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10 悪名を受け入れる覚悟

「知っているぞ、天川よ。でだ、何を聞きたい?」


 ヴェルナからの言葉。

 俺のことを知っているのであれば、話す手間が省けていい。


「悪名高いと聞くけど、なんでそんなことやるんだ? なんか訳ありのようにも見えるんだよ。部下の言葉を聞くに」


 俺が聞くのは悪名高いということについてだ。

 赤城が不愉快になっていた語句なので、そこは気になっていた。


「そんなことに興味があるのか……? まさか聞かれることになるとは」


「……まずいことを聞いたか? 言いたくないなら無理に言わなくても」


 聞いた内容は相手にとって驚きだったようで、少し不安だ。

 だが、彼女は不味い表情でも無いようである。

 答えてくれそうな予感はしている。


「いや、答えるぞ。その前に言っておくと私と配下を含めてな、別の国から逃げてきたのだよ」


「逃げてきた? その国になんかあったのか?」


「私は王女だったのだ。だが、私の国が敵国からの襲撃で滅んでしまって、逃げてきたのだ」


「もしかするとアムリスの国に逃げたのか?」


 俺の問いにヴェルナは頷く。


「その通りだ。ただ、すぐに保護はされなかった。配下も含めて保護までは扱いも悪かったな、みすぼらしい小屋で食事も環境も良くなかった」


「本当なのかよ、それ……?」


 俺には驚きがあった。


 話だけを聞けば、アムリスの国が悪いようにも受け取れる。

 こっちの方にも非があるとも言えることだ。


「そうは言っても、あなたは敵国と友好関係にありましたわよね? しかも、その敵国はアムリスの国とも敵対関係。あっさり引き入れてスパイだったら、侵略される可能性もありましたわ」


 ここでフェリアからの言葉が来る。


 状況が複雑になってきた。

 ヴェルナの考えが分からない以上、逃亡してきて早急に保護ってわけにはいかないのか。


 彼女は少しの沈黙の後に口を開く。


「ああ、その通りだ。まさか、あの国から襲撃されるとも思わない、すぐに保護されるとも思ってもいない、待遇までは覚悟していた上、そこまでは我慢できた」


「我慢すれば、ということは悪事に手を染める必要だってなかったんじゃ?」


 敵国という立場は受け入れていたのならば、悪事に染める必要だってない。

 我慢しているうちに認めてもらえる機会だってあったはずだ。

 今のところ、悪の立場になるきっかけが俺には見えてこない。


「私もそう思う、それは今でも……ある取引さえなければな」


「ある取引って……?」


 もったいぶった言葉に俺は問いただす。

 取引が大きな分岐となっているのは分かることから、興味が湧いていた。


 ヴェルナは沈黙の後に胸からペンダントを出す。


「私のペンダント、これは父の形見でもあるもの、それを目の前で私に壊せと言ってきた」


「え?」


「このペンダントは襲撃された時に父から託されたもの、それを壊せなんて出来やしなかった。だから私はそれくらいなら悪名を被ってでも生き延びようとしたわけだ」


「……そうなのか」


 父の形見のペンダントを壊すこと。

 逃げてきた国からの縁切りとしてはふさわしいことなのかもしれないが、父親とも縁を切るということになる。


 壊せなかったという心情は俺も分かる。

 それもあってか、悪名を被るという選択をした気持ちは理解できた。


「国の保護から逃れてから人さらいやら強奪、悪事は大体やってきたな。殺しまではやれなかったが、配下の皆には苦労を掛けた。私のわがままに耐えて従ってくれるのだから」


 ヴェルナは上へと視線を向けて、思い出すかのように口を開く。


「配下の皆からの信頼もすごいんだな。カイエンは耐久力が0になった後からでも立ち上がって戦ったぐらいだからな」


「そうか、カイエンは私のためによく働いてくれたからな。他よりも人一倍迷惑もかけている」


 辛い思いをしてきたということは分かった。

 ここで沈黙が流れる。


(そんなことがあったなんて……)


 アムリスからの言葉。


 彼女は秘匿されたし、関わりもほぼないようなものだったからな。

 責める人はいないさ。


「まあ、よく分かったよ。答えてくれてありがとうな」


 俺からの礼。

 どういう相手にせよ、やはりヴェルナに礼は言いたい。


「聞きたいことは十分か?」


 ヴェルナの確認。

 大まかには分かったが、あと一つ聞いておきたいことがある。


「まだ悪事に手を染めているということでいいんだな?」


「そうなる。それで配下を養っていかないといけない上に、人さらいを望んでいる人もいるからな。例えお前たちを倒しても」


「そっか……背負うものはお前も大きいけど、俺もお前を倒さないといけない。悪事は放っておけないから」


 俺だってこのまま相手を見過ごすということはできない。

 戦うしかないのは依然変わらない。


「戦わずに済めばとも私は思ってもいない。ただ、一つだけ言えるならば……」


「一つだけ? なんだ?」


「立場の違う冒険者にこのことを話して、少しだけ楽になった。礼は言わないが、嬉しかったとだけは言う」


「そっか。じゃあ、俺は敢えて遠慮なく戦うことにするから」


 俺はこう告げて剣を構える。

 同時に幸前もだ。


 礼を言わなかったことの裏には、もしかすると敵として戦ってもらうための気遣いなのかもしれない。

 だったら、その気遣いはくみ取っておく必要がある。

 それが遠慮なく戦うことで意志の汲み取りになるはずだから。


 俺が告げた後、ふとヴェルナは宙に浮き始める。

 その後に光に包まれてから、白く薄い円盤が光の中から数余多に飛び散っていく。

 光が消えると彼女の姿はなく、人の形を模した様に円盤が浮いていた。


 おそらくあれが彼女のモンスターの姿なのだろう。


「さあ、こい。私が相手をしよう」


 ヴェルナが告げる。

 すると、二つの円盤がこちらへと白い面を向けた。


「「うわっ!」」


 白い面が光を発してきて、俺と幸前から声が出る。

 即座の光の攻撃に俺は防ぐ術もなかった。

 攻撃が来ることは予想で来ていたが、光の速さまではさすがに反応できない。


 光もすぐに止むと、痛みがないことは理解できた。

 そして光を発した円盤はヴェルナの方へと向かっていった。


「二人のスキルは厄介な物だからな。こうして一人一つだけ対処できるのであれば、まずはこれを……」


 ヴェルナはそう言って寄ってきた筆を円盤に付着させる。


 そこで、あることに気付く。

 光を発した円盤の色が虹色になっていることを。


 やな予感はしてきた。

 何をすべきかはっきりしないが、今すぐに何かした方がいい。


(照日! 自然治癒のスキルが消えてる! さっきの光のせいよ、きっと!)


 アムリスからの言葉。

 俺のステータスを見れるアムリスであれば、言うことは間違いない。


 ともかく円盤を何とかしないと。

 円盤を引き寄せれば、その思いで俺は粘着化した空気を放つ。


 その中でヴェルナは筆で寄ってきた円盤にすでに何か書いていた。

 何をしているのかは分からないが、今からなら間に合うかもしれない。


「その円盤で何を!?」


 俺は粘着化した空気を虹色になった円盤へと向ける。

 しかし、他の円盤が寄ってきて光を放つと、粘着化した空気は俺の制御が効かなくなってしまう。

 制御できなくなった空気は落下していき、粘性も失って空気に戻っていった。


「おお、心配するな。すぐに終わったから二人ともスキルは返す」


 ヴェルナがそう言うと、二つの円盤が俺の方へと寄っていき、光を発する。

 光の範囲も大きく、光自体も早かったことから防ぐ手段もなかった。


「うっ!」


 光を前に俺は手で顔を覆う。


 光を受けて痛みはない、そこは同じ。

 だが、敵がただで光を浴びせるなんてことはまずありえない。

 何か俺のステータスで変なことが起きているはずだ。

 それが何かだ。


(照日! 今すぐステータスを見て! 耐久力が!)


 アムリスからの指示に俺はすぐにステータスをオープンする。

 すると分かったことがあった。


 俺の最大耐久力は先程のレベルアップで上がっていた上に、メイルオンさんも最大まで回復してくれた。

 最大は24500。


 その耐久力がダメージを受けたわけでもないのに23500に減っていたのだ。


「耐久力が……減っている。しかも、ただ減るだけじゃない……」


 減っていく耐久力を俺は目にして驚いていた。

 耐久力を見ていて、次に23000へと変わる。

 急激に減っているわけではないが、徐々に徐々にと時間をかけて減らしているようだ。


(照日、自然治癒のスキルが……自然衰弱のスキルに変わっている)


 アムリスからの言葉。


 ようやくあの光のやったことが分かった。

 どうも、ヴェルナは俺のスキルを円盤を通じて書き換えたようだ。

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