8 母は偉大
三行あらすじ
・三木島の謝罪で照日、許す
・モンスターを倒した数が一番多い人が王に成れる
・アムリスは参加させた真意を聞くために参加
俺は驚いた、まさか目の前のアムリスが、王族だったとは。
「王様だったのか、驚いたよ。でも、お父さんは何か言っていたのか?」
「あ、そうそう。私をこの世界へ送る時に、冒険者としての力を高めよ、って言ってたわ。たくさんモンスターを倒して強くなれば、きっと真相が分かるはずよ」
「なるほどね、そんな目的が。それ以外には何か言っていたのか?」
「いや、何も言ってないわよ。パパはこっちの世界に急に送り込んだから、私も正直困っているのよ」
随分と唐突なことをするものだ。
俺だったら文句も言いたくはなる。
でも、急に送るしかなかった可能性もあると考えると、俺からは何も言うべきではないか。
「しばらくはダンジョンを攻略して、モンスターを倒すって感じか。墓穴までの契約をしたようだし、俺は最後まで付き合うからな」
「あ、そうなんだ……ありがとう。でも、私、無理やり契約させたよね? そこは何か嫌な事ないの?」
アムリスは視線を下げて、申し訳なさそうに話す。
嫌なことがあるかと聞かれれば、俺はこう答える。
「俺はない」
「え? 本当に? やせ我慢じゃなくて?」
はっきりとした回答にアムリスは驚き顔をしていた。
「ああ、ようやく俺に日が照ってくれたっと思ったからな。あの瞬間、全く嫌な感じはなかった」
「そう……なんだ……」
「それで、俺は思ったんだよ。きっとまだ、日に照らされてない人だっているはずだから、俺はその人を照らすようにしたいって。俺、今回の契約は嬉しかったんだからな」
笑って俺は答える。
あの時の契約は俺の人生の中できっと大きな転機になった。
この好機を逃したくはない。
あと、キスも初めてだったので、正直嬉しい。
アムリスの顔に晴れ間が見えた。
「良かった。じゃあ、これからもよろしく。まだダンジョンはたくさん出てくるはずだから。それに見つからないだけで、密かに出来たダンジョンもあるかもしれないわよ」
「まあ、まだ出てきそうな気はした」
今回のダンジョンは階層自体は浅いもので、すぐに攻略できた。
これだけで終わりという訳でもないとは予想できる。
この結果だけで王様が決まるなんて、流石に決定戦としてお粗末すぎるもんだし。
ここで佐波さんは家の入り口まで駆け足で歩いて止まる。
「あと、私は家に着いたから。護衛ありがとうね」
ここが佐波さんの家だ。
一軒家だが、周りの一軒家より少し大きく、三階までたっている。
佐波さんのお父さんはここ周辺の区間のまとめ役でもあるのだ。
「ああ、いいよ。というか、こっちだけが分かる重大な話しちゃってごめんね」
「全然かまわないから。話せるときに話すべきだったし、私は全然いいから」
「まあ、それもそうかもしれないけど、本当にごめんね」
佐波さんには伝わらない話をしてしまい、俺は謝った。
ダンジョンがどうのこうのと言っても、一般人の佐波さんは全ての内容を理解できないだろう。
すると、佐波さんは笑顔で俺にこう言った。
「よかったね、やっと天川君もいい方向に進めそうね」
「え? それって、どういう……?」
「なんでもない! 私も応援しているから頑張って」
「あ、ありがとう……」
俺の礼を聞いてから、佐波さんはすぐに家へと入ってしまう。
帰る時の佐波さんの笑顔が妙に気になる。
なんというか、今回起きたことに対して俺と同じように喜んでいるみたいだ。
もしかして、俺の今までの日陰者扱いを知って、ああいったのか?
今のとこ考えられる理由はこれくらいか。
「応援してくれるってことだし、そんなに深く考えなくてもいいんじゃ? 少なくとも、照日に危害を加えるような顔ではないわよ、あの子の顔」
考えている俺にアムリスは助言しようとする。
まあ、それもそうか。
「これ以上考えても仕方ないし、俺達も帰るか」
俺とアムリスは家への帰路を歩んでいく。
少し歩んでいき、ふと思いついたことがあった。
「なあ、アムリス。これから俺の家に行くわけなんだが……どうやって匿おうか」
アムリスへと視線を移す。
彼女は今、翼で飛んでいて、尻尾も生えている。
簡単に言えば、人間だと説明するには非常に難しい。
俺の家は母が一人、父はここより遠く離れた地にいるとの話。
父は死んでいるわけじゃあない。
そんな母にアムリスのことをどうやって匿えばいいのか。
「ん? 私は照日の中に入れるのよ。家の時はそれで対処すれば?」
「そうは言ってもだが、俺から出たい都合だって、これから出るだろ? その時が困るんだよ」
「そうなの? あ、飛べなくなるけど私、翼と尻尾は消せるわよ。照日の友達ってことで話せば?」
その翼とかも消せるんだな、初耳。
でも、それだけじゃダメなんだ。
「俺は今日の契約まで、日陰者で友達もいない。それは母さんも周知の事実、いきなり友達ってのもおかしい話でな」
「ああ、そういうこと……分かったわ。ところで、さっきからこっちのことを見ている女性がいるのだけど」
アムリスの言葉で気付く。
道路で立つ女性が俺に視界を向けていることを。
「あ……」
俺は言葉が漏れた。
まさか、ここで御対面とは。
青いパジャマの上に白いジャケットを羽織った黒い髪の女性。
俺の母さんだ。
母さんは心配の顔で俺に駆け寄ってくる。
「あら、照日! 家を出て行って地震が起きたものだから、心配してきたのよ」
「か、母さん、実は……」
俺は視線を背けて応対する。
まじか。
家まで距離はあるはずだよ。
というか、外にはモンスターだって出てきているのに、運よく会わなかったのか。
「なんだかすごいものが出来たみたいだし、あれはダンジョンっぽいわね。ところで、その翼の生えた子って、誰なの?」
「えっと、何と話せばいいか……」
「お母さんが見るに、隣の子はサキュバスだと判断します」
「……そ、それは」
何でびったし当ててくるの? 母さん。
俺、なんと誤魔化せばいいか、分からないじゃないか。
「よし! 見た感じ、悪いサキュバスじゃなさそうだし、家に入れていいわよ」
「え!? いいの?」
「やっとできたあなたの友達じゃないの? お母さんは分かれろなんて、無理を言わないわよ」
「ほ、ホントに?」
母さん、その言葉、凄い有り難いです。
母さんの性格は前から細かいことを気にしない性格なんだ。
だけど、ここまで割り切って受け入れてくれるのは予想外だよ。
モンスターだってわかっているはずだけど、女の感みたいなもので判断したのか。
「その、私なんかを入れてくれて、ありがとうございます」
ここで、アムリスは道路に足を付けて、母さんに頭を下げた。
俺も頭を下げたいくらいだよ、母さんの寛大さ。
「礼もちゃんと言える子なのね。何があったかはよく分からないけど、これから照日をよろしくね」
「はい、共に頑張っていきます!」
アムリス、なんかその台詞、カップルの言うセリフみたいだけど、気のせいか?
「じゃあ、帰りましょ? 風呂に入って休んでいいから」
母さんはその言葉と共に俺達に背を向けて、家への帰り道を歩む。
その背中、凄い有り難い。
だから、俺は言わないといけない。
「母さん。その、俺……今は言えないことが多いけど、絶対に母さんの嫌なことは起こさないようにするから!」
俺はこう言って、頭を下げる。
すると、母さんは立ち止まった。
止まっても、母さんはこちらを振り向かない。
「じゃあ、これから出て行ったら、無事に帰ってくることよ。照日のこと、信じているから」
「分かった! 必ず、無事に帰ってくるから!」
俺は誓うように声を出す。
俺とアムリスは母さんの待つ家へと帰ることになった。