観察日記②
カランカラン
「いらっしゃいませ〜こんにちは!」
今日は火曜日。イケメンさんは来ないけど火曜日にも毎週通ってくれるお客さんがいる。
「こんにちは〜また来ちゃったわ〜」
「ここ居心地がいいからつい通っちゃうわよね〜」
うふふと笑いながらいつも感じ良い人たちだ。のほほんした空気にこちらまで癒される。
「いつもご来店ありがとうございます。お好きなお席へどうぞ〜」
来店されたのは二人組のマダム。毎週どこかへ行っているようで帰りにいつも来店してくださっているようだ。毎週火曜日の午後、ここでコーヒーを飲みながら談笑されるのだがよく話のネタが尽きないものだと思う。私はあまりおしゃべりが得意ではないのでこうも長く続く会話に感心してしまう。手持ち無沙汰なるとこっそり聞き耳を立ててしまうのだが、思わず笑ってしまうエピソード盛りだくさんの内容で今度はどんな話だろうと密かな楽しみの一つでもある。今までただの一度も誰かを悪く言ったり険悪な雰囲気が全くなく私の大好きお客様方だ。ちなみに「マダムズ」心の中で呼んでいる。
「ご注文はどうされますか?」
「そうねぇ〜ブレンドで本日のケーキのセットにしようかしら」
「私もそうしようかしら」
「かしこまりました」
注文を受け取り早速取り掛かる。今日のケーキはホットチョコケーキだ。事前に作ってあるブラウニーを取り出す。マフィン型で焼いていて中にはチョコソースが入っているので温めることで食べるときにトロッとソースが溶け出してとても美味しい。ブラウニーを型から取り出してオーブンで表面が少しカリッとするまで焼く。その間にコーヒーを入れ、お皿にはバニラアイスを添える。ブラウニーが焼けたら隣に添えて生クリームを少し。ミントを乗せて粉糖をかけたら出来上がり。
「おまたせいたしました。本日のケーキです。ブレンドすぐお持ちしますので。」
「わぁ美味しそうね」
「ほんといい匂い」
にっこり笑ってコーヒーが冷めないよう急いで取りに行く。けどあくまで優雅に慌ただしさを見せない。お客様も落ち着かないものね。掃除してるとはいえ埃も経つし。
コーヒーも出し終わって再びまったりの時間がやってきた。ゆったりしたクラッシックのBGMに楽しそうな談笑の声。この雰囲気が大好きでここで働かせてもらってよかったなと心底思う。大学を出て一度は就職したものの、自宅と職場の往復だけの生活を一生するのかと考えた時なんか違うなと思って一年後に退職した。最近の若いものは…って言われるが合わなかったものは仕方ない。違うなと思いながら時間を浪費し続けるのはもったいない気がしたのだ。生活していくにはやはり働かなければならない。そんな時出会ったのがこの喫茶店だ。募集の紙を貼ってるマスターに出会いすぐに面接をお願いした。動機はなんとなく人と人との触れ合う機会が増えればやりたいことを見つけられるんじゃないか、というぼんやりとした理由だったがマスターは快く受け入れてくれた。それが今やこの喫茶店が大好きになっている。ふわっと香るコーヒーの匂い、ここだけが外に比べてゆっくりと時間が過ぎているような居心地良さ、落ち着いた雰囲気、いわゆる私好みそのものだった。お客様との会話はたくさんさる方ではないけど皆んな良い方々だというのは見ていてよくわかる。これもマスターの人徳というものだろうか。
あ、そうそうこのお店は「喫茶 クレオメ」クレオメとは花の名前で花言葉は“秘密のひととき” マスターはこの喫茶店がどんなに大変でもここに来れば、ひと心地つけられるような喫茶店にしたいと思って名付けたそうだ。お客様は手が足りなくなるほど多いわけではないけどリピートしてくださるお客様多くてどちらかといえば常連さん多めの喫茶店だ。
カラン
おっとお客様が来たようだ。
決して慌ただしくない一日が過ぎて閉店作業中窓の外をふと見た。お仕事終わりの方だろうか疲れたような足取りで帰宅中のようだ。お仕事ご苦労様です、と心の中で労いながら裏に戻ろうとしたところ常連さんのイケメンさんと目があった。今お帰りなのかとペコっとお辞儀するとイケメンさんはにっこり笑って口パクで何か言ってる。ごめんわからん。何言ってるのかわからないのでとりあえず笑っておく。手を振りイケメンさんは去っていった。
なんて言ったのだろうか、そんなに長くなかったので一言だとは思う。こんばんは、お疲れ様、さよなら、あたりが無難だ。いい人だと思うから悪口は言われてないと思っておこう。
「あ、そうだ。明日はアレを注文されるだろうし準備しておこうかな。」
観察日記②
今日はマダムズの日。相変わらず話が面白くてたまに気になり過ぎて仕事が手につかなくなるから反省。帰宅中のイケメンさんになんか言われたけど全然わからなくて明日聞けたら聞いてみようかな。
知識あまりないです。喫茶店員経験はありです。