7 日が照る瞬間
天川君はたった一撃でベルガラグナを押し返した。
私たちが必至で戦っても歯が立たないモンスターに。
「んー……反射化スキルは便利だけど、タイミングがすごいシビアだな。ちょっとでも間違うと跳ね返る力が凄く弱いし」
天川君はベルガラグナを見て呟く。
「天川君……!」
私の声。
何もやる気力がなかった時の私とは全然違っていたのが分かる。
ベルガラグナは立ち上がり、天川君をにらんでいた。
「本当にごめん。でも、今は敵との戦闘が優先だ……なんかあのでかい牛、口が光っているな」
同じく私も見ると、ベルガラグナの口は光っていた。
「……それは! 天川君、逃げて!」
おそらくはシュンさんも狐燐さんもレックスも倒した攻撃。
光り方と巻き上がった炎が同じ色だから予測できた。
あれを受ければいくら彼でも一撃で……。
ベルガラグナは口から光の球を天川君に放った。
レックスが受けた攻撃と同じもの。
しかし天川君はその球に対して、瞬時に掌を向ける。
光の球は触れて爆発することもなく、その場で留まった。
留まった瞬間に光の球はベルガラグナの方へと反射していく。
「おお、今度はうまくいった。コツもつかめてきたな、軌道さえ予測できれば反射化はかなり便利だ」
その天川君の言葉の最中に光の球がベルガラグナへとぶつかる。
瞬間、ベルガラグナの周りに炎と煙が巻き起こる。
あれほど苦しめたベルガラグナ。
それをいとも余裕で目の前の天川君はいなしていた。
「……すごい」
私はその炎をただ見て声を上げる。
あの炎は巻き起こるたびに誰かが犠牲になっていた。
その嫌な象徴もこうして跳ね返ってしまえば、怖くもない。
「手も熱いな。全部が全部跳ね返ったわけではないし、強そうな攻撃に反射化を使うのは俺も危ないか」
天川君は跳ね返した手を見て呟く。
言葉からして、今まで戦って来たどこにでもいるようなモンスターと同じように処理したように見えた。
手こずるような相手でもないかのような言葉。
煙も炎も消えていて、ベルガラグナは光となって消えていた。
これで、長い間逃げていた危機も完全に消えたことになる。
ようやく、ようやくの安心を感じる。
天川君はミュサさんの方へと向かっていく。
「天川君は……ほんっとうに、すごいよ……」
「そうかな……ありがとう……」
ミュサさんに触れてから天川君はレックスの方へと向かった。
まだまだ褒められるのに慣れてないのは天川君らしい。
「私なんて、逃げるしかなかったから……」
上半身を起こして、私は呟く。
こうやって危機が去ったのはいいことだ。
でも、逃げるしかなかった無力さは残念でもある。
天川君はレックスに触れてから頷く。
「自然治癒もひとまず二人にコピーしたからよし。それと佐波さん、俺はミュサとのやり取りで今まで起きたことは把握している」
「あ……その……!」
「シュンも狐燐さんもミュサさんも、そしてガルガードもレックスも犠牲になって粘ってくれたことも把握している」
「……」
私は無言であった。
ベルガラグナはあっけなく仲間を薙ぎはらっていって、被害だって大きい。
それだけでない。
「佐波さんのお父さんも犠牲になったんだよな」
「……天川君、私逃げることしかできなかった」
「……分かっているよ。避難所へ行っていたら、犠牲になった人なんて取っても多かっただろうし」
「……わたし、頑張ったんだよ。逃げることしかできなかったけど」
目の熱が今までよりも熱い。
視界も朧げだ。
悪い視界の中でも天川君は私の方に寄ってきたことは分かる。
「ああ、頑張った。それが一番いい結果につながったんだよ。ありがとう佐波さん」
天川君は私の目の前に来て両手を優しく置く。
「……あ」
「辛い中走ってきて、大変だっただろ? 頑張った結果が俺が間に合ったんだから」
その言葉に私の内側が緩んでいた。
同時に目が普段以上に潤っていくのが分かる。
視界も更に朧気だ。
「……うん」
「俺は佐波さんを皆をこんな目にするよう仕組んだ奴を絶対に倒すから。もう、安心していいんだ」
胸に引き寄せられるように私の顔は天川君の胸に当たる。
目から涙が流れていた。
「……う、うう」
「もう、辛い目に合わなくてもいい。俺がこうしているからさ」
「もう、もう! 辛かったぁ! みんなを置いて逃げるしかなくてぇ! 助ける力もなくてぇ! みんなが倒れて行ってぇ! 嫌だった! 嫌だったぁ! ……うう!」
皆だってどうなったのか分からない。
もう会えないかもしれないのに、それを覚悟してああやってくれたのに。
苦しい思いが言葉と涙になって、まき散らしてしまった。
私はしばらく、うめくような鳴き声と涙を出していた。
それが落ち着いてから、私は天川君から離れる。
「そうだな、みんなが犠牲になった……でも、俺の仲間たちはそんなにやわじゃないんだよな。という訳で、ちょっとこれを聞いてほしい」
「……え?」
その天川君の言葉に私から疑問が浮かぶ。
この言葉からするにもしかするのか。
光っている指輪へと視線を向ける。
「えー? ちょっとてるちゃん、僕はゾンビの振りしてさなちゃんに会う予定だったんだけどー? 予定狂ったんですけどー?」
「それはダメだ。今の佐波さんの様子だとショックで寝込むから」
指輪からのシュンさんの声に天川君は突っ込む。
シュンさんも元気そうだ。
「こ、これって……?」
「俺の仲間たちはそんなにやわじゃない。シュンも攻撃されてギリギリ粘っていて、回復してもらったんだよ。西堂さんにな」
「え? 西堂さんが!?」
まさかの人物だ。
あの人は自分のやりたいことしかやらない人だと思っていたので、意外だ。
「そうだ。俺から回復魔法を貰っていたからな。それで仲間も回復してもらったってことさ。あと、三木島もお父さんも回復した聞いているから。そっちも心配いらない」
「お父さんも!? ……よかったぁ」
「まあ、俺も攻撃を受けたって聞いて不安になったけど、西堂さんのおかげで安心できたよ。ほんと感謝で様様だ」
お父さんまでも無事なのは嬉しい。
あんなことになったけど人命の方も無事だったことから、丸く収まってよかった。
「私からもお礼を言わなきゃ、西堂さんに」
「……でもなあ、一つだけ残念なことがあるな」
天川君はそう呟く、難しい顔をして。
やな予感がする。
「え? ……何なの?」
「あの牛を飛ばして、壁とか家とかぶっ壊してしまったから。それは残念だよ」
どう答えればいいか分からない、こんなことをいまさら言われても。
嫌な予感かと思えばそんな事とは。
心配して損だ。
でも、なんだか笑えるような気もしてきた。
「……」
「え? 何? やばいことなの、やっぱり?」
「もう、反応遅いよ。あの牛は逃げるときに散々家も壊していったんだから、今では些細だよ」
「あ、そうなの? ま、まあ、今はそこを気にしても仕方ないか。俺は大元を叩かないといけないからな」
一日の出来事だけど、随分と久々に笑えた気がする。
おかしい話だけど、何年ぶりの笑いのようにも感じるほどに。
でも、これで周囲の危機が去ったわけではない。
大元を倒さないときっとそれはないはずだから。
「大元ね……頑張って。天川君」
「ああ、負けるつもりもない。でも、それとは別に心配事もあるんだよな」
そういえば、他の仲間のことで言葉に出していない人がいる。
そのことなのかも。
「心配事? もしかして他の仲間のことで?」
「ああ、幸前も俺とは別に強敵と戦っている」
予想していた通りだ。
でも、幸前さんのことを心配しているのは意外だ。
「あの幸前さんも……でも、天川君と同じくらいの強さだよね。大丈夫だと思うよ」
「俺もそう思いたいところだ。でも、大元の配下の中で一番強いと聞くし、なかなかの強敵と聞くから不安もあるんだ」
天川君は空を見て呟く。
その空は翼の生えたモンスターも騒ぎながら飛んでいた。
それはどこかで戦っている幸前さんをみているかのようでもある。
それからミュサさんとレックスも念のためと魔法で回復してもらって、無事に歩けるようにまでなった。
佐波視点はこれで以上で、次からは幸前視点を何話かします




