源次郎丸対策
修学旅行も終わり、夏の大会まで二週間を
切った。
僕達「デンジャラス」は、日が暮れるまで
毎日猛特訓したんだ。
源次郎丸対策には特に力を入れた。
打撃練習では、源次郎丸の豪速球に対応するため、僕と木村君が、プレートの一、二メートル手前から投げた。
だけど、みんな源次郎丸のボールと違うって言ってた。
源次郎丸のボールは、もっと浮き上がって来る感じなんだ。
結局、緒方コーチがプレートから全力で投げた球が、源次郎丸のボールに一番近いってことになって、僕達は緒方コーチが投げた球を打つ練習を繰り返した。
みんなバットを短く持って、コンパクトにスイングし、バットにボールを当てる練習をしたんだ。
緒方コーチも毎日投げ過ぎてヘトヘトになってたけど、頑張ってくれた。
◇◇
みんな最初は怖がってた。
でも慣れてくると、タイミングの取り方が分かってきて、案外、簡単にミート出来るようになって来たんだ。
内野ゴロや、ポップフライばっかりだったけ
どね。
それでも、僕と木村君と英次君は、外野まで飛ばせるようになって来たんだ。
「みんな、いいぞ! これなら何とか戦え
そうだ!」
って、監督は喜んでた。
「バットを長く持って良いのは、翔太と木村と英次だけだ」
って、監督が言ってくれたんで、
僕は嬉しかった。
バットを短く持つと、僕はどうもスイングしずらかったんだ。
問題は源次郎丸のチェンジアップだった。
源次郎丸のチェンジアップは鬼塚君と同じで、ストレートと全く見分けがつかなかっ
たんだ。
「たぶん源次郎丸は、鷲掴みに近い状態で
投げてるんじゃないか」
って、緒方コーチは言ってた。
「基本的にはストレートにタイミングを合わせて、チェンジアップが来たらなるべく体を残して、カットするしかないな」
って緒方コーチが教えてくれたけど、みんな
なかなかそれが出来なかった。
突然チェンジアップが来ると、みんなタタラを踏んだようになって、体を残す前にスイングしちゃうんだ。
結局、監督がこう言ったんだ。
「仕方がない、チェンジアップは捨ててストレート一本に絞ろう。それからアイツは荒れ球だから内角も捨てよう。ぶつけられたら、たまったもんじゃないからな。ツーストライクまでは真ん中から外の球を狙うんだ」
◇◇
僕達の作戦はこうだった。
とにかく源次郎丸のボールをよく見て、
真ん中か、外角のストレートだけを狙う。
ツーストライクに追い込まれるまでは、
他の球は全部捨てる。
源次郎丸は荒れ球だし、痛いけど、死球か、フォアボールで出塁は可能だから、必ず得点
のチャンスはあるはずなんだ。
出塁したら、送りバントかヒッティングで
進塁を狙う。
ゴロを打ったら、 一塁まで全力疾走して
相手のミスを誘う。
ランナーが三塁まで進んだら、
スクイズで得点する。
だから僕達は、当てる練習とバント練習を
繰り返した。
実践形式で監督にサインを出してもらって、
スクイズの練習もたくさんやったんだ。
◇◇
たぶん、当日は聖司君と源次郎丸の投げ合いになるはずだから守備も重要だった。
連携プレーを確認し、ベースカバーや色々な場面でのセオリーを、監督がボードに書いて説明してくれた。
ゲッツーの練習や、相手のスクイズをハズす
練習もやった。
「とにかくノーエラーを目指そう。翔太、慌て過ぎて暴投すんなよ。みんな落ち着いて、一つ一つ確実に処理するんだ!」
って、監督が言ったんだ。
普段あまりノックをやらない監督も、
汗ダクでノックしてくれた。
緒方コーチは打撃投手をやって、疲れてたか
らね。
監督は太ってるけど、 実はノックが凄く上手いんだ。
キャッチャーフライなんかめちゃくちゃ高く上げれるし、野手のグラブの先をスレスレで抜けていくような打球を正確に打てるんだ。
「翔太、今の良かったぞー、座布団十枚だ! 次の取ったらハワイ旅行だぞ、アーッ! 一歩目が遅かった、チクショウ!」
とかって言って、僕が取れないギリギリの所にゴロやライナーを打ってくるから、楽しくて仕方なかった。
「監督、今のもう一本!」
って、僕も要求したんだ。
みんなで同じ目標に向かい、一致団結して
練習に取り組むのは、 何とも言えない充実
感があって楽しかった。
[やっぱり、野球って素晴らしい!]
って、僕は思ったんだ。
◇◇
練習が終わると家に帰ってお風呂に入り、
夕飯を食べた後、テレビも観ずにひたすら
受験勉強を夜中の十二時までやった。
受験勉強は毎日やるって、耀と約束してたか
らね。
練習がある日は、朝のランニングも、
自主練も休み。
栄養をたっぷりとって、しっかり休養しないと筋肉は発達しないんだ。
その代わり勉強して、頭を鍛えるんだ。
そうは言っても、疲れちゃって、机に突っ伏
して寝てしまう時もあった。
そういう時は、母さんがいつの間にかタオルケットなんかを僕の体に掛けてくれた。
目を覚ますと、僕は嬉しくてタオルケットを
抱きしめたんだ。
母さんの愛情を強く感じたから。
僕が起きない時は、
「ほらー翔太、 寝るならベッドで寝なさい」
って、母さんがベッドまで僕の体を支えて運
んでくれた。
僕はそういう時、 赤ちゃんになった様な気分で母さんに抱きついて甘えたんだ。
「あらあら、体は大きくなっても、心はまだ
赤ちゃんね」
って、母さんは笑ってた。




