Epilogue(エピローグ)
あれから何日経っただろう。すでに夏休みも終わり、2学期が始まっていた。
海を見ながら下る坂道は、所々赤く染める街路樹が並ぶ。
「よぅ!」
いつものように後ろから雄吾が声をかけてくる。
「おはよ。今日も元気そうだね」
「おぅっ!あったりめぇだ。お前もいい加減元気になれって!」
そう言って雄吾は私の頭をポンと叩く。
ミシェルが施してくれた術のおかげで、雄吾は傷もすぐに消えた。今までの記憶を消すとも言われたが、雄吾が断固拒否してくれたおかげ…というのか、私たちはあの時のことを今も忘れずにいる。
それでも私たちはいつも通りに学校に通う。そして私はいつも通りの海を、教室の窓から眺める。
「今頃どうしてるんだろうなぁ…」
そう言ってため息ばかり出る。
「お前なァ、元気でいるに決まってんだろ?アイツがどうにかなってるとでも思ってんのかァ?」
「そんなのわかんないじゃん」
「なんかありゃ絶対連絡来るだろ?」
「どうやってだよ」
「そりゃぁ〜まぁ〜『ちちんぷいぷい』でだろ?ハハッ」
「そんなのあるわけないじゃん」
私はミシェルから最後にもらった小瓶と黒い羽根を、そのままの状態で持っている。
これを融合させてしまったらどうなるのか……
「あん?何持ってんだ?」
雄吾はすかさず私から取り上げた。
「ばか!何すんだよ!」
私は慌てて取り返す。
「ははぁ〜ん、それフヴェルの水じゃねぇの〜?」
「え…!そうなの?」
「あぁ。だってオレも飲んだもん」
「えぇっ!飲んだっけ?で、どうなったんだよ?旨いの?まずいの?」
「ん〜…まぁフツーの水だな、こりゃ」
「なんだよ〜ビビらせんなって」
「あ、でもその水飲んだおかげで狼とかニズホッグとか見えたんだぜ?声も聞こえたし」
「ふぅ〜ん。私が飲んだって仕方ないしなぁ〜」
「飲んだらなんか変化あるかもよ?」
「へんなこと言うなよ。飲めとは言われてないよ」
「じゃぁなんて言われたんだよ?」
「ん…?教えな〜い」
「あっ!てめっ!隠す気かよ!」
「オマエに教えるとろくでもないこと企みそうだからな!」
そう言ってじゃれている時だった。
取り合いになっていた小瓶が教室の床に落ちる。
「あっ!」
なぜか小瓶は割れず、その中身の水が流れ出てくる。
そして、そこへ持っていた黒い羽根が手から離れ、その水の上にふわりと乗った。
「ばかッ!なんてことしてくれんだよ!」
必死にかき集めようとしたが、小さな小瓶に入っていた少量の水は集まらない。
その直後だった。そこから黒い羽根が次々と舞い上がり、それはどんどん何かの形になってゆく。
「なっ…なんなんだよ!これ!」
驚く雄吾の横で、私はほっとしたような、ガッカリしたような、複雑な気分だった。
その黒い羽根の塊が形作ったもの、それは黒い翼を背中につけた、黒い狼の守護獣フィルグスだった。
「お…おい!狼じゃねぇか!」
雄吾は怯む。
だが私はそっけなく答える。
「なんだ、まだ見えるのか」
「『まだ見えるのか』じゃねぇよ!見えるに決まってんだろ!解毒剤も貰ってねぇのに!」
「[解毒]って、それ表現間違ってないか?」
「いいんだよッ!それよりコイツ大丈夫なのか?」
現れたフィルグスは、黒い羽根の翼と、黒い狼の体、そしてグレーの瞳。太陽の光が横から差し込みブルーの瞳にも見える。それはとても優しい目をしていた。
私はすぐに返事をした。
「あぁ!こいつは大丈夫だ!心配すんなって!」
私は満面の笑みを隠すように、窓際で両腕を頭の後ろで組み、キラキラと輝く海を見た。
───── FIN ─────
最後まで読んで頂き本当にありがとうございます!!
この作品を書くにあたって、北欧神話やそれに関する言語(ノルウェー語・古ノルド語・ルーン文字など)、
北欧の地理、とにかく北欧のことを調べまくりました!!大変でした;;
執筆前のプロットを練る段階からネット上にアップし終わるまでかれこれ3ヶ月半……
費やした時間の半分近くは調べていた気がします(笑
それでもまだまだ調べきれない部分があり、そちらに詳しい方からしたら未熟と思います;
小説初作品でしたが、とても楽しく書くことができました。
妄想(!)は尽きることなく、また次の作品を書きたいと思っていますw
尚、感想・アドバイスなどありましたら是非ともよろしくお願いします!
それを励みに頑張っていきたいと思いますw
そして改めて、ありがとうございました m(__)m
【野琴海生奈】