父さんの声
実は、退院してしばらく経ってから、母さんが僕に、父さんの若い頃の写真を見せてくれたんだ。
父さんの写真は全部焼き捨てたって、前に母さんは言ってたけど、本当は、父さんの写真は家にたくさんあったんだ。
母さんが押入れの奥から出して来てくれた。
父さんが学生服を着てる写真や母さんと付き合ってた頃の写真、会社の仲間達との写真や結婚式の時の写真なんかもあった。
僕が生まれた頃の写真もあったよ。
父さんは僕を抱いて、嬉しそうに笑ってた。
父さんが野球のユニフォームを着てる写真もたくさんあった。少年野球の頃の写真なんて僕とそっくりなんだ。
「親子って、何でこんなに似るのかな?」
って、僕は母さんに訊いたんだ。
「遺伝って言うのよ。あなたの体には父さんの血が流れてる。もちろん、私の血も流れてるわ。だから、親子は似るの。あなたの顔や体型は父さんそっくり。たけど肌の白さと目と口は私にそっくりね」
って、母さんが言ってた。
だから母さんは、僕を野球チームに入れる時
こう思ったんだって。
「あなたは父さんの子だから、野球をやればきっと上手くなると思った。あなたが、どうしても嫌だったら止めてもいいと思ってた。だけど、あなたは一生懸命練習して上手くなった。あなたの投げ方や打ち方は父さんそっくりよ」
◇◇
ハロウィンが終わって十一月も中半になると僕は母さんと一緒に父さんのお墓参りに行ったんだ。
父さんのお墓は、他県に住んでるお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの、家の近くの、大きなお寺の中にあった。
母さんは今まで、父さんのお墓参りをする時は僕に内緒で行ってたんだ。
お墓には、
『山野家之墓』
って、書いてあった。
下の方を見ると、
『山野翔吾』
って、父さんの名前が書いてあった。
僕はその文字を見た時、父さんに申し訳ないような気持ちになったんだ。
だって僕は、父さんのことを七年間も忘れてたんだもん。
父さんがひっそりとこの場所で、僕を七年間も待っててくれたような気がしたんだ。
[ごめんね、父さん]
って、僕は心の中で呟いたんだ。
僕が手を合わせて黙ってうつむいてると、
「翔太、大丈夫?」
って、母さんが訊いたんだ。
「うん、大丈夫。今、父さんに忘れててごめんねって、謝ってたんだ」
「翔太、謝らなくてもいいのよ。先生が仰ったでしょう? 思い出すことの方が奇跡なんだって。あなたは何も悪くないの、父さんもきっと分かってくれるわ」
「そうかなあ」
って僕が言うと、
「そうよ、自分を責めたらダメよ。父さんも決して喜ばないわ。あなたが父さんの記憶を無くしてたのは自然な心の働きなの。だからあなたは何も悪くないの。前にも話したけど父さんはいつも前向きな人だった。ポジティブ思考でいつもニコニコ笑ってたのよ。あなたも父さんみたいに強くなって」
って、母さんが言ったんだ。
「うん、分かった。僕、やってみるよ」
って、僕は答えたんだ。
お寺を出る時、参道の周りに銀杏の葉っぱがたくさん落ちてて、黄色い絨毯を敷き詰めたようになってるのに気づいたんだ。
その黄色い絨毯がやけに鮮やかで、まるで黄金色に光っているように眩しく見えた。
来た時はあんまり気にしなかったけど、帰りは少し風が吹いて、黄色い銀杏の葉っぱが、ハラハラとたくさん舞い降りて来たんだ。
母さんは空を見上げて、
「うわー、綺麗ねえ」
って言ってた。
僕はその時、何だか不思議な気持ちになったんだ。
まるで父さんが空から、
『翔太、元気を出せ』
って、語りかけてくれてるような感覚だったんだ。
[分かったよ、父さん、ありがとう]
って、僕は心の中で呟いたんだ。




