耀とサッカーとバイオリン
耀はサッカーが凄く上手いんだよ。
リフティングなんか、ヘディングで千回くらい出来るんだ。足でやった時は三千回以上出来るんだって。
僕はサッカーのこと、あまり詳しくないけど
耀のポジションはミッドフィルダーなんだ。
地元の「アストラル」って言うチームに所属してる。
アストラルっていうのは、
「星」とか「星の世界」
とかいう意味なんだって。
ユニフォームは、
ビジター(敵地で戦う時)が青、
ホ ー ム (地元で戦う時)が赤。
背番号は「11」番なんだ。
耀がポニーテールの髪をなびかせて、グラウンドを走ると、本当にカッコ良いんだよ。
もう惚れ惚れしちゃうくらい。
僕は耀の試合を何度も見に行ったことがあるんだ。いまだにオフサイドの意味が、よく分からないけどね。
耀は思いっきりが良くてね、 ゴールを狙えそうな時は、積極的に、がんがんシュートを打つんだ。
だから見てて、とても気持ちが良いんだ。
枠を大きく外れても全然気にしないでいつも楽しそうに笑ってるんだ。
耀は本当にサッカーが好きみたい。
サッカーしてる時の耀は、いつも嬉しそうに
ニコニコ笑ってて、輝いて見えるんだ。
耀はアイデアのヒラメキが優れててね、意外なところからシュートを打ったり、パスしたりするんだよ。
だから試合の時、県大会でよく優勝する
チームの監督が、
「あの11番良いねー! ウチのチームに入れたいよ」
って、言ったんだって。
それは小四の秋に、耀達が県大会でベスト8まで行った時の話なんだ。
耀はその試合で二ゴールも決める大活躍。
一点目はゴール前の混戦からヘディングで、二点目はペナルティエリアの外から豪快な
ミドルシュートを決めたんだ。
観客席からは、
「あの子スゲー!」
「あの子超ヤベー!」
とか、声が上がってた。
僕も嬉しくて誇らしい気持ちになったんだ。
僕の幼馴染みだって、観客の一人一人に説明
して回りたいくらいだった。
でも結局、試合は二対二の同点のまま延長戦までもつれ込んで、 延長後半に一点取られて負けちゃったんだ。
もう少しでベスト4だったから、
耀も凄く悔しがってた。
耀達のチームは地区での歴史も古いし、
かなり強いんだ。
その上、女子サッカーチームが元々少ないこともあって、県大会には毎年出てる。
耀達の時代じゃないけど、昔、県大会で優勝したこともあるんだって。
だから僕達の野球チームと比べたら、
耀達の方が全然実績が上なんだ。
サッカーチームの女子からは、
「翔太達、また県大会出れなかったの?
まったく弱いよねー、君達は」
とかって、からかわれたりするんだ。
でもそういう時、耀はね、
「違うよ! デンジャラスは強いんだよ。でも
ブラックホークスが強すぎて、県大会出られ
ないだけ」
って、かばってくれるんだ。
だから僕はそういう時、耀のためにも、
[来年こそはブラックホークスに勝ちたい]
って、いつも思ってた。
◇◇
僕、市営住宅で母さんと二人暮らしだって、前に話したよね。
これから少し、団地での生活の話もして
おくね。
僕と母さんは団地の四階に住んでる。
今通ってる「若竹小学校」から、歩いて十分くらいのところにある大きな団地なんだ。
二十棟くらい同じような建物が並んでて、
僕達はAの二号棟。
耀達も同じ団地で、Bの八号棟の二階。
団地のすぐ側に「若竹保育園」があって、
僕も耀もそこの出身なんだ。
部屋の広さは三LDKだから、親子二人暮らしには十分な広さなんだ。
建物もわりと新しくて築十年くらいかな。
僕が生まれる前、新築の時に入居したん
だって。
僕の母さんは隣町の大きな病院で、医療事務の仕事をしてる。
忙しい時は夜遅くなることもあるけど、大体は夜七時頃家に帰ってくる。朝は僕を送り出してから八時頃家を出るんだ。
耀の母さんはバイオリニストで、日本でも有名な交響楽団の奏者なんだ。
だから全国を飛び回ってることが多いけど、
耀の家にはお祖母ちゃんがいるから大丈夫。
銀髪で上品な感じのお祖母ちゃん。
僕は耀のお祖母ちゃんが大好きなんだ。僕のことを本当の孫みたいに可愛がってくれる。
僕が遊びに行くと、いつも笑って、
「翔ちゃん、いらっしゃい」
って、言ってくれるんだ。
家も近いし、耀のお祖母ちゃんが僕の面倒も一緒にみてくれたから、僕は学童クラブには入らなくてすんだんだ。
二年生の頃までは、学校から帰るといつも耀の家に遊びに行ってた。
三年生からは耀がサッカーを始めたんで、
ほとんど遊びに行かなくなった。
僕も秋から野球を始めたしね。
耀は母さんがバイオリニストなのに、
バイオリンはほとんど弾かないんだ。
僕の前でも数回しか弾いた事がない。
母さんの稽古が厳しすぎるんだって。
耀の母さんは綺麗で優しい人だけど、
バイオリンのことになると、
人が変わったように厳しくなるんだって。
「バイオリンに関しては、私、あの人に
ついて行けないわ」
って、耀は言ってた。
だけど、やっぱりバイオリニストの娘だから
耀もバイオリンは上手いよ。
四年生の時に一度だけ、学校の七夕音楽祭で
耀がみんなの前で演奏したことがあるんだけど、メッチャ上手かったもん。
『亡き王女のためのパヴァーヌ』
って曲を弾いたんだけど、上手すぎて、
生徒も先生も保護者達もビックリしてた。
耀は淡い黄色のワンピースを着てた。
背筋がピンと伸びて、弾き方も凄く
カッコ良いんだ。
いつも見てる耀とは、まるで別人みたい
だった。
僕はボーッと口を開けて、曲を聴きながら
ウットリしちゃったんだ。




