13 再会の後は突然に
「トルーハ……男性だったんだな」
俺はハルトさん、もとい、トルーハさんへと視線を向ける。
「そうです。そういえば、別れるときの姿を言っていませんでしたね。すいません、先に言っておくべきでした」
狐燐さんは謝る。
「ああ、俺も聞いておくべきだったよ。と言っても、姿と形は十分に変えられそうだったし、聞いても見つけられるとは限らないってのもあるんだよな」
元の形からして生物という枠組みから外れている。
ドラゴンの姿に変わったとも聞くため、男性の姿で別れたと聞いたとしても、また変えられれば情報の意味がない。
そこでトルーハさんが俺の近くへ寄ってくる。
「しかし、こういうのっていいもんだね。というか、指輪が喋っているし、なんか聞いたことある声なんだけど」
拍手しながらトルーハさんは声をかけてきた。
「のんきに言うものですね。まあハルトさんに被害がなくてそれはそれでいんですけど」
俺からの言葉。
この戦いでも巻き込まれる可能性があったのにのんびりとした口調でよく言えるものだ。
あと、凄そうな力を持っている割に全然威厳を感じないのは逆にすごい。
「この指輪の声、えっと誰だっけか……なんかすごいことしたと思うんだけど、思い出せないな」
狐燐さんの声を覚えていない。
ということは、思い入れもなく気分で助けたという形か。
割といい加減に力を使ったような事情を推測してしまう。
だが、それよりも気掛かりなことが俺にはあった。
「それにしても、なんで、ハルトって名前で名乗ったんですか?」
「ああ、あれ? トルーハって名乗ったら不思議がられたんで、その名前をいじってみたんだよ。あと、人間の姿じゃないと周りがすっごく騒ぐから、変に龍の姿にも成れないんだよ。参るね、あれには」
この近辺でトルーハなんて名前の人間は不思議がられる。
龍の姿でい続けるのももってのほかだ。
そうなると、環境適応のためにハルトと名乗ったのも納得だ。
それと気になることももう一つある。
「それじゃあ、遭難したってのは本当だと見ても?」
「よく分からない門を覗いたら、こっちの世界に来てしまった、あれは遭難だよ。その時に……ああ、そうだ、その時に死にそうな狐と会って助けたんだ。確かその狐の声が指輪の声と同じだったんだ」
そういう形での遭難なら頷ける。
その後生き残ったのも自身の力で何とかしたってことなら、納得も出来る。
最も、トルーハさんはなぜか力を使わなくても生き残れそうな気もしなくはないが。
最後に確認をしたい。
本当に竜の姿に成れるかを。
「そうですか……では、竜の姿になってもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。ここなら竜の姿になってもよさそうだし」
トルーハさんの合意を得た。
すると彼は光に包まれて、粘土のように形を柔軟に曲げると、包んだ光が大きくなる。
その包んだ光が消えると赤と黄色の竜の姿になり、宝石が額にはめられていた。
間違いなく、狐燐さんから聞いた姿と合致だ。
「……これが、私の……切り離された力……」
俺の傍にいたアムリスが竜の姿を見て、呟く。
感慨深いものはあるだろう。
切り離された結果、アムリスは大きく人生が変わってしまった。
その切り離された力が目の前にいるのだから。
「ありがとうございます。戻っても構わないですが、ダンジョンから出た後の予定はどうするつもりで?」
「予定? 特にないんだな、それが」
「それだったら、俺のところへ行きませんか? 家に一人増えても問題ないですし、契約してくれると戦力としても大助かりですから」
「おお、そりゃ助かるよ。嬉しい限りだし、早速契約もしちゃおう」
俺の近くへとトルーハさんは寄ってくる。
すぐさま契約出来るのは何よりだ。
その時にだ。
突如、予想できなかった人物が現れたのは。
「え? あなたは……なんでこんなところに来たんですか!?」
俺は驚きの声を上げる。
それもそのはずだ。
その人物は俺の前に何度も姿を見せていて、今の状況で姿を見せることがありえない人物。
「天川照日、幸前継刀、あなた方に伝えることがあってこの場に来ました」
俺に声をかけた人物、メイルオンさんがこのフロアに来たのだ。
普通であれば、決闘以外に現わさない彼女。
それが何故かこの場に来た、不可解しかない。
「ちょっと待って、決闘なんて俺は一言も言ってないんだけど?」
「ええ、決闘の用事があってではありません」
メイルオンさんが来るのは決まって決闘の時。
それ以外に来るとはいったいなんだ。
特殊すぎる状況。
それでもいつもの冷静な口調なのはある意味助かる。
「それじゃあ、一体何の用があって?」
「はい、緊急事態です。それも大規模の、私だけでも対処できないほどの」
嫌な予感がよぎる。
大波先生もモンスターの動向に気を付けろと言ったばかりであったから。
「何があったんだ? その緊急事態って?」
「町の上空が突如夜になり、ダンジョンから大多数のモンスターが出現しています。一般人にも被害がすでに出ていますが、ギルドだけでも対処できない状況です」
聞くだけでも大規模だと分かる事態。
周囲の皆が驚きの顔へと変わるのも十分なほどであった。
「な……!? 嘘だろ!?」
「その嘘が現実に起きています。なので、ギルドから特例としてあなたに命令が来ました」
「……緊急事態を起こした犯人を倒せってことか?」
「その通りです。犯人は優勝候補の冒険者、早乙女早美佳とパートナーのジャクソン、その組をあなたに倒してもらいたいです」
メイルオンさんは手に平を真上に向けると、そこから映像が出てくる。
映像には制服を着た桃色の髪の女性と黒いマントを羽織った銀髪の男性二人が映っていた。
女性の方が早乙女、パートナーの方がジャクソンと表記されている。
「この二人を俺が倒せばいいということか?」
「はい。それと外に出たモンスターの撃破も頼みますので、よろしくお願いいたします」
「頼まれなくても、やるしかないさ。こんな状況は」
俺の意思の通達。
母さんも心配だが、シュンやミュサもいるので大丈夫だと思いたい。
佐波さんや三木島も不安だ。
レックスは頼りがいがあるが、その本犬も戦って別行動の可能性もある。
次にメイルオンさんは幸前の方へと視線を向けた。
「それと、幸前継刀ですが、早乙女の配下でトップの実力者を倒してください」
「ああ、分かったよ。こういう時だから惜しみなく手を貸すつもりさ」
トップの実力者となるとやはり、幸前と互角かそれ以上なのだろう。
このやり取りを見ていて、少なくとも大丈夫だという感情は俺にはなかった。
「冒険者の名前は大河原、パートナーはクリーバンです。現状、この組は敗者復活の冒険者として最もポイントを稼いでいます」
「僕たちよりも、か。その人を倒さないと僕の復活はないんだよね、確か」
「その通りです。あなたはその枠内での現状トップ2ですので、悪い話ではないはずです」
「すんなり復活とはいかないか、だったら倒したいね。その頼み受け入れるよ」
幸前は慌てることなく返答した。
幸前が負ければ復活だって無理になるだろう。
相手が分からない以上判断も出来ないが、不安はぬぐえない。
「それでは、よろしくお願いいたします。現状は混乱を極めていまして、倒したい人物の居場所も不明ですので申し訳ありませんが探して貰います」
メイルオンさんは俺達へと頭を下げる。
こんなことが起こるなんて思わなかったし、早急に見つけるなんて厳しい話だ。
「ああ、分かった」
「ただ、この事態が終わるまであなたたちと仮の契約を結ばせてもらいます。戦闘の手助けまでは手が回りませんが、情報の伝達までは力をお貸しできますので、それでご了承を」
「それで十分。分身出来るメイルオンさんなら、情報だけでも大助かりだ」
話によれば、分身は今いるメイルオンさん以外全員戦闘しているようだ。
戦闘の協力はできないこともやむを得ないか。
そして俺はトルーハさん、念のためヴェルナとも契約を済ませて、ダンジョンの外へと向かうのであった。
アイテムは魔導書が二つと剣が二つ。
それについては魔導書が一つと剣が一つと即決で分配することになる。
次の章から天川視点から一時的に佐波視点へと移ります




