耀たちの県大会
十一月後半になると耀達のサッカーチーム、
「アストラル」は市のU12(十二歳以下)のBブロックを通過し、今年も県大会に出場したんだ。
地区大会も県大会も僕は野球チームの練習日が重なって、ほとんど応援に行けなかった。
たけど耀達が準決勝まで進出すると、商店街には横断幕がかけられて、地元も大いに盛り上がった。
僕達野球チームも練習を休んで、県立競技場まで応援に行ったんだ。
◇◇
耀達の準決勝の相手は、「ヴェント」っていう強豪チームだった。
耀はこの試合で、一ゴール、二アシストの
大活躍。
三対二で勝利して、チーム創設以来、三十年振りで決勝に進出したんだ。
決勝点は耀が決めたんだよ。
最初の二点は耀のアシストで桜ちゃんと美優
ちゃんが決めてた。
後半同点に追いついかれた後、耀は残り時間
一分で、前線まで出て行って、美優ちゃんに
ヒールパスしたんだ。
美優ちゃんは、ゴール右手にいた桜ちゃんにすかさずパス。
桜ちゃんは胸でトラップした後、ゴール前に突進して来た耀に鋭いパスを送ったんだ。
耀は思いっ切りジャンプしながら、右足で
ボレーシュートをゴール左隅に叩き込んだ。
耀は蹴った後、グラウンドに横向きに転がって一回転したんだ。
アッという間にの出来事に、観衆も一瞬息を呑んだ。
耀が立ち上がり、ガッツポーズして飛び上がると、ドッと歓声が起きた。
三人の見事な連携プレーに、観客も興奮してた。
相手の選手達は、芝生に寝転がって悔しがってた。
試合終了のホイッスルが鳴ると、地元側の
スタンドはお祭り騒ぎだった。
僕も直君や聖司君達と抱き合って、
飛び上がって喜んだんだ。
試合が終わると耀達は、僕達が応援してる観客席の真下まで来てくれて、とびっきりの笑顔で手を振ってくれたんだ。
耀と桜ちゃんと美優ちゃんは、三人で肩を組んでた。
その後三人は、勝利のダンスを楽しそうに踊ったんだ。
カッコ良かったよ。
[サッカー選手って、開放的で良いなあ]
って、僕は思ったんだ。
◇◇
準決勝が終わると、決勝戦までまだ大分時間があった。
僕は耀に差し入れを持って行ったんだ。
一人で行くのは恥ずかしいから、
聖司君と直君について来てもらった。
耀は桜ちゃんと美優ちゃんと一緒に、選手控え室から出て来ると、僕達を見て、
「翔太達、やっと応援に来てくれたんだね」
って、言ったんだ。
「遅くなってごめんね。さっきの試合、凄かったね。僕達、感動したよ」
「私達、どうしても困った時は、あれをやろうって決めてたの。あのプレーは三人で何回も練習したんだ。本番で決めれて良かった」
って、耀は嬉しそうに言ったんだ。
「そうだったんだ、凄いね。みんな驚いてたよ。決勝戦も頑張ってね!」
って言って、僕は母さん手作りの唐揚げと、耀が好きなマカロンを渡したんだ。
「あーっ、唐揚げだ! ありがとう、私これ好きなんだ。あっ、マカロンも!」
「野球の時のお返しだよ」
「嬉しい! 私達、これ食べて頑張るよ。翔太の母さんに、ありがとうって言っといてね」
僕達はしばらく三人と談笑したんだ。
僕は耀と、聖司君は桜ちゃんと、直君は美優ちゃんと話してた。
僕達がスタンドに戻る前、耀は僕にこう言ったんだ。
「翔太、パワーちょうだい」
「えっ?」
って、僕が首を傾げると、
「手、出して」
って、耀が言ったんだ。
僕が右手を差し出すと、耀は僕の手を握手するように両手で強く握って、しばらく目を閉じてじっとしてた。
「よし! これで大丈夫。翔太のパワーもらったよ。見ててね、私、頑張るから!」
耀はニッコリ笑って、元気よく言ったんだ。
◇◇
耀達の決勝の相手は、「レガシー」っていう県大会で何度も優勝したことがあるチームだった。
緊迫した試合だった。
両チームともシュートは打つけどゴールポストに嫌われたり、キーパーがファインセーブを連発したりして、なかなか点が入らなかったんだ。
耀も三本くらいシュートを打ったけど、
大きく枠を外れて全然ダメだった。
耀に対するマークがキツ過ぎたんだ。
だけど後半五分、とうとう相手チームに一点先制された。
ゴール前の混戦からの失点だった。
その後、相手は守りを固めて来たんで、
耀達はなかなか得点できなかった。
時々カウンターを食らって、防戦一方になる場面もあって、ヒヤヒヤした。
「戻れー!」
とか、
「行けー!」
とか叫び過ぎて、僕達はノドが枯れちゃったんだ。
そのまま試合が進んで行って、残り五分を切った時だった。
時間がだんだん無くなって来て、耀達も焦ってた。
だけどここで、耀がまたやってくれたんだ。
耀は中盤で受けたボールを、そのままドリブルで中央突破して、ペナルティーエリアまで持ち込んだんだ。
相手チームは、耀の予想外の動きに対応できなかった。
耀は三人抜いた後、横から来た四人目をかわしてシュートを打とうとしたんだけど、四人目のディフェンダーが滑り込んで、後ろから耀の左脚にタックルする形になった。
すると、主審のホイッスルが鳴って、耀達は試合終了間際に、とうとうペナルティキックを獲得したんだ。
耀は最初、グラウンドに転がって痛そうにしてたけど、直に立ち上がってガッツポーズしてた。
大丈夫そうだったんで、僕はホッとした。
キッカーはもちろん耀が務めた。
僕は心臓がドキドキして、居ても立っても居られない気持ちだった。
両手を胸の前に組み合わせて、祈るような気持ちで見てたんだ。
[神様お願いします、どうか耀に力を与えて下さい!]
って、僕は実際に祈ってた。
蹴る前に、耀は深呼吸してた。
それから一度空を見上げたんだ。
そしてボールに視線を戻し、耀はスタートを切った。
耀が勢いよく蹴ったボールは、ゴールど真ん中の少し上だった。
ボールを蹴った時の、
「ボン!」
っていう音が、スタンドまで聞こえるくらいの強烈なシュートだった。
左端を予想してダイビングしてたキーパーは
空中で左足を伸ばして止めようとしたけど、
届かなかった。
一瞬後、耀の蹴ったボールはゴールネットを揺らしたんだ。
耀はゴールを決めた後、グラウンドに両膝をついて、神様に感謝するように両手を組み合わせ、天に向かって突き上げた。
そしたらチームの仲間達が駆け寄って行って
耀は揉もみくちゃになったんだ。
地元側スタンドはみんなその場で飛び跳ねて大喜び。
まるで優勝したような大騒ぎになった。
僕もチームの仲間達と抱き合って、
飛び跳ねて喜んだ。
聖司君も直君も嬉しくて泣いてた。
僕も感動して泣いたんだ。
その後、試合は延長戦にもつれ込んだ。
両チームともヘトヘトに疲れててて、
まさに死闘って感じだった。
みんな気力だけで闘ってた。
耀も左脚が痛そうだったけど、
最後まで頑張った。
でも結局、延長前半も後半も、両チーム共に
無得点でPK戦になったんだ。
流れは完全に耀達の方に来てた。
だけど、勝利の女神は耀達に微笑まなかったんだ。
PK戦では、耀も桜ちゃんも美優ちゃんも得点を決めたけど、最後は六年生キャプテンの愛ちゃんが蹴ったボールが、敵のキーパーにファインセーブされて、耀達は負けちゃったんだ。
地元スタンドの声援もその瞬間、ため息に変わった。
相手チームは大喜びでグラウンドを駆け回ってた。
相手側スタンドはさっきの僕達みたいに大騒ぎしてた。
愛ちゃんは、グラウンドに崩れ落ちて泣いてた。
チームのみんなが駆け寄って行って、
愛ちゃんを慰めてた。
負けたのは愛ちゃんのせいじゃないって、
観客のみんなも分かってた。
PK戦は運の部分が強すぎるよ。
メッシやロナウドだって、PKは外すこともあるんだから。
愛ちゃんはキャプテンとして、チームを見事にまとめてた。
ディフェンスラインを完全にコントロールしてたんだ。
愛ちゃんがいなければ、耀達はもっと早く負けてたかもしれないんだ。
僕たち野球チームの仲間たちは、
「チックショー!」
って、最初は茫然としてたけど、
「よく頑張った、偉いぞアストラル!
ありがとう!」
って、直君が大声で叫んだんだ。
するとスタンドのいろんな場所から、
「愛ちゃん、泣くな!」
「よく頑張ったぞー! 愛ちゃん!」
「耀ちゃんもよくやった、偉いぞ!」
とかって、いろんな声援が飛んできて、
自然に拍手が沸き起こったんだ。
観客は選手達の激闘に圧倒され感動してた。
みんな選手達に感謝の気持ちを伝えたかったんだ。
[サッカーって、素晴らしい!]
って、僕は心の底から思ったんだ。
◇◇
試合が終わってしばらくすると、表彰式が始まった。
愛ちゃんは準優勝の盾を貰って、盾にキスしてた。
もう泣き止んで笑顔に戻ってた。
愛ちゃんはもともと明るい性格なんだ。
耀はね、大会の得点王で表彰されたんだよ。
得点王のトロフィーを貰って耀もトロフィーにキスしてた。
耀は最初の二試合で四得点、準決勝と決勝で一点ずつ得点したから、合計六得点で得点王に輝いたんだ。
表彰式まで僕も知らなかったんで、
「今大会の得点王は、アストラルの海野耀さんです!」
って、アナウンスされた時は驚いた。
僕は自分のことのように嬉しくて、
誇らしい気持ちになったんだ。
◇◇
表彰式が終わってみんなで記念撮影した後、
耀達は地元側応援席の真下まで来てくれた。
チームのみんなで一斉に頭を下げて、地元の応援団にお礼の挨拶をしたんだ。
地元のみんなは、大盛り上がりで、
拍手喝采してた。
「耀! おめでとう!」
「桜! 美優! カッコ良かったよ!」
「愛ちゃん! 最高!」
とか、みんな大声で叫んでた。
僕も、
「耀! 耀!」
って叫んで、一生懸命手を振ったんだ。
そしたら耀は、ニッコリ笑って僕に手を振り返してくれた。
投げキッスまでしてくれたんで、僕は少し目が点になったんだ。
聖司君と直君が、僕の背中を叩いて爆笑し
てた。




