殺したくない死神
とある家の前に女性がいる。
彼女は死神だ。
今日は少女の命を刈り取るためにやってきた。
そして、死神はドアを開ける。
家の者はドアを開けられたことに誰も気づかない。
死神はまっすぐ、少女の部屋の前まで行く。
部屋のドアの前に立ちドアを開けると、
そこには寝たきりの少女がいた。
少女は、死神に気づく。
「…あなたは…だぁれ…?」
怯えることもせず、ただ純粋に死神に誰かと聞く。
それだけ少女は純粋無垢であった。
そんな純粋な少女の命を刈り取る自分に嫌悪感を覚え、少しだけ顔を歪めた。
しかし、すぐに元の顔に戻し
「私はただの死神だよ。
貴方を迎えに来た。」
そう正直に少女の質問に答えた。
「そっか…ダメだったんだね…。
結局…私は生きられないんだね…。」
顔は笑っていたが、目には涙を浮かべていた。
そんな少女の表情を見て死神は胸が苦しくなる。
しかし、死神として少女の命を奪わなければいけない。
でも、このか弱い少女の命を奪いたくない。
二つの矛盾した思いが、死神を苦しませた。
その様子を、少女は「何かあったのかな?」と見つめる。
そのしぐさを見て、決意をした。
一筋の涙をこぼして。
「貴方は死ぬのが怖くないのかしら?」
少女に聞く。少女は
「怖いよ…。
だって…痛いんでしょ…?」
と、堪えきれなくなって涙をぽろぽろと流す。
泣く少女を見て、死神は
「痛くは無いわ…。
ただ…少しだけ体に違和感を感じるだけ…。」
と言って鎌を持つ。
そして、鎌を振り下ろそうとした時
「…ねぇ…死神さん…。」
と、死神を見て呼ぶ。
死神は振り下ろす手を止め、
「…何かしら?」
と、聞く。
少女は笑顔を無理やり作って聞いてきた。
『次生まれるときは…長生きできるかな…?』
それを聞いた死神は、涙が止められなくなった。
「そうね…私さえいなかったら…できたわよ…。」
そういって、少女に鎌を入れる。
これが死神にとっても、少女にとっても、最善の判断と死神は思っていたのだ。
そして、少女は命が消える瞬間、死神にある言葉を言った。
その言葉を聞いて死神は笑いながら、
「…馬鹿じゃないの…。」
と言って、消え行く少女の魂を見届ける。
見届けた後、死神は少女の部屋の天井に向かって呟いた。
「いつまでたっても…慣れないな…。」
そういって、闇に包まれて消える。
少女の亡骸だけを残して。