僕の野球チーム
僕の野球チーム「デンジャラス」は、
まだ一度も県大会に出たことが無いんだ。
デンジャラスはね、英語で、
「危険な」
っていう意味。
危険なほど強いチームになってほしいって願いが込められてるんだ。
実際けっこう強いチームなんだけど、
いつも地区大会で敗退しちゃうんだ。
なぜかっていうとね、同じ地区に、
「ブラックホークス」
っていう強豪チームがあるからなんだ。
そこの監督さんは元社会人野球の選手で、
とても厳しい指導をするんだ。
メンバーの数も多くて、
Aチーム(五、六年生)
Bチーム(三、四年生)
に分かれて活動してる。
それに比べて僕のチームは部員が二十人弱。
チームを分けられないんで、三年生から六年生まで一緒のチームで活動してるんだ。
監督もコーチも優しくて、練習も軽め。
高野監督は五十歳くらいの野球が大好きな面白いおじさん。
いつも冗談ばっかり言ってるんだ。
緒方コーチは三十歳位の真面目そうな人。
優しいお兄さんって感じ。
僕のチームも、春と夏の大会前に、二週間くらいは、ほとんど毎日厳しい練習もするけれど、普段の練習は土日だけ。練習がない週も結構あるんだ。
自由で伸び伸びした雰囲気が僕のチームの魅力かな。
◇◇
小三の秋から小四の秋までは、僕は補欠で代打ばっかりだったんだ。
だけど、練習に行って、外野で球拾いするだけでも楽しくて仕方なかった。
時どき大きなフライも飛んで来るしね。
仲間達とワイワイ言いながら、競争みたいにフライを取りに行って、思いっ切り返球するのが凄く楽しかった。
高野監督や緒方コーチから野球の基本を一から教わって、練習すればするほど、僕はだんだん野球が上手くなっていったんだ。
あれほど恥ずかしかったユニホームも、
全然恥ずかしいと思わなくなった。
長嶋茂雄が凄い選手だったこともネットで調べて分かったし。
小三の秋に野球が好きになってから、
僕は一人でもずいぶん練習したんだ。
野球の本やユーチューブなんかで自分なりにいろいろと研究もしたよ。
チームの練習がない時は、小学校のグラウンドとかで、いつも一人でトレーニングしてたんだ。
僕の野球チームの仲間達は、みんな塾や習い事で忙しかったからね。
だけど野球って、やってみると本当に面白い。
試合の時なんて、自分の打順が回って来るのが待ち遠しくて仕方ないんだ。
一人で素振りしたり、壁に向かって投球練習するだけでも面白いよ。
自分が狙った通りのコースにボールが行って、イメージ通りの投球が出来た時は凄く嬉しい。
素振りもね、 バットを振ると、 空気を切り
裂く、
「ブン!」
って音がするでしょ?
あの音も僕は大好き。
調子が良い時は、あの音が鋭く大きく聞こえるんだ。
とにかく、野球にハマってから、ゲーム機で遊ぶこともほとんどなくなった。
ご飯もたくさん食べるようになったし、
体も筋肉が発達して丈夫になったんだ。
高野監督から言われて、僕は勉強もするようになった。
「翔太、イチロー選手も、王選手も勉強は出来たらしいぞ、やっぱり一流の選手は頭も良いんだ。お前も勉強頑張れよ」
ってね。
だから僕は、塾には通えなかったけど、学校の勉強だけは、宿題と予習復習を必ずやるようにしたんだ。
そしたら成績がだんだん上がって来たんで、
母さんも喜んでる。
◇◇
僕のチームは中学受験をする人達が多くて、
「デンジャラス」の六年生のメンバーは、
夏の大会が終わると、直ぐにチームを卒業しちゃうんだ。
だから四年生の秋になると、僕はレギュラーになってレフトを守ってた。
初めてレギュラーで練習試合に出た時は緊張したよ。
相手は「港南イーグルス」っていう結構強いチームだった。
最初守備についた時は、
[お願いだから、僕のところに、打球なんか飛んで来ないでくれ!]
って祈ってたんだ。
だけど野球って不思議なんだけど、そういう時に限ってバンバン打球が飛んでくるんだ。
でも、最初の難しいレフトライナーを後ろ向きで走って行って、上手く処理出来たら妙に落ち着いちゃって、
[もう何でも来い!]
って気持ちになった。
結局その日は、毎回レフトに打球が飛んで来たから、合計七、八回は打球を処理したんじゃないかな。
僕は失策も無く全部無難に処理出来たから、
「翔太をレフトにして良かった」
って、監督も喜んでた。
一年間、たくさん練習した甲斐があった。
その日は、バッティングも調子が良くて、
三打数二安打だったんだ。
守備が調子良いと、バッティングも調子良くなるみたい。
僕はその日、七番バッターで、最初の打席は一死、一、三塁で回って来た。
僕はファーストストライクから積極的に狙って行ったんだ。
そしたら、二球目に良い球が来て、思いっ切りバットを振ったら、三遊間をライナーで打球が抜けて行った。
三塁ランナーがホームに帰って来て同点になったから嬉しかった。
一塁ベース上で、僕は思わずガッツポーズしちゃったんだ。
二打席目は、二死、ランナー無しから、
左中間へ大きな当たりの三塁打だった。
三塁コーチが滑り込めって合図したから、
僕は頭からベッドスライディングしたんだ。
そしたら、セーフだったんでホッとしたよ。
次のバッターの浩一君がライト前ヒットを打って、僕はホームに生還して勝ち越し。
ベンチに戻ると、チームのみんなが狂ったように喜んでるし、僕も嬉しかった。
三打席目は六回裏、また二死、ランナー無しで僕に打順が回って来たんだ。
試合は三対一で勝ってた。
「翔太、今日はお前、当たってるから、一発大きいの狙っていけ!」
なんて監督が言うから、三球続けてフルスイングしたら力が入り過ぎて三球三振だった。
ベンチに戻ると監督が、
「翔太、あんなこと言わなきゃ良かったな。
ゴメン、ゴメン」
って言って、笑ってた。
七回表はピッチャーの貴史君が無難に締めてX勝ち。
僕達のチームは、秋の新メンバーで初勝利を飾ったんだ。