13 超えたい相手が出来ていた
<やったわ! やったわ! レベルアップよ! れべるあーっぷ!!>
フェリアからのレベルアップを告げるシステムボイスが聞こえる。
最初の彼女は高飛車な性格かと思えば、レベルアップしてこの上機嫌な声が聞こえたから驚いたものだ。
そんな驚きはあったが、今では何度も聞いて慣れている声である。
レベルが上がったということは相手を倒したから。
遠まわしだが、これにて大河原君を倒したということがはっきりする。
「やったわね、幸前! あなたの勝利よ!」
フェリアはフォルツの方へと駆けよってくる。
そのフォルツは地上にゆっくりと降りて姿勢を低くして、僕は地面の上へと下りた。
ダメージがまだあってか、下りたときにふらついたが。
「ああ、いちかばちかの細い道であったけど、なんとか勝てたね」
「あのスキル封じは厄介だったわね、ここまでてこずるなんて」
「手強い相手だったけど、これでしばらくは立ってこないはずだ」
あの黒い刃のせいで自然治癒は封じられてしまった。
封じられてなければ、おそらく楽に戦えただろう。
ダメージを受けた後に少しでも回復してくれれば、出来ることはもっとあったから。
「幸前、回復は大丈夫?」
「そうだね。アイテムはあるけど、まだ戦うかもしれないからアクアヒールの方をしないと」
僕は魔法陣を出して、アクアヒールを唱える。
唱えた後しばらくして、魔法陣から出てきた水が僕の体を包む。
痛みと傷が徐々に消えていき、いやし始めた。
戦闘で唱える暇はなかったが、これでようやく唱える時間も出来た。
「しかし、この矢も結局敵へ飛ばす必要はなかったわね。どうしましょうか」
フェリアは近くにある宙に停滞した矢を見て、呟く。
最後に放った矢を一本停滞させていたが、それも使いどころがなく終わった。
「回収してもいいだろう。もう戦闘は終わったわけだから」
「そうね」
フェリアは矢に手を伸ばした。
手で矢を握る前に僕は口を開く。
「これで僕の方はメイルオンさんからの依頼を達成させたわけだけど、これからどうするか?」
「モンスターでも退治に行きます?」
「そうしようとは思うけど……でも、メイルオンさんに伺ってみてからがいいだろう」
「あちらも困っているようですから、まずは聞いてみましょうか」
傷の治療も終わって、まとっていた水も周囲に散っていく。
それから僕は指輪へと視線を向けて、念じる。
念じた相手はメイルオンさん。
「メイルオンさん、今、いいだろうか?」
僕の声と同時に指輪が光った。
「私もちょうどモンスターを撃破したところです。いいタイミングです」
「大河原君は撃破したのだけど、次に依頼することはあるだろうか?」
「いえ、特にはありません。ただ、強いて言うのであれば、モンスターの残党を撃破して頂ければと」
メイルオンさんからの話は意外な物であった。
まだまだ強力なモンスターがいて、僕が倒す必要なモンスターが話に出てくると思っていたのだから。
「いいのかい? まだまだ強力なモンスターは残っているのだろう? そこへと向かうことは可能だけど」
「ようやくですが、私以外のギルドの戦闘員もこの世界へと入ってきています。なので、これ以上冒険者への迷惑をかけないようにギルドのメンバーで対応していきます」
「ということは、僕の所属している人達も来ているということかい?」
「そうです。ヴェルターもベノイズ様も他のメンバーも逃げ遅れてけがをした人の治療と護衛をしています」
ヴェルターは僕の選んだギルド三闘士で、ベノイズ様は僕の所属するギルドのトップだ。
マーヴェケアーズのメンバーがいるのであれば、治療と戦闘は大丈夫だろう。
名の上がった二人は十分の実力者で、僕が大丈夫と思える要因として事足りる。
「分かったよ。なら、僕はこちらの判断でモンスターの残党を倒すことにしよう。また依頼が出てくるようなら、その時は連絡してほしい」
「今回のご依頼、協力して頂きありがとうございます。今回のご依頼のお礼は後ほどさせて頂きます」
メイルオンさんからのお礼。
指輪の光が切れて、僕はフェリアの方へと目を向ける。
「というわけで、僕たちは目についたモンスターを倒すことにしよう」
「分かりましたわ。それと、逃げ遅れた人の救援もしないといけませんわね」
「それもだね。僕たちは空中のモンスターをメインに倒していこう。こんな空ではフォルツも自由に飛べた物ではないから、早めに対処したいな」
僕は頷いて話す。
少しでも早く空のモンスターがなくなれば、フォルツでの移動も可能。
なので、空のモンスターの撃破は僕たちのできることを増やす為でもある。
フォルツでの移動も出来ればけがをした人の運搬もしやすい。
「そうですわね。私たちなら空のモンスターも対処しやすいでしょうし」
「僕は魔法も巨大化できるからね。まとめての撃破もいける」
「魔法と言えば、幸前はもう耐久力が回復できたの?」
「おっと、そうだ。まだまだ十分に回復してなくてね。自然治癒の無効化もまだ続いている気もするから」
回復はしたといえど、まだまだ僕に痛みはある。
数値は確認していないが、おそらく耐久力は10000未満だろう。
自然治癒も無効化されていなければ痛みが引く気配もあるが、それもまだ感じがない。
僕がアクアヒールを唱えようとしたところでだ。
まだ矢を握ってなかったフェリアが口を開く。
「やはり私はあなたを選んで正解でしたわ」
フェリアは微笑んで話す。
「……おや、そんな言葉を聞くとは珍しい」
「悪いかしら? 私はあの時、敗北を覚悟しましたわよ」
「正直一瞬だけど、僕もね。天川君の姿を思い出したから踏みとどまれたけど」
僕はあの時の心情を話した。
フェリアを驚かすことになって申し訳ないが、僕も天川君との勝負がなければ負けていたかもしれない。
「幸前」
フェリアは顔を引きしめて、声をかける。
僕と最初に会った顔だ。
「ああ、分かっている」
最初は面白そうだと思って、参加したこの決定戦。
何もかもが退屈になるほどうまくいっていて、何か刺激が欲しかったこともあって参加をした。
それ以外の目的もなく、ただただ敵を倒していた。
それも天川君と会うまでは。
僕は彼に会って、乗り越えたい壁が初めてできたのだ。
十分に楽しめた上に、超えたい相手も出てきた。
「私は王に成るわ。その為にも……」
僕はその協力を惜しまない。
超えたい相手、天川君を倒すという目的のために。
そう思っていた時だ。
フェリアの顔は突如驚く。
そして、一瞬の間に口を開いた。
言葉の内容は分からなかった
が、それでも僕は後ろを振り向かせるのに十分。
後ろには大河原君が拳を振り下ろそうとしていたのだったから。
こんな展開になりましたが、次から第七.五章として天川視点に戻ります。




