お母さんへの報告
お母さん、今日ルミナから手紙が来ました。
安心して。新しい環境でも幸せに暮らしているようです。
思ったほどはコミニティの人から出身のことをとやかく言われないんですって。
最初から隠さず都会のカフェで働いてたことを公表しているから、逆に詮索のしようがないのかもしれないわね。
まあ、嫌な態度をとる人も皆無ではないらしいけど、エイトがしっかり守ってくれてるみたい。
ルミナの旦那さんのエイトは少し調子の良すぎるところがあるものの、心ある人のように思えます。
あの人ならルミナを任せても大丈夫。…多分、ね?
エイトは田舎の屋敷で私に一緒に暮らすよう勧めてくれたんだけど、それは断ったの。
居候のような立場で生きていきたくないから。
そしたら彼は私にあちらで新しい就職先を紹介してくれるって言ってきたの。
ルミナが姉の趣味は暗算だって話をしたら彼、腹を抱えて笑ったらしいわ。上流社会の人間とは思えないほどの大声で。
そしてそのあと、銀行家の知り合いがいるから銀行で私を雇ってくれるように頼んでみるって言ってくれたそうよ。
屋敷で自分たちと一緒に暮らすのが気詰まりなら、銀行に勤めて小さなアパルトマンでも借りてそこで暮らせばいいって勧めてくれてるの。
ふふ、多分ルミナに私を田舎に呼んでほしいって頼み込まれてるのね、彼。
私は迷っているの。
あちら様の好意に甘えていいものかと。
だって銀行なんて女学校を出ていてもなかなか雇ってもらえないのよ?
それを学のない私が縁故で入ってうっかり大きなミスでもしてしまったらエイトや彼のご実家の顔を潰してしまうもの。
だけどルミナはどうしても私に側にいてほしいんだって。
あの子こっちにいる頃はそうでもなかったのに最近妙に私を慕ってくれるようになったの。
ルミナったら、エミリは私の恩人よ、なんて言うのよ。
私が毎日ピカピカに磨いていた靴があの子を幸せな場所に連れて行ってくれたんだって。
あの日あの靴を履いていなかったら自分は叔父さんたちに認めてもらえず、もしかしたらエイトと駆け落ちとかしなきゃいけないハメになってたかもしれないって思ってるみたい。
だから私に恩返しがしたいらしいの。
一日中数字を追いかけているのがお姉ちゃんの幸せなんだから、田舎の銀行に勤めて毎日お金の計算をするのがいいわ、なんて言うのよ。
まったく私をどういう目で見て見てるのかしらねぇ?
あのね、私たち姉妹はね、ルミナが嫁ぐ前にいっぱい話をしたの。
お母さんのことを。
お母さんはいつも私たち姉妹の幸せを願ってくれていたわよね?
だから、ルミナが彼女のことを心から愛してくれる人に出会えて、お金の苦労もなく素敵なお洋服を着て幸せに暮らしているということはお母さんの望みが叶ったってことになるのよね?
そして私はお母さんが大好きだったから、お母さんが喜ぶであろうルミナの結婚は私の幸せでもあるの。
ね、お母さん。
私もお母さんもいい靴を履いていたから、その靴が私たちに幸せを運んで来てくれたのよね?




