書きたいことを気ままに書くよ。 ⑥
夜勤の時の小話です。
障害者支援員たるもの、日々葛藤ですね。
先輩社員と一緒に夜勤をしていた時の思い出っぽいものをひとつ。
〇〇〇
「で、お前はどう考えている?何がしたい」
先輩に言われて思わず竦んでしまう自分がいた。情けないにもほどがある。
肝心なところで、私はいつも自分の気持ちを伝えることができない。
そんな私をよそに先輩は淡々と続ける。
ため息交じりにイラついた声が漏れた。
「お前の考えが分からない」
やれやれ、といった様子で彼は私に背を向けた。荒っぽい仕草で手近にあった椅子に腰かける。
正面から顔を突き合わせては話ができない私に対するその優しさがつらい。
私は両手を胸の前にぎゅっと握りしめる。
「わたしは、利用者さんに寄り添う支援が何なのか、わからないです。これでいいのか、何が正しいのか」
緊張してドクドクとうるさい心臓がその存在を主張している。
がんばれ、わたし。ちゃんというのよ!
自分を鼓舞し、大きく深呼吸すると、いくらか気持ちがましになった。
「今の現状としては、現場を効率よく回すことしか考えられないです。いかに短時間で入浴や排せつ介助、食事を済ませるか、そんなのしか考えることができない。でも、それって支援なんでしょうか?」
私は彼の背中に問いかけた。
「私は、効率よく現場を回すことが利用者支援だと思いません。でも、現状ではそれが求められます。少ない勤務者の中で現場を回すためには、無駄をそぐことしかできません。だから、今の自分には当事者視点に立った支援はできません」
本当に伝えたいことの、十分の一にも満たない言葉しか出てこなかった。でも、これが今の自分に出来る精一杯だった。
ふたりの間にしばし沈黙が流れる。
そんな気まずい空気を壊したのは、彼だった。
「よかった。べつになにも考えていないわけじゃなかったんだな」
わたしは訳が分からないといった表情を彼に向ける。すると、振り向きざまに目が合った。
「お前は淡々と業務をこなすから、別にそういうことあまり考えないのかと思っていた」
「は?」
私は思わず疑問符をぶつけた。わたしは、一支援員として、障害当事者のみんなに寄り添った支援がしたいと思っていた。寄り添った支援が何かは解からないけれど、少なくとも職員主体の機械的に業務をこなしていくのは支援ではないと思っていた。それをすべて彼に伝える。
「お前さ、そういう考えを持っていることを、ちゃんと言ったほうが良いぞ。わかんねーから」
そう言って彼は口角を少し上げる。
「ただな、効率よく現場を回すことができたら、無駄をそぎ落としてできた時間を支援に使えないか?」
わたしはかれの言葉を聞き洩らさないように耳をそばだてる。
「人員を増やしてくれって言ったて、いないもんは仕方がない。人が集まらないのもあるし、人を雇う金がないのもある。だから、俺たちに求められるのはその中でどう工夫していくかってことだ。無駄を省く介助をして、自分で時間を作って、その中で出来る支援をすればいいんじゃないか」
「着替えの介助をするときに、いかに早く、かつ皺ができないように着替えさせることができるか。利用者の身体に負担が少なく排せつ介助を終えるにはどうすればいいか。そういう小さな一つひとつを突き詰めていけば、支援の質も上がるだろ?」
かれはすっくと立ちあがると、わたしの肩にぽん、と手をのせた。大きくて、温かい手だった。
「あんまり話をきいてやれなくてごめんな」
ふっと壁掛け時計を見やると、針は12時近くを指していた。夜間の巡回の時間である。
「あー、もう巡回の時間か。話しこんで悪かった。話してくれてありがとうな」
わたしは小さな声で「ありがとうございます」というと、次の業務に向かうため、その場を後にする。
そんなわたしの背中を彼はひらひらと手を振りながら見送るのだった。