若き銀行家の訪問
今日はエイトに用があってこの家を訪ねたわけではありません。
エイトが商用で家を空けているのは知っています。
そう、私はあなたに話があって来たのです、ルミナさん。
私はこの半年とても苦しんできました。
この苦しみはエイトの結婚式であなたを見たときから始まりました。
あの日私が教会でめまいを起こしたことを覚えてらっしゃるでしょうか。
私が突然体調を崩したのはあなたのせいなのです。
いえ、結婚式であなたを見てその美しさに心を奪われた…なんて単純な誤解はして欲しくない。
私はとても真面目な男なのですよ。
自分でもそう思うし、周りの人もそう言います。
軽やかな人柄のエイトは、どうしてお前と俺は友達なんだろうなと不思議がります。そして周囲の人たちはもっと不思議がります。
人柄的には対極にいる私たちですが、どこか心の琴線に触れるツボのようなものが似ている、だから彼と友人であることになんの違和感もないと自分自身では思っていました。
そしてそれはエイトがあなたを花嫁に選んだことによって証明されました。
エイトは私と同じ人を好きになったのだから。
いや、だから誤解して欲しくない。
友人の結婚式で友人の花嫁に恋してしまっただなんていう。
私はエイトがあなたと知り合うずっと前からあなたに恋していたのだから!
申し訳ない…
あなたにそんな困った顔をさせて。
いえ、心配しないでください。
こんな告白をしてしまった以上、もう二度とあなたの目の前に現れるつもりはありません。
こうしてあなたに告白すること自体エイトに対しての裏切のようなものなのだから、私にはエイトの友人である資格はないと思います。
彼とももう会わないつもりです。
そんな覚悟を持って私はあなたに会いにきたのです。
この苦しい胸の内を打ち明けたいと思って。
ああ…友人の新妻にこんなことを言うなんてどうかしている…
今まで私は色恋で身を滅ぼす人たちをひどく冷淡な目で見てきたのに、自分がこんな愚かなことをするなんて。
今、私は人を好きになる苦しさと共にこれまでの自分の思い上がりを思い知らされている気がしています。
お願いです。どうぞほんの少しの憐れみの心を持ってこの愚かな男の話を聞いて下さい。




