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スラッガー⚾️  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
23/29

受験勉強開始

四月、桜満開の季節。


小学校生活最後の一年が始まった。

僕は野球も勉強も頑張ろうって、張り切ってたんだ。


チームの仲間達は、私立中学を受験するメンバーがほとんどだったけど、僕と耀は一緒に地元の公立中学に入学する予定だった。



学校の帰り道、耀に聞いたら、桜ちゃんと

美優ちゃんも私立を受験するらしかった。

学校の周りに植えられた桜の木から、花び

らがチラチラと舞い降りて来て綺麗だった。


「みんなバラバラになっちゃうね。寂しい

なあ」


って僕は耀に言ったんだ。


「そうだね、でも仕方ないよ。みんな家庭

の事情がそれぞれあるから」


って耀は答えた。


「僕の家は、私立に行けるほど裕福じゃないしなあ」


「私の家もそうだよ。公立の中高一貫(いっかん)校だったら授業料とかも安いし、行けるかもしれないけど、競争率高いし、塾に通わないと無理だよね」


「うん、塾に入らないと合格は難しいよね」


「人生って、不思議よねー。塾に入るか入らないかで、今後の運命が大きく変わってくるんだから」


「だけど何でみんな、中学受験なんてするのかな?」


「そりゃあ、中学受験で頑張っておけば、

高校受験で苦労しなくてすむからよ」


「どういうこと? 僕、よく分からないんだ。何でみんな塾に通って、あんなに一生懸命

勉強してるんだろう?」


「高校受験は必ずしなきゃいけないでしょ?

翔太も私も、四年後には必ずどこかの高校を

受験するはずよ」


「うん、それは分かるんだけど・・・」


「あのね、公立を受ける人も私立を受ける人も、みんな中高一貫校を受験するの。そうすれば高校受験しなくてすむでしょ?」


「ああそうか、じゃあ、私立を受ける聖司君や直君達は中高一貫校を目指してるわけか」


「そうよ、有名私立中学に合格できれば、大学への進学率も高いし、もしそこが大学付属校だったら、大学まで自動的に上がって行けるの。高卒で就職する場合や専門学校に行くなら話は別だけど、最終的には、みんな良い大学に行って、良い会社に就職して、幸せになりたいから、みんな目の色変えて頑張ってるのよ」


「へーっ、そうなの? みんな、そこまで考えて勉強してたんだ。凄いねー!」


って僕が言ったら、耀は可笑おかしそうに笑ってこう言ったんだ。


「まったく、翔太はのん気者ね。そんなこと

も知らなかったの? もっと自分の人生のこと

真剣に考えなきゃダメじゃない」


「あっ、はい・・・すみません」


って僕が言うと、耀はこう言ったんだ。


「ねえ、私達も中学受験にチャレンジしてみない? 一緒に公立受けようよ! せっかくの

チャンスなんだし、指をくわえて見逃すのってくやしくない?」


「えーっ、マジで言ってるの?」


って、僕はビックリしたんだ。


「うん、本気よ! 塾に入らなくても自宅学習で頑張って、公立中高一貫校に合格した人がクラブの先輩にいるの。その人は、適性試験や過去問の問題集を買って来て、ひたすら家で勉強したって言ってたわ。翔太、私達もやってみようよ!」


って、耀が言ったんだ。


「えーっ、でもー」


って、僕が迷ってると、耀は有無うむを言わさずこう言ったんだ。


「翔太あのねえ、聖司も直樹も受験勉強しながら、野球も頑張ってるのよ。翔太も頑張らないとあの二人に笑われちゃうよ。翔太だって塾に行ってないわりには、けっこう成績良いんだし、一緒に頑張ろうよ。落ちたら落ちたでいいじゃない。高校受験の練習にもなるし、チャレンジすることが大切なの」



◇◇



問題集は、耀が僕の分もまとめて買って来てくれた。


僕達は学校の勉強が終わったら、毎日問題集に取り組む約束をしたんだ。


毎晩遅くまで頑張った。


直君達に負けたくないっていう気持ちもはたらいたんだ。


実力を知るために、僕も耀も模擬もぎ試験だけは受けることにした。


僕が公立を受けるって言ったら、母さんは目を丸くして喜んでくれた。



◇◇



最初は問題が難し過ぎて、全然分からなかったから、二人とも泣きそうになったんだ。


だから始めのうちは、答えを見ながら二人で問題を解いてた。必死で解き方を理解するようにつとめたんだ。


慣れてくると、考え方が分かるようになってきて、時間をかければ、答えを見なくても、一人で解けるようになった。


こうして僕達は、時々お互いの家を行ったり

来たりしながら、勉強を教え合い、自宅学習

を続けたんだ。




◇◇



でも、五月に初めて受けた模擬試験では、

二人ともさんざんの成績だった。


偏差値はボロボロ、合格率も、僕が三十五%で耀は四十五%、二人とも完全に自信を無くしちゃったんだ。


「僕達、勉強を始めたのが遅すぎたよね。

みんな三年とか、四年の時から塾に通って

頑張ってるんだもん、とてもかなわないよ」


って僕が言ったら、耀はこう言ったんだ。


「翔太、ドンマイ、ドンマイ。あまり落ち込まないで。私ね、この一月半ひとつきはん、受験勉強して本当に良かったって思ってるの。これまでは学校の勉強だけだったけど、今は目標が出来て、気持ちに張り合いが出来た。桜や美優の気持ちも分かったしね」


「うん、たしかにそれは言える」


「私ね、受験勉強してみて思ったの。合格することも大切だけど、一番大切なのは勉強を続ける気持ちなんじゃないかって。そりゃあ公立の中高一貫校に合格出来たらそれが一番良いよ。だけど私、もし落ちたとしても良いと思ってるの。大切なのは勉強を続けて行くことなの。学ぶ気持ちを持って、一生いっしょう勉強を続けて自分を高めていくのよ」


「えーっ、一生受験勉強するの?」


「違うよ、馬鹿ね。目標は受験に限らず何で

もいいの。英検でも漢検でも何でもね。でも

今は中学受験を頑張るの。桜達も言ってたけ

ど、もし今回、私立に落ちても、高校受験で

必ずリベンジするからって。もし受かっても

中学、高校、大学、社会人って、一生勉強は

続いて行くのよ」


「えーっ! 一生これが続くのかあ。大変だ

なあ。僕、今だけかと思った」


「馬鹿ね、時々は休めるわよ。今は受験まであまり時間がないから大変なだけ。とにかく最後まであきらめずに頑張ろうね! 分かった?」


「うん、分かったよ」


って僕は答えたんだ。




◇◇



耀が言う様に、僕も気持ちに張り合いが出来て、何だか勉強するのが楽しくなって来てたんだ。


直君達がこれまでどんなプレッシャーを感じ

てたのかも分かったしね。


直君達は、たぶん僕に気を使って、これまであまり僕の前では、受験の話はしなかったと思うんだ。



僕が受験するって言ったら、二人は僕と握手したりハグしたりしてとても喜んでくれた。


直君は、


「そうか翔太、お前もやっと勉強やる気になったか!」


って、言ってくれた。


聖司君も、


「偉いぞ、翔太! 俺達は私立コースだけど

将来は一緒に良い大学入ろうな! お互いに

頑張ろうぜ!」


って、言ってくれたんだ。



◇◇



僕と耀はその後もメゲずに受験勉強を続け、修学旅行前の七月の模擬試験では、かなり

成績が上がって来たんだ。


過去問かこもんの解き方もパターンが分かってきて、問題を一目見ただけで、出題意図しゅつだいいとが分かる

ようになって来た。


今回の合格率は僕が五〇%で、耀は六〇%

だった。


「私達、何とか戦えそうね。公立は私立と違って内申点ないしんてんがあるから、私達合格の可能性あるかもしれないよ」


って耀が言ったんだ。


「えっ、内申点って何?」


って僕は聞いた。


「内申書に基づいて算出される点数のこと。私立の場合は本当の学力が物を言うの。本番一発勝負で合否ごうひが決まるから内申書はほとんど関係ないの。だけど公立は内申点が二〇%から三〇%を占めるのよ。五、六年生の時の成績表で決まるらしいわ」


「そうなんだ、だけど僕達の内申書って高い点取れるのかなあ?」


「翔太も私も結構良いと思うよ。だって私達よく出来ましたの◎(二重丸にじゅうまる)がかなり多いでしょう? あれを点数に換算するらしいの。後は欠席が多くないかとか学校での活動とか色々あるらしいけど、私達出席率も良いし、学級委員とか結構やってるから、自信持って大丈夫だと思う」


「そっかー! 分かった。じゃあ僕、もっと

頑張るよ!」


って、僕は元気良く言ったんだ。

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