11 勝機が消える
大河原君のデュアルスピードが発動した一方。
フェリアはクリーバンとの戦いをしていた。
クリーバンはすでに受けた矢を取り除いていて、お互いに遠距離からの攻撃合戦の最中だ。
「流石に弓矢一つでは倒れてくれませんわね……!」
フェリアは残念の言葉を出しながら矢を放ちつつ、黒い刃を避けていた。
放った矢は四本で、内二つがクリーバンへと向かってかわされる。
どういうわけか、僕の方へ黒い刃を出さないのは幸いと見ていいのだろうか。
その最中に大河原君の声が響く。
「このグローブを持っているとステータスが倍になるスキルが得られるんだよな。スキルが出てくるのに時間はかかるし、一つのステータスに付き一回しか発動できないけどよ」
大河原君は割と得意げな口調で話す。
ご自慢のスキルと見ていいかもしれない。
「制約もあるようだけど、なかなかすごいスキルのようだね」
僕は素直な言葉で評価をした。
そこまで語ってくれるのは地震があるようにも見える。
「涼しい顔していられるのも今の内だ。発動後は段違いの機動力なんだからよ」
「そのようだね。この目で見ているから分かるよ」
涼しい顔と言われるのは無理もないかもしれない。
よく言われることだし、他の冒険者にも何度も言われたこと。
だけど、今の僕の心情は穏やかな物ではないので、心外なところもある。
でかい魔法を至近距離で放ったのに、全くの無傷で回避するほどの機動力なのだから。
大河原君は構えてこちらを見据える。
「ならさっさと行くぞ……」
そう言う大河原君。
その瞬間、相手は霧のように一瞬で消えた。
「!?」
驚くしかなかった。
機動力が変わったことは分かる。
だけど、一番の問題はどこから攻めてくるのか分からないこと。
驚く一番の原因はそこだ。
右、左、後ろ、それらの方向へと見るも相手はいない。
まだ見てない方向、上を見る。
そこに下降しながら拳を振り上げようとしていた大河原君がいた。
轟音が響く。
地面にひびを入れて割れた破片も浮く。
その規模も先ほど見せた規模よりも大きい。
「ほう、うまくかわせたか……」
大河原君が呟き、僕は距離を置いていた。
見た瞬間に後の姿勢を考慮せずに飛んだからだ。
受け身もうまく取れなく痛みはあったが、あの攻撃をまともに受けるよりはましだ。
幸いなことに、立て直しも上手くいった。
フェリアの方へとふと目に入る。
あちらは黒い刃をかわしつつ、クリーバンへと接近しているようだ。
状況は悪くないように見える。
しかし、こちらの戦況は悪い。
「また防戦へと戻ることになりそうだ……」
今の僕は涼しい顔をしていられるのだろうか。
ようやく攻勢に行っての逆戻りもあるが、その逆戻りした状況は先ほどよりも悪い。
そう考えていると大河原君は現れる。
僕の目の前に瞬時で距離を詰めて。
そして、拳での攻撃を放ってくる。
前よりも早いが、軌道は予測できる。
そのために僕は間一髪でかわせた。
しかし、かわせたところですぐに拳の追撃が来る。
僕はそれを剣を盾にして防御した。
防ぎきれたが、衝撃は全てを殺しきれない。
結果、後方へと浮くように飛んで下がることになる。
「防いでくるか。なら俺は攻撃に趣向を凝らそう」
僕が着地したところで、大河原君は再び消える。
最初に僕は上を見た。
そこにはいないので、左右を見渡す。
後ろを見渡してもいないので、少なくとも今攻撃をする様子もない。
目で追うとフェリアの状況が目に入る。
彼女はクリーバンへと接近して、剣の突きを向けていた。
その突きは鎌によって防がれる。
だが、刃と同時に別方向から飛んできた矢も同時に飛んで行く。
その矢は爆薬をまとっていた矢である。
天川君との戦いでも見せた爆薬の弓矢。
刃と刃の衝突で火花がでて、その爆薬の爆発を引き起こした。
おそらくお互いに巻き込まれただろう。
だが、爆発の中から鎌が抜けるように宙を舞う。
クリーバンの攻撃の無力化に成功したようだ。
「フェリア……」
僕は呟く。
あちらの状況は少なくともいい方向に転がって入るようだ。
そこは何よりではある。
その瞬間だ。
「何ぼさっとしているんだ?」
大河原君が呟くと同時に僕の横から現れる。
当然のように拳を構えて。
「ぐがぁ!」
わきの下をえぐるように僕は殴られた。
同時に拳によって真上に浮かされる。
次に僕の身に起こることは予想できた。
きっと、連続攻撃を受けるだろう。
それぐらいのちょうどいい浮き具合でもあったから。
そして予想通り、拳の連続攻撃を体中に受けてしまう。
拳の数は九発だ。
「これで、決まりだ」
締めの一発の拳が放たれる。
それを僕は腹に受けて、大きく飛ばされた。
何も言葉が出ずに宙に浮く中、僕は考える。
あの攻撃はフェリアの方を見ていなければかわせたのか。
考えても正直のところ、かわせなかったと思う。
その前の攻撃も偶然のようだったからだ。
それなのにあの攻撃を注意していればかわせたかと言えば、かわせなかったとしか思えない。
機動力だけでも段違いの状況。
それだけでも僕は圧倒的に不利だった。
「幸前!」
フェリアからの言葉。
それを聞くと同時に僕は仰向けで地に伏した。
痛みはかなりでかい。
痛み方は違うが、天川君に負けたときの痛み方に近い。
それだけで分かった。
もう僕の負けは近いということに。
その中で、大河原君は近づいてきて、僕を覗くように顔を見下ろす。
「クリーバンの鎌はどっかいっちまったが、まあいい。お前はこうしている状況だしな。流石にもう立てないだろ?」
大河原君の確認。
「ははは……」
僕はかすんだ笑いしか出せなかった。
動かせる力は少しだけあるが、動きは鈍いのが分かる。
僕の耐久力もわずかに残っているようだが、後一撃受ければ確実に負けるくらいだ。
「耐久力が分からないんじゃ倒れたか分からないな。まあ念には念を入れて、もう一撃」
「……」
僕は答える気も湧かなかった。
一時とは言え、天川君もこんな状況になったことを思い出す。
彼はそれでも勝機を瞳に宿していたことも。
そして考えた。
天川君ならこの状況どうしていたのかを。
「それじゃあ、全部のステータスを倍にしておくか。せっかくこれも使えるほど時間が経ったわけだしな。デュアルオール」
「……」
僕はただ黙っていた。
きっと天川君ならば打開策も考えていた上で動いていたのだろう。
少なくとも僕の状況になっても、彼ならば諦めなかった。
あの時の勝機の瞳はこんな状況でも消えないほどの輝きがあったのも分かる。
「幸前! こんなところであなたは負けるの!? 天川君と戦うのでしょ!?」
フェリアからの言葉。
それで思い出した。
そうだ、そうだった。
僕には戦わなければいけないのだ、天川君と戦い王に成るために。
僕の中に気力がわいてきた。
今までなかったものに火が灯るように。
「これで負けてくれよ」
大河原君から金色の気があふれ始めた。
その気は周囲に霧のように散らしていった。
機動力が上がった時とは違うことは分かる。
俺に拳を振り下ろすのだろう。
それも分かる。
この状況でやらなければいけないことは一つしかない。
「……」
僕は黙っていた。
その間に大河原君の拳が振り下ろされる。
拳を中心に地面に大きなひびが入った。
ひびが入って地面の破片が周囲に散っていく。
しかし、その拳は地面と接触していた。
その間に僕はいない。
「何だ? 逃げる気力があったのか?」
拳を上げて、大河原君は呟く。
あの時、僕は体を回転させて間一髪で逃げていたのだ。
地面への衝撃も運よく回転させる力に勢いとして乗ってくれた。
それで今では離れたところで立ち上がれるまでの状況になった。
「悪いことをした……かな?」
「別に気にしてねえ。さっきよりも俺は強くなったしな。俄然おまえを倒しやすくなったからよ」
大河原君の言う通り、状況が不利なのは変わらず。
それも先ほどの何倍も悪くなっている。
「そうか……それでも、僕は、負けられなくてね」
「この状況でそれを言うか?」
そう聞かれても僕は勝つしかないのだ。
きっと僕と戦うために天川君は待っているはずだから。
「当然、だろ? 僕は……王に成るんだ。天川君を、倒して」
僕は王に成る道を進むことは変わらないのだ。
こんな状況で負けるようでは天川君だって残念がるのは間違いない。
僕は立ち上がりながら、大河原君の奥へと目を向ける。
白馬のフォルツの方へと向けるとともに、更に僕は頷いた。
ぼろぼろでの綱渡りを成功させるために。




