母さんの病気
母さんが入院したのは、夏の大会二日前
だった。
僕はその日も、「デンジャラス」の練習に
参加して特訓してた。
僕がブルペンで投げ込みしてたら、監督が
慌ててやって来て、こう言ったんだ。
「翔太、お前の母さんが入院したらしいぞ。
今、病院から電話がかかって来てな、詳しい
ことは分からんが、命に別状はないらしい。
とにかく、お前、今直ぐ病院へ行け!」
「えっ?・・・」
って言ったまま、僕は茫然として口がきけなかった。
頭の中が真っ白になった。
僕は自転車に飛び乗って、直ぐに病院へ
向かったんだ。
監督が車で送るって言ってくれたけど、
「大丈夫です!」
って、僕は断わった。
グラウンドから病院までは、自転車で十分もあれば行ける距離だったんだ。
僕が慌ててたんで、
「翔太、落ち着け! 事故んなよ! 気をつけ
てな!」
って、監督が大声で僕の背中に声をかけてくれた。
僕は振り向いて、
「はい!」
って、返事したんだ。
◇◇
病院までの距離がやけに長く感じられた。
途中で信号待ちしてる間も、凄くイライラ
した。
『命に別状はない』
って監督は言ってたけど、僕は心配でたまらなかった。
[もし母さんが大怪我してたらどうしよう]
とか、
[体が不自由になったら、どうしよう]
とか、悪い方にばかり考えが行ってしまう
んだ。
必死で自転車を漕いでたら、涙が出て来て、前がよく見えなかった。
僕は手で、何度も目をこすったんだ。
病院の角を曲がる時、スピードを出して走って来た車に、激しくクラクションを鳴らされ
てヒヤリとした。
病院裏手の受付で、母さんの病室を聞いて、
僕は受付の人の制止も聞かず、階段を全力で駆け上がったんだ。
本館三階の『一三二四号室』。
僕は去年の夏、一度入院したことがあった
から、病室は直ぐに分かった。
◇◇
僕が息を切らして病室の入り口に立つと、
ベッドの上の母さんと、椅子に腰掛けて
母さんと話してた耀の母さんが、驚いた
様に僕を振り返ったんだ。
「母さん・・・」
って言って、僕は入り口に突っ立った。
そしたら、
「あら、翔太、来てくれたの?」
って、母さんが笑いながら言ったんだ。
僕はホッとして腰が抜けそうになった。
全身から汗が吹き出した。
「ごめんねー翔太、心配させちゃって。母さんちょっと目まいがして、お腹が痛かっただけ。検査も兼ねて入院したの。だから、心配しなくても大丈夫よ」
って母さんが言ったんだ。
僕がベッドに近づくと、耀の母さんが、
「翔太君、久しぶりね。ここに座って」
って言って、椅子をもう一脚出してくれた。
僕が椅子に座ると、母さんは僕を見て笑っ
てた。
「母さん・・・」
って言ったら、僕はまた涙が出て来て、
後の言葉が言えなかった。
[無事で良かった! 神様ありがとうござい
ます!]
って、僕は心の中で言ったんだ。
泣いてる僕を見て、母さんも目に薄っすらと涙をためてた。
母さんが僕を抱きしめてくれた。
僕は幸せな気持ちになったけど、
しばらく涙が止まらなかった。
「あらあら、こんなに汗かいて」
って言って、母さんが僕の汗と涙をタオルで
拭いてくれた。
「翔太君、ノド渇いてるでしょ? 私、飲み物買って来るわね」
って言って、耀の母さんが席を立った。
入れ違いに、知り合いの看護師さんが入って
来て、僕に白衣を着せ、手を消毒し、マスク
をつけてくれた。
僕が泥だらけのユニホーム姿だったから。
「翔太君、そんな格好で病室に入って来ちゃ
ダメよ」
って、叱られちゃった。
「ごめんなさい」
って、僕は謝ったんだ。
「もうホントに、すみません」
って、母さんも謝ってくれた。
看護師さんが病室を出て行くと、
「翔太、来てくれてありがとう。母さん凄く嬉しいわ」
って、母さんが言ったんだ。
僕はやっと落ち着いて来て、話しが出来るよ
うになった。
「母さんが入院したって監督から聞いて、
僕、ビックリして急いで来たんだよ」
「そうだったの、ゴメンね。母さん何かあっ
た時のために、監督さんの電話番号も緊急連
絡先に入れておいたの。たぶん病院の人は、
第一連絡先のあなたの携帯や、お祖父ちゃんの家に電話したと思う。でも、繋がらなかっ
たのね。第二連絡先の耀ちゃん家のもみんな留守だった。それで仕方なく、第三連絡先の
監督さんに電話したんだと思うわ」
「そっか、練習中だったから、僕携帯バッグ
の中に入れっぱなしだった。あっ、いけね、
バッグ、練習場に置いて来ちゃった。後で、
直君に電話しなきゃ」
「そうね、直君が後で、家まで届けてくれると良いわね」
「でも母さん、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫よ、今は落ち着いたの。母さんお昼前に、我慢出来ないくらいお腹がキリキリ痛み出したの。目まいがして冷や汗が出るし、顔が真っ青だったから、職場の人達が急患で診てもらえるようにしてくれたの。今日は、耀ちゃんの母さんが、久しぶりにオフだったから、この近くの和食屋さんでお昼をご一緒する予定だったんだけどね」
「ああそうか、それで、耀の母さんが来てたんだ」
「そう、私が和食屋さんに来ないし、電話に
も出ないから、心配して病院まで来てくれた
のよ。本当に耀ちゃんの母さんにも悪いこと
しちゃった」
「そんなにお腹が痛かったの? 母さん本当
に大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。さっき簡単な検査をした
んだけど、お医者さんは、軽い胃潰瘍だって
仰ってた。二、三日入院するだけで良いそう
よ。良い機会だし、明日から一応、精密検査
もすることになったの」
って母さんが言ったんだ。
「胃潰瘍って何?」
って僕は訊いた。
「胃潰瘍はね、胃の粘膜が弱くなって、胃壁
が傷つく病気なの。だけど翔太、心配しない
で。胃潰瘍は、今はほとんどお薬と食事療法で治る病気なの」
って母さんが言ったから、僕は少し安心したんだ。
◇◇
僕と母さんが話してると、耀の母さんが
スポーツドリンクを買って来てくれた。
「あら翔太君、だいぶ落ち着いたみたいね。
はい、コレ」
って僕を抱きしめて、僕の頭を撫でながら、
飲み物を渡してくれたんだ。
耀の母さんは、ゆったりとした夏物の
ワンピースを着てた。
いつ見ても綺麗だった。
耀の母さんが居ると、その場の雰囲気がガラリと変わるから、僕はいつも不思議なんだ。
「ありがとう」
って言って、僕はドリンクをゴクゴク飲
んだ。
「あー、おいしい!」
って僕が言ったら、二人とも笑ってた。
それから、母さんが入院中、僕がどうするかとかを、三人で少し話し合ったんだ。
お祖父ちゃん達には、遠いし心配させたくないから、このまま知らせないことになった。
僕は耀の家で食事だけして、自分の家で寝る
ことになったんだ。
母さんの着替えとかは、明日僕が持って来る
ことになった。
「じゃあ陽子さん、何も心配しないで、
ゆっくり休養してね」
「本当に、何から何まですみません」
「じゃあ、母さん、また明日来るからね!」
って言って、僕と耀の母さんは病室を出た。
◇◇
僕は耀の母さんと二人で団地まで帰った。
耀の母さんは歩きだったから、僕は自転車を押して、耀の母さんと並んで歩いた。
耀の母さんは、耀より少し背が高いんだ。
百六十五センチだって耀が言ってた。
「翔太君も大きくなったわね。耀と変わらないじゃない」
って耀の母さんが言ったんだ。
「はい、いや、うん。僕ね、耀と二センチ
しか違わないんだよ。今、百六十になった
んだ」
耀の母さんは僕が敬語を使うと、いつも、
『翔太君、私に敬語なんか使わないでね。
耀と話す時みたいに、普通に友達言葉で
話してね』
って言うんだ。
だから耀の母さんと話す時、僕はいつも友達言葉なんだ。
保育園の時からそうだから、僕もこっちの方が肩が凝らない。
「そう、翔太君の父さんも大きかったから、
あなたも大きくなるわね」
「耀もこの間、同じこと言ってた」
「あら、そう?」
耀の母さんは笑って、こう言ったんだ。
「耀がいつもお世話になってるわね。耀はいつもあなたのこと、家で話してるの。今日は翔太君が学校でああしたとか、こうしたとかって言ってね。気の強い娘だけど、これからもよろしくね」
「いやあ、僕の方こそ、いつも耀にお世話になってるし、こちらこそよろしくです」
って僕が言ったら、耀の母さんは笑ってた。
◇◇
しばらく、二人で黙って歩いてたら、
「陽子さん、少し痩せたわね」
って、耀の母さんが言ったんだ。
僕は毎日母さんを見てるから、全然気がつか
なかった。
「そう? 痩せてる? 僕、全然分からなかった。母さん大丈夫かなあ?」
って、僕が言ったら、耀の母さんはこう言ったんだ。
「精密検査の結果が出ないと、ハッキリしたことは言えないけど、体の方はたぶん大丈夫じゃないかな、問題は気持ちの方ね」
「えっ、気持ちって?」
「さっき、あなたが来る前、陽子さんと色々
話してたんだけど、彼女まだ翔吾さんのこと
心の中で整理しきれてないみたい。彼女の心
はまだ八年前のままよ。無理もないわ。だっ
て翔太君はまだ小さかったから、あなたを育
てて行くだけで精一杯だったと思うの。でも
陽子さんね、あなたが成長したから、手がか
からなくなって、『最近ようやく一息つける
ようになった』って言ってたわ」
「そう・・母さん、そんなこと言ってたの」
「ええ、それから、こんなことも言ってた。去年あなたの記憶が戻ってから、陽子さんも
翔吾さんのこと、よく考えるようになったっ
て。いまだに、翔吾さんが亡くなった実感が湧かないらしいわ。夢の中に翔吾さんが出て来た時は、いつも生きてる時と同じように会話してるって言ってた。目が覚めると、ようやく翔吾さんが亡くなったことを思い出すんですって。『私の心の中は、八年前と何も変わってない。翔太がいなければ、私、死んでたかもしれない』って言ってたわ」
「・・母さん、そんな気持ちだったんだ」
「仕方ないことなのよ。私が主人を亡くした
時もそうだったから。私だって、十二年経っ
ても、いまだに主人の死が信じられないの。
耀も私も苦しんだのよ。もっとも、耀が主人
の死を知ったのは物心ついてからだったわ。
保育園の時、自分が他の人達と違って、父親
がいないことに気づいたのね」
「僕去年、耀の気持ち聞いたよ。僕が入院し
た時、耀が話してくれたんだ。父親を亡くし
たこの喪失感は一生消えない。父親が居なく
ても、ちゃんと生きて行けるかどうか、自分
は神様から試されてるんだって、耀は言って
た。僕、耀の話を聞いて、凄く勇気が出たんだよ」
「そう、耀がそんな話をしたの」
耀の母さんは立ち止まって、少し驚いてた。
「うん、凄くためになる話しだった。
僕、耀に凄く感謝してるんだよ」
「あの子も、私が知らないうちに、
どんどん大人になってくわね」
って言って、耀の母さんは少し考えてた。
「人間の心の働きって、不思議よね。本当に
怖かったことや嫌なことは、なるべく忘れる
ように出来てるのね。翔太君が父さんの記憶
を失くしてたのも、さっきの陽子さんの話も
基本的には、同じような心の働きだと思う。
無理に思い出そうとしたり、無理に忘れよう
としても、駄目だと思うの。焦らず、自然の
流れに身を任せるのが一番良いのよ」
「うん、僕もそう思った」
「陽子さんのことは、あまり心配し過ぎない
ようにして。翔太君はこれまで通り、野球と
勉強を頑張ってね。陽子さんのサポートは、私が出来る限りのことはするから」
「本当?」
「私と陽子さん、境遇が似てるから、助け合
って行けると思うの。いくら仲の良い親子で
も、親としては、子供に言えない悩みもある
のよ。これからは、私が陽子さんの悩みをも
っとよく聞いてあげようと思うの。私の経験が少しでも役に立てばって思ってるの」
「子供に言えない悩みって何?」
「そうね例えば、学校のPTAの話とか仕事
の話、両親の将来の介護や、自分の健康の事
とか、色々あるのよ」
「そっかー、確かに僕じゃあ、相談されても
分からないね」
「そうよ、もっと色々あるのよ。陽子さんは
今、将来に対する色んな不安で胸が一杯一杯
になってるような気がするの。私も経験した
から分かるんだけど、私の場合はお祖母ちゃ
んが、側でサポートしてくれたから、大丈夫
だったの」
「僕のお祖母ちゃん達、遠くに住んでるから
なあ」
「人間はね、誰か悩みを聞いてあげる人が側
に居ないと駄目なのよ。友達でも家族でも、
誰でもいいの。心を許して話せる人が居ない
と自分を保って行けないの。胃潰瘍ってね、食生活の乱れが原因の場合が多いけど、心理
的ストレスが原因でなることも多いの。多分ん陽子さんは、何もかも全部一人で抱え込んじゃってるのよ。翔吾さんが亡くなってから
今日まで、親一人子一人の生活で、『自分が
しっかりしなきゃ』っていう思いが、凄く強かったと思うの」
「そう・・母さんの気持ち、僕、全然分かっ
てなかった。僕、今まで、母さんに甘えてばかりで・・・」
僕はまた涙が出て来た。
そしたら、耀の母さんが慌てて僕を抱きしめ
てくれた。
「ごめん、ごめん、翔太君のせいじゃないのよ。私、余計なこと言っちゃったわね。あなたはこれまで通りで良いの。心配しないで。
陽子さんは翔太君が生き甲斐なの。あなたの
喜ぶ顔が見たくて、いつも頑張ってるのよ。
だから、泣かないで」
僕は自転車のハンドルを握ったまま、耀の母
さんの肩のところに顔を当てて、しばらく泣
いてたんだ。
耀の母さんが僕の背中を優しく叩いて
くれてた。
しばらくして、耀の母さんがこう言っ
たんだ。
「翔太君、男の子は、あまり泣いたら駄目。
もっと強くならなきゃ。どんな困難が訪れて
もビクともしない強い男になって。あなたの
父さんみたいにね。陽子さんもあなたが悲し
む顔は見たくないの。だから、笑って」
「うん・・・分かったよ」
僕はアンダーシャツで何度も顔をこすって、
無理矢理笑ったんだ。
そしたら、泣きながら笑ってる僕の顔が可笑
しかったみたいで、耀の母さんは吹き出しな
がら僕の頭を撫でて、
「アハハ、翔太君、その調子よ!」
って言ったんだ。
僕も可笑しくなって吹き出しちゃった。
[耀も明るいけど、耀の母さんも明るい
なあ]
って僕は思ったんだ。
◇◇
団地に着くと、僕は耀の母さんと別れて
自分の家に帰った。
玄関のドアの前に僕のスポーツバッグと
バットケースが置いてあった。
バッグを開けて携帯を見てみると、不在着信が何件もあった。病院からと直君からだって
すぐに分かった。
直君からはショートメールも来てた。
〈翔太、忘れ物、母さん大丈夫?〉
〈大丈夫、軽い胃潰瘍だって。二、三日検査入院することになったけどね。野球の道具、
届てくれてありがとう!〉
って僕は返信したんだ。
高野監督にも電話して事情を説明した。
「そうか翔太、母さんの病気、軽くて良かっ
たな。俺も心配で、さっきからずっと気にな
ってたんだ。電話してくれて、ありがとな。
じゃあ、明日も練習来れるか?」
「大丈夫です。絶対行きます!」
って僕は答えたんだ。
シャワーを浴びてユニホームを洗濯機で洗ってから、僕は耀の家に夕飯を食べに行った。
◇◇
耀達は僕をとても歓迎してくれた。
その日の夕食は、僕の大好きなハンバーグと
炊き込みご飯だった。
ハンバーグには、デミグラスソースがたっぷ
りかけてあって、ニンジンとかポテトとか、
クレソンとかの添え物もあって、まるでレス
トランで出てくるような感じなんだ。
炊き込みご飯には、鶏肉と細かく切ったニン
ジンとかゴボウとか、シイタケとか銀杏とか
が入ってて、色どりも綺麗だった。
ご飯はきつね色で一粒一粒が光ってた。
耀の母さんが作ってくれたんだ。
頬っぺたが落っこちそうなくらい美味しくて
お腹も空いてたから、僕は炊き込みご飯を四杯もお代わりしちゃった。
「翔太、お代わりは?」
って耀が何度も訊いてくれたから、
僕はお代わりしやすかった。
食事の後、耀と二人で少し勉強して、
僕は家に帰った。
◇◇
母さんのいない家の中はガランとして、
魂が抜けてるような感じがした。
僕は問題集を予定の範囲までやって、直ぐに
ベッドに入った。
エアコンはドライにした。
寝る時は除湿にしないと体が冷え過ぎるから
って、母さんがいつも言うから。
だけど、僕はなかなか眠れなかった。
胃潰瘍のことをネットで調べたり、
[母さんの検査結果が悪かったら、どうし
よう]
とか、色々と考えちゃったんだ。
母さんが居ないから、トイレに行くのも怖かった。
でも疲れてたから、僕はいつの間にか眠っ
ちゃったんだ。
◇◇
翌朝、チャイムの音で目が覚めた。
寝ぼけ眼こすりながら、パジャマ姿で玄関のドアを開けると、耀が溢れるような笑顔で、朝食のお盆を持って立ってた。
「翔太、おっはよう! 朝食持って来たよ。
一緒に食べよ!」
って、耀は元気に言ったんだ。
僕達は二人でテーブルに着いて、朝食を食
べた。
耀はアメリカンサンドイッチを二人分持っ て来てた。
こんがりトーストしたパンに、レタスとトマ
トとベーコンと、スライスした茹で卵が挟んであって、ボリュームがあった。
カフェオレは耀が台所で作ってくれた。
たっぷりの牛乳にコーヒーを少しと、ハチミ
ツを入れてくれたんだ。
凄く美味しかった。
「検査の結果、何も無いといいね」
って、耀が言ったんだ。
「うん、だけど僕、心配なんだ。昨日ネット
で調べてみたけど、胃潰瘍から癌になるケースもあるって書いてあった」
「そう、心配ね。結果いつ出るの?」
「今日と明日で検査して、一週間後には
結果が分かるって言ってた」
「そう・・でも、もし検査結果が悪くても、
早期発見、早期治療が一番良いって私の母さん言ってたよ。お祖母ちゃんはね『陽子さん
まだ若いから、きっと大丈夫』って言ってた
よ。だから、あんまり心配し過ぎないように
しよう」
「うん・・・」
耀が自分の事みたいに心配してくれてるのが嬉しくて、僕はまた涙が出て来そうになったんだ。
だけど昨日、耀の母さんから、
『男の子は、あまり泣いたらダメ』
って言われてたから、僕はグッと涙を
こらえた。
[父さんみたいに、どんな困難にあっても、
ビクともしない強い男になるぞ]
って僕は昨日、心に誓ったんだ。
耀は僕が涙をこらえてるのを黙って見てた。
もう少しで涙がこぼれるところだったけど、
僕は必死で我慢した。
気持ちを静めた後、僕は耀を見て、
「分かったよ、耀、ありがとう」
って言ったんだ。
耀は、ニッコリ笑って頷いた。
母さんが退院したのは、夏の大会一日目の
お昼過ぎだった。




