚えてないけど、楽だったよね。


時と共に世間に馴染むと、刺激なども馴染んでいくはずなのに、今はどんどん敏感になってゆくばかりで。


「僕は、その反対かな?」


「反対?」


「そう。昔の方が夜中に目が覚めていたかも」


「今はぐっすり寝られるようになったってこと?」


「うん。逆にストレスに曝されて、疲れきったからだろうね」


「そういうこともあるよね」


「昔と今の違いを比べるのも何かいいね。他に何かある?」



【鳩尾の 池の水涸れぬ 残暑かな】



最近の夏は、昔の夏に比べて少し暑さが増したよね。


だから、昔のままでは居られない世の中になってきてる。


常に進化を続けるのが、人類だから。


自分自身が昔と変わっていることは、いいことなのかもしれないね。


鳩尾のくぼみも、汗っかきな体質も、今らしいなって思えるから好きなの。


昔もそれは、あるにはあったかもしれないよ。


でも今は、今の特色というものがあるよね。


「暑さは、日々どんどん進化しているよな」


「うん」


「暑さに強いと思っていた僕でも、エアコン無しでは耐えられない時代になっているもんね」


「誰かは予測していたかも知れないけど、未来は想像を越えてくるよね」


「うん、これからどうなるか心配だよね。他に昔と変わったことある?」



【連ドラの 繋がりを断つ 雷よ】



雷の印象は最近になって、強くなったかな。


それほど、子供の頃に雷で怖がっていた思い出はないの。


住んでいる地域や場所とか、住んでいる家の違いでも、変わるかもしれないよね。


印象とか、運命って本当に些細なことで変わるよね。


最近は、ほとんどの連続ドラマを見るの。


昔は見ても、1クール1作品くらいだったな。


昔には想像もつかないほどのドラマオタクに、今はなってる。


興味や趣味嗜好って、本当に不思議だよね。


「僕は、昔の方がドラマをよく見ていたかな」


「今はあまり見ないの?」


「うん。昔は特に趣味がなかったから見てたのかもしれない」


「そうなんだね」


「今は色々、他にたくさんすることがあるし、今こうやって二人でいられるだけで幸せだからね」


「ありがとう」


「色々と昔のことが聞けてよかった。話してくれてありがとう」


「うん」



【入学式 絨毯のピンクに靴跡】



私は長い間、彼と一緒に人生を歩んできたが、今、初めて彼に入学することが出来たように思えた。


ピンク色をした、明るく華やかな道を、これから歩んでいきたいと願っている。


振り返るという行為をする度に、想い出という俳句が、いくつも降り注いでくる。



【梅雨空を 撃ち抜く傘も 染まりゆく】


【気が抜けた サイダーよりも 弱々しい】


【花粉にも 春にも顔を 見られない】


【玄関の 海で見守る 金魚の朱】


【繊細な 耳の上辺に サングラス】


【踊る人 線香花火 真っ黒に】


【暗い空 眩しい光 サングラス】


【扇風機前 ブラックペッパーを振る】


【風鈴のイルカ レースカーテンの 波に乗る】


【スマートフォン 熱帯び満ちぬ 残暑かな】



未来では、真っ白なドレスで着飾って、彼と共に幸せの道を歩んでいきたい。

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