表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/143

5 希望の一報の後に

 私とミュサさんは家やブロックに囲まれた道を走っていく。


「走らなきゃ……待っている人が……」


 私は暗示をかけるように走っていく。

 そうでもないと、走れない気がして。


「佐波さん……」


 ミュサさんは心配の目で私を見る。


 少しおかしくなった気がする。

 慣れない状況だからなのかな。


「何だろう? ちょっと遅くなった気がするけど……すぐ元の速さに戻るはず……」


「佐波さん、それは疲れです」


 ミュサさんからの言葉。


 少なくとも、疲れだとは思わない。

 疲れだったら走れなくなるわけだし、そんなことあってはならないから。

 家から出たころより遅くなっていても。


「え? そんなはずはないよ……走らなきゃいけないし……」


「ここまで必死に走ったのですよ。疲れだって出てきます」


「走らないと……いけないよ……」


 息を付きながら私は語る。

 疲れの前触れなのかもしれないけど、それであろうと走らないといけない。


 すると、ミュサさんは速度を落として私の前に背を向ける。

 何をするのかは予想がついた。


「では、私が背負っていきます。体力はまだありますから」


 そう言うとミュサさんは膝をついて姿勢を低くし、私を背負おうと足に手をかける。

 それだと負担をかけてしまうから、それは避けたい。


 でも、私はその意向に逆らえなかった。


 抵抗したいけど体が言うことを聞いてくれない。

 あまり力が入らないのもあってか、私はミュサさんの成すがままにされる。


「あ、その……すいません」


 結果的に私はミュサさんに背負われる形になった。

 その状態で走っていく。


「いえ、お気にせず……突然ですけど、話しませんか?」


「え? そんなことしている余裕なんて……」


 突然の提案に私は驚く。

 急いでいる状況で、しかも倒れて行った人たちがいるのにのんきなことはできるわけがない。


「ないかもしれません。でも、気分替えも必要でしょう? 聞く気もなければ無視してください」


「……任せます」


 私はそう答えるしかなかった。

 仮にも私が負担をかけている申し訳ない状況。

 止めてくれとかの偉そうなことは言いづらい。


 なので、任せるとしか言えなかった。

 すこしずるい。


「私は人間でいるのに生命力が必要なんです。それを天川さんからキスしてもらっています」


「え!? そんなことを……」


「はい、アムリスにも天川さんにもそれは了承を得ています」


「そ、そうなんだ……」


 まさかの告白だ。

 こんな状況で天川君とミュサさんとの関係が明らかになるとは。

 聞き流すつもりだったけど、そんなことを言われたらそう反応するしかない。


「そんなことをしても、天川さんは怒ることもありませんよ。優しい人です、天川さんは」


「……そうね。私もそれは分かるよ」


「正直言えば、天川さんのことが私は好きです」


「それって、恋愛という面で……?」


 まさかの事実を聞いてしまい、私は確認をとる。

 あまり驚く元気がないのか、内面では驚いているも声としては出ない。


 まだまだ聞き流そうと思ってはいたけど、それも無理そうな気もする。

 やはりミュサさんはずるい。


「はい、そのとおりです。私をずっと光で照らしてくれるとも言っていましたから」


「……それって、アムリスさんがいたらとんでもないことに……」


 そう肯定するということはやはり不安になる。

 アムリスさんだって天川君のことをどう思っているのか。


「そうですね。だから、私はその感情を抑えています。暴走しないように、部下という立場をわきまえて」


「そうなんだ……」


「最近ではその立場も面白いと思って、色々としかけて見たりします。この立場も悪くないものです」


「大変……だと思っていいの?」


 好きだという感情を抑えるなんて、なかなかに大変なことだ。

 その気持ちのやりようだって困るはずなのに。

 それでも我慢してやるというのは単純にすごい。


「アムリスは天川さんのことを好きだと言わないようですけど、でも、間違いなく恋愛面で好きなのは分かります。天川さんがああいう人ですから」


「……正直それはよく分かる。天川君は優しい人だから、いじめられているときもそんな人だって思っていたから」


「今のところ、私はそれほど大変でもないと言っておきます。私は部下という立場で天川さんがとても気に入っているという状況です」


 ミュサさんは微笑んで答える。

 こういう何気ない会話があってか、頭も少し整理できた。

 張り詰めた糸が少し緩んだような気持ちだ。


 同時に少し気になっていたことが頭の中から浮かんでくる。


「その、少し気が楽になりました。ありがとうございます。そういえば、他のモンスターも全然私たちを襲ってこないですよね」


「ですね。なにせ、ベルガラグナは例え仲間のモンスターであろうとお構いなしですから、近寄りたくはないでしょう」


「そういうことなの。教えてくれてありがとうございます」


 私はその説明に納得がいった。

 ああいう風に壁とか障害物も力でねじ伏せて向かう。

 他のモンスターからしてもとんでもない存在なのは十分わかっている。


「いえ、お気になさらず……ん?」


 会話の中でミュサさんは何かに気付く。

 そして走る速度も落していた。


 何かあったようだ

 が、私の方では何も分からない。

 ベルガラグナが来ている様子もない。

 前後左右を見ても、だ。


「どうかしたのですか?」


「……はい、分かりました。人形の後に付いて来てくれれば、向かえますので」


 ミュサさんは前を見て話していた。

 その前には私がいるわけでもなく、誰もいない。

 明らかにおかしい。


「……ミュサさん?」


「ようやくです。天川さんがダンジョンから出てきたと報告がありました」


 そのミュサさんの報告。

 喜ばずにはいられない。

 ようやく待っていた人が来てくれるから。


「本当!?」


「はい、人形に案内をさせて私たちがすれ違うこともありませんので。とにかく急ぎましょう」


 そう言えばパートナー以外に契約したモンスターとはテレパシーのように会話できると聞く。

 それで会話していたみたいだ。


「天川君だったら……あんなモンスターも、大丈夫だよね?」


「当然です。伊達に優勝候補の冒険者ではありません。天川さんだったら」


 ミュサさんはそう語ってくれた。

 ここまでのことが起きて不安な気持ちもあったが、この言葉で拭えた。


 そこで聞こえてくる。


 私たちの後ろの方から嫌というほど聞いた轟音。


「……この音……!」


「やはり来ましたか、ベルガラグナ……」


 レックスとの戦闘も終わったのだろう。

 嫌な気持ちはあったが、それよりも走らないといけない。

 背負ってもらって移動も出来たので、走るのも十分。


「私はもう走れるから、今すぐ降ろして!」


「そうですか、では降ろします」


 ミュサさんは背負っていた私を開放して、私は道路に足を付けて走り始める。


 私を背負ったままでは走る速度だって出ない、それに私の負担だってかけ続けてはあっという間に追いつかれる。

 ならば降りる機会は今しかない。


 こうして、再びベルガラグナからの逃亡が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ