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嵐の前の静けさ

ヨシキとの決闘から1か月,僕の日常はよくあるラノベの主人公のように

劇的に変わってはいなかった。いや,やっぱり少し変わったかもしれない。


まず,クラスの皆から以前よりも一目置かれたかもしれない。

噂によると,よしき先輩はいろんな女の子に手を出していたらしく,

あまり評判の良いものではなかったらしい。

僕はどうも彼のことを憎めないけれど...


「おい。ベイブ!何ボーットしてんだよ。」


ほらね。

こんな感じで以前よりもクラスのみんなに話しかけられる頻度が増えたんだよ。


「おいおい。あんまりベイブのことを急かすなよ。」

「あ,そうだったな。怒らせるとギガインパクトされちまうからな。」


なんだギガインパクトって,知らぬ間に僕の必殺技が編み出されてるじゃないか。

せめてコマンド入力だけでも教えてくれ。


そんな感じで僕は以前よりも少しだけ友達かは分からない人たちと楽しく過ごしている。


そして,二つ目の変わったことは毎週月曜日に神代さんと『異世界ミンティア』について議論をするようになったことだ。


あの一件から,なんやかんやで神代さんも『異世界ミンティア』にハマってしまったみたいで今では僕を超えるほどの考察力だ。


第三者の視点で見ると,僕が教えてもらってるみたいに見えるんだろう。

僕が一人で必死に教えていたころが懐かしい。

僕が教えられるような立場になったとしても昔がよかったとは思わない。


僕は昔よりも今が楽しいから。


ふと,僕は僕と議論中の神代さんが僕の顔を見るようにしてボーっとしているのに気づいた。


まさか,僕の顔を見ているわけないよな。

絶対に後ろになんかいるんだろうな。

ちらと後ろを見る僕,後ろには本しかない。


そうだそうだ絶対にこの本だ。

ふと本のタイトルを見ると,「広辞苑」と書かれていた。


なんだか「広辞苑」に負けるのは腹が立つと感じた僕は,思い切って神代さんに聞いてみることにした。


「ねぇ。神代さん。何を見てるの?もしかして僕の顔になんかついている?」


僕の質問がよっぽど滑稽だったのか、神代さんはむせるように咳をした。

「ゴホゴホ。そ,そんな,わけないじゃん。う,後ろにある広辞苑を見てたの。」


「あ,そ,そうだよね。ご,ごめんね。」


神代さんはよっぽどむせたのか顔がりんご飴のように真っ赤っかになっている。

僕も真っ赤になってしまいそうだ。


僕の場合は面白くてじゃなくて恥ずかしくてだけど


許すまじ広辞苑。


僕が広辞苑にリベンジを誓っている間に神代さんは帰り支度を始めていた。

「あれ?神代さん。もう帰るの?」


間髪入れずに神代さんが答える。

「当たり前じゃん。チャイム聞こえなかったの?もう帰る時間だよ。一緒に帰ろ。」


一緒に帰ろ。

なんていい響きだ。

この言葉を栞にして大好きな『異世界ミンティア』を読みたい気分だ。


僕は一つ,言わないといけないことを思い出した。

誰のためにこれを言わないといけないのかは分からないが,僕は言わないといけない気がする。


「付き合ってないからね。」


僕の声に反応するように,神代さんが驚く。

「え?」

それに呼応するように僕は慌てる。

「あ,え,こっちの話だよ。さ,はやく行こ。」


夕暮れで真っ赤に染まった図書室を僕たちはゆっくりと後にした。

僕たちのこの関係はあの一件から変わったのだろうか。

いや,戻ったのかもしれない。

考えてもきりのないことを永遠と考えながら,僕は今のこの幸せな暖かい時間の中に浸かることにした。


その心地よさに僕はポケットの中で震える携帯の通知音に気付くことはなかった。


『異世界ミンティア ゲームアプリ 本日リリース!!』



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