自主トレとお正月と耀との初詣
僕のチームは十二月と一月は、オフシーズン
で練習は休みになるんだ。
監督は個人で走り込んだり、バスケとか水泳
とか他のスポーツもやって、基礎体力をつけ
るようにって指導してるんだ。
勉強も頑張らないといけないしね。
でも「ブラックホークス」とか、他のチームは一年中練習したり試合したりしてるんだ。
「一年中休まない方が良いのか、オフを入れ
た方か良いのか俺にもよく分からない。でも
俺達は心にゆとりを持って、アメリカ方式で
行こう。オフが終わったら、どんな取り組み
やスポーツをしたか、一人ひとり聞かせても
らうからな、勉強も頑張れよ!」
って、監督は言ってた。
僕達は二カ月も休むから、二月になっていきなり全力投球したり、フルスイングしたりすると故障するリスクもあるんだ。
だから、キャッチボールとか素振りだけは、
たまにやるようにって監督は言ってた。
でも危険だから、絶対に道路でやるな、
運動場でやれって。
「道路でキャッチボールして通行人に怪我でもさせたら、指導者の俺と緒方君の責任になるからな。俺達に恥をかかせるなよ。俺達は道路族じゃないんだ。道路でキャッチボールしてるヤツを見かけたたら直ぐ俺に報告してくれ。俺が警察に通報して、成敗してやる!
キャッチボールは絶対に運動場でやれ!」
って。
◇◇
僕は三年生の冬は、土日に市民プールで水泳
をやったんだ。
四年生の時は、ひたすら硬式テニスのカベ打ちをやった。
今年はピッチャーも始めたし、この冬は走り込むことにした。
聖司君は一年中、毎朝十キロも走り込んでる
って聞いたから、僕も負けられないと思った
んだ。
僕はとりあえず、毎朝五キロから始めること
にした。
雨や雪の日は休み。
最初は寒くてキツいから、何度も心がくじけ
そうになった。だけど慣れると、走るのが楽しくなったんだ。
クリスマスが終る頃には、五キロ走り終わる
と近くの神社で階段ダッシュまでやるように
なってた。
◇◇
大晦日は、耀の家でテレビを観て過ごした。
耀のお祖母ちゃんと僕の母さんは、
おせち料理を作るのに忙しそうだった。
みんなでコタツに入って、ミカンとかおせちを食べながら、紅白を観て過ごしたんだ。
耀の母さんは、ベートーベンの『第九』の演奏があるから居なかったけど、夜の十二時頃にはテレビに映ってた。
耀の母さんが所属してる楽団の演奏がテレビ中継されたんだ。
僕と耀は、
「徹夜する」
って言って、頑張ってた。
だけど年越しソバを食べた後、いつの間にか
二人ともコタツで寝ちゃったんだ。
◇◇
翌朝、僕が目を覚ますと、耀はもう出かけちゃってた。
耀はお雑煮を食べると直ぐに、着物の着付けと髪のセットに行ったんだって。
母さんにお雑煮を作ってもらって、
耀のお祖母ちゃんと一緒に三人で食べた。
焼いたお餅が入ってて、凄く美味しかった。
「明けましておめでとう、今年もよろしく
お願いします!」
って、三人で新年のあいさつをしたんだ。
母さんは昨日、一度家に帰って寝てから、
また来たって言ってた。
◇◇
食事が終わると、僕は家で着替えて、
ロードワークに行ったんだ。
五キロ走り終わって近所の神社まで行くと、その日は元旦で参拝客がたくさん並んでた。
階段ダッシュは諦めて、代わりに僕は学校の側の坂道をダッシュしたんだ。
三十メートルを五本くらいやって、
家に帰った。
耀の家に行ってみたけど、耀はまだ帰ってなかった。
◇◇
何もやる事が無かったから、僕は運動公園に行って投球練習をやってた。
すると耀から、僕の携帯に電話がかかって来たんだ。
「ねえ翔太、初詣行こうよ! 今、桜と美優も一緒、後で聖司と直樹も来るって。 翔太もおいでよ、八幡宮で待ってるから」
って、耀は一方的に喋って電話を切っちゃったんだ。
だから僕は、もう一度家に帰って着替えてから行くことにした。
耀達は着物だし、僕はどういう格好で行けば良いのか分からなかった。
だから、母さんに相談したんだ。
「あなたは男の子だから、別に普段着で良いんじゃない」
って母さんが言ったから、僕はジーンズと
スタジャンで行くことにした。
寒いからマフラーと手袋をつけた。
◇◇
バスに乗って八幡宮まで行ったら、参道の入口の大きな鳥居の所で耀達が待ってたんだ。
人が多くて混み合ってた。
僕が全く気づかずに、耀達の前を通り過ぎようとしたら、
「おい、翔太、どこ行くんだよー!」
って、直君に呼び止められた。
耀達は大笑いしてた。
耀達は着物を着てて背も高いし、髪型とかもいつもと違うから、僕は全然気づかなかったんだ。
大人の人達かと思ってた。
「翔太って、ホント天然だよねー。私達さっきから手を振ってるのに全然気づかないんだもん」
って、桜ちゃんに言われちゃった。
「ごめん、大人の人達が他の人達に手を振ってるのかって思ったんだ」
って言うと、またみんなに笑われちゃった。
「まったく、翔太は正月から大ボケだなあ。まあ良いや、さあお参りしようぜ」
って、聖司君が言ったんだ。
◇◇
聖司君は羽織袴を着てたけど、直君は僕と同じような服装だったからホッとした。
耀達は明るい色の綺麗な振り袖を着て、
白い足袋に、踵の高い草履を履いてた。
三人とも、白いフワフワした肩掛けをして、小さな和風のバッグを持ってた。
髪も綺麗にセットしてカンザシをつけてた。
唇が紅かったから、少しお化粧もしてるみたいだった。
みんな凄く綺麗で高校生くらいに見えた。
僕は恥ずかしくて、耀の顔をまともに見れなかったんだ。
入口の鳥居から本殿までは、百メートルくらいの距離があって、たくさんの参拝客が長い列を作ってた。
参道の両側には屋台がたくさん並んでた。
僕達は参拝するまで一時間くらい並んでたから、時々、交代でタコ焼きとかチョコバナナを買って来て食べたんだ。
◇◇
やっと僕達がお参りする番になった。
僕達は二人ずつに分かれてお参りしたんだ。
聖司君と桜ちゃん、直君と美優ちゃん、
僕と耀の順でお参りした。
最初にお賽銭を入れて、鈴を鳴らして、二回お辞儀して、柏手を二回打って、手を合わせてお参りして、また一礼して終わりなんだけど、僕はよく分からなかった。
耀を横目でチラチラ見ながら真似してたら、耀がクスクス笑い出して、
「もう翔太、笑わせないでよ!」
って、小声で僕に注意したんだ。
僕も可笑しくなって、
「ごめんね」
って、笑いながら謝ったんだ。
◇◇
お参りが終わると、みんなでおみくじを引いたんだ。
僕と耀と桜ちゃんは中吉、直君は小吉、
美優ちゃんと聖司君は大吉だった。
「チェッ、おみくじなんて嫌いだ!」
って直君が言ったから、みんな吹き出しちゃったんだ。
みんなでお守りも買ったよ。
聖司君は破魔矢まで買ったんで、
「おおー」
って、みんな驚いてた。
それから、みんなで記念撮影をしたんだ。
みんな携帯で何枚も撮ってた。
直君がおどけて、ウサイン・ボルトのポーズ
をしたら、みんなも真似して色んなポーズを
やり出したから可笑しかった。
みんなで公園まで行ってみようってことになって、八幡宮の近くの川沿いに広がる大きな公園を散歩したんだ。
公園にもたくさんの人がいて、屋台もたくさん並んでた。
羽子板をやってる人達もいた。
さっきお参りした組合せで自然に歩いてたら
耀が他の組に手を振って、僕の腕を掴んで池の方に連れて行ったんだ。
「えっ、 みんなと一緒に行かなくていいの?」
って僕が聞いたら、
「いいのよ、バカね」
って耀が言ったんだ。
[これがグループ交際ってやつか]
って、僕はずいぶん後になってから気がついたんだ。
今思い返せば、あれから僕達は、あのメン
バーで、遊園地や映画館によく行くように
なったんだ。
だから、その時の初詣が僕と耀の初デートっ
てことになる。
◇◇
耀と二人で池の周りをゆっくり歩いてたら、
耀がこう聞いたんだ。
「ねえ翔太、さっき神社で何てお祈りしたの?」
「うーん、よく覚えてないけど、みんなが幸せになりますようにって感じのことかな」
「翔太は優しいのね。私は何てお祈りしたと思う?」
「うーん、えーっと、分からない」
って僕が言うと、
「知りたい?」
って耀は聞いたんだ。
「うん、知りたい、知りたい、耀は何てお祈りしたの?」
「教えてあげない」
って耀が言うから、
「えっ、何で? 教えてよ」
って僕はお願いしたんだ。
そしたら、
「じゃあ、教えてあげるね、翔太達が県大会に行ったらね」
って言って、耀は悪戯そうに笑ったんだ。
「えーっ、ズルいよ、そんなの!」
って、僕は文句を言ったんだ。
屋台でクレープを買って、とりとめもない話をしながら、公園のベンチに二人並んで座って食べた。
耀達はこれからサッカークラブの新年会に行
くって言うから、バス停まで送って行った。
みんながバス停で僕達を待ってた。
聖司君は親戚の家に行くから、先に帰ったらしい。
僕達野球チームの新年会は、五日に監督の家でやることになってたんだ。
みんなと別れて、僕は直君と八幡宮近くの
バッティングセンターに行って汗を流した。
◇◇
家に帰ると、母さんとお正月番組を見ながら
おせち料理をお腹一杯食べた。
クタクタに疲れてたから、僕は早めにお風呂に入ってベッドに横になった。
翌日は朝早くから、お祖父ちゃん達の家に行くことになってたんだ。
僕は昼間の初詣のことを色々と思い出しながら眠りについた。
みんなの笑顔が目に浮かんだ。
着物を着た耀の姿が目に焼きついて、
頭から離れなかった。
[耀は、何てお祈りしたんだろう?]
って、僕は気になって仕方なかったんだ。




