2 逃げた先のモンスターたち
私はしばらく走った。
そして走った後に一度止まってスマホを取り出す。
連絡するのは天川君の方へ。
この状況で一番頼れるのは天川君しかいない。
彼ならきっとあのベルガラグナを倒してくれるはず。
その思いで早速スマホで連絡を取った。
でもだ。
「……繋がらない。ダンジョン内だとやっぱり圏外だからなのかな……?」
私は呟く。
今までダンジョン内で電話がつながったという話もない。
そのために、繋がらないなら天川君がダンジョンにいるしか考えられない。
「天川さんの家へとひとまず行きましょうぜ。契約したモンスターの皆さんがいるはずですから、頼れるはずですぜ」
腕に巻き付いたマトトが助言する。
今まではアイテムボックスに武器として入っていたけど、今はモンスターの状態だ。
武器のままの方がいいとは思うけど、心細いのもあってこっちの姿になってもらっている。
「そうだね、マトト。まずはそっちへ向かおう」
天川君の家へはここを真っ直ぐに行けばたどり着く。
なので、私は止めていた足で再び走り始めた。
道を少し走る。
するとだ。
真っ直ぐの道とは別の分岐の道にモンスターが数多くいたのだ。
私をさらっていったゴブリンの他にもカブトムシの皮を被った狼みたいなモンスターもいた。
更には黒い小人のようなモンスターもだ。
「うわっ! これは不味いですぜ……うようよとモンスターがいるなんて、勘弁して下せえ……」
マトトが驚く。
モンスターの威嚇の声がたくさん聞こえる。
敵意しかない声だ。
私は自身に理解を促すため、頷く。
「マトト、これじゃあ逃げられないから……覚悟決めていくよ」
戦闘の時が来た、その戦闘を切り抜ける覚悟を私は深める。
「……分かりましたぜ。佐波さんの初戦闘、無傷の完勝を収めましょうぜ」
こうなることも覚悟の上だ。
それにこうなることを予測して、事前にレベルアップだってしていたんだ。
杖に巻き付いてくれたマトトに触れて、武器化させる。
戦闘の準備は整った。
同時にゴブリンの一匹が私へと飛び掛かってきた。
私は返り討ちさせるために武器を振るう。
だが、その武器の振るいは空ぶった。
ゴブリンが何者かの力を受けて、横へと飛んで行ったからだ。
何が起こったの?
その疑問の中、加わった力の方へと見る。
「おう、佐波。無事だったか?」
武器を持った三木島君が私の傍で声をかけた。
まさかの救援なんて嬉しい。
しかも私の知っている仲間だってのも、すごく。
「三木島君! 無事だったのね!?」
私からの確認の声。
「ああ、俺はこの通りだ。心配いらない」
三木島君は傷もない様子で答えた。
パートナーの狼、リカルド君も傷がないようで何よりだ。
「じゃあ、私も加勢するから、ここは」
「いや、天川さんのためにここのモンスターは俺が引き受ける」
「え? 私もいた方が……?」
「そうかもな。でも、この状況、モンスターを食い止める役と一般人を守る役がいた方がいいんじゃないか? 佐波は守る役をやった方がいい」
提案を拒否しつつ、三木島君は向かってきた黒い小人に対して武器の大剣を振るう。
武器が当たって黒い小人は飛ばされた。
もしかすると、三木島君は私よりもLVが低いのにこんなことを言うなんて。
「で、でも……」
「逃げ惑っている一般人がかなり多いんだ、この状況。こんな格好の俺より守る役は佐波の方が適任だろうよ」
「そ、そうなの……」
こんな急転した状況、どこに逃げればいいかも分からない人が間違いなくいる。
私でさえも、どこへ逃げればいいか分からないくらいだし。
三木島君の言葉は説得力がある。
「俺のことは心配いらない。LVは低いけど、ガルガードさんに指導を受けてもらったんだ。ステータス以上の戦いは出来るはずだ」
「……分かった。じゃあ、いいんだね?」
「頼むよ。俺は天川さんのために少しくらいは役立ちたいんだ。こんな俺が輝ける機会、存分に生かしたい」
三木島君にここを任せるのは不安だった。
でも、私も戦えばその役立ちたい気持ちを無駄にするのも同然。
加勢するという言葉、私はそれを出せなかった。
「……三木島君、ここは任せるから」
そう言って、私は距離を置く。
同時に、リカルド君はモンスターに飛び掛かり、三木島君は大剣を振るった。
三木島君を置いて、私はその場を駆けていった。
ふと、振り返ると彼は大剣を片手で真上に掲げていた。
親指を真上に立たせるポーズ、それを模しているかのように。
「あと、一つ! 天川さんの家は誰もいないから、当たるなら他のところへ行った方がいい!」
「うん、ありがとう!」
三木島君の助言に私は礼を言って、前を向き直した。
しばらく私は走っていき、天川君の家も通過する。
走った後に私は立ち止まった。
ここまでくれば、さっきのモンスターもこっちに向かってこないはず。
武器化したマトトがモンスターへと変わる。
「でも、天川君のモンスターもいないんじゃ、どこへ行けば……」
マトトの言葉。
「そうね、行くべき場所はなくなったと思う」
当ての場所は現在思いつかない。
更にはどこへ向かうべきかもあやふやだ。
「次はどこに行きますぜか?」
「思いつかないのよね。逃げるべきかなって思っていたんだけど、もしかするとさ、マトト」
「はい、何ですぜ?」
お父さんには逃げるべきと言われている。
しかし、どこへ逃げればいいのか。
天川君だってどこにいるかも分からない、契約したモンスターだって。
なら、逃げる方針から変えるべきじゃ?
ここで私は自分の意思を述べようと考えていた。
と、そこで声が聞こえる。
「いたー! さなちゃーん!」
この声は私も聞いたことがある。
天川君と契約したモンスター、シュンさんだったはず。
だが、違和感があった。
「さなちゃん……? もしかして私じゃない人を探している……?」
私の名前は佐波だが、そういう風に呼ばれたことが一度もない。
事態が自体なので、天川君の知り合いの別の人の名前という可能性だってある。
この理由があって、私を呼んでいないと判断していた。
するとだ。
「あれー!? 返事してー! 佐波さんて呼ばないと機嫌悪くするのー!?」
今度は天川君がよく言う呼び名で呼んできた。
どう考えても私を呼んでいると分かる。
「あ、私だったんだ……呼んでいる人って……」
真正面からの声に私は呟く。
その後、道路から三人が寄ってきた。
シュンさんとミュサさん、最近会った狐燐さんもだ。




