9 彼らの上司の対面
「こっちもなんとか勝てたよ。なかなか攻撃が通らなくて苦労したけどね」
幸前が剣を払うように一振るいして、言葉をかける。
同時に光に包まれた髭の男も消えた。
消える直前に何かを持っていたようだが、消えた今では確認しようがない。
「おかげで私のできることなんてなかったに等しいですわ。歯痒いこと」
フェリアは不満の言葉が出た。
よく見ていなかったが、弓矢の攻撃では防御能力が高い相手には力不足だろう。
実質一対一で戦っていたようなものか。
「こっちは相手の攻撃力が高くて同じくてこずったな。それじゃあ、ハルトさんをダンジョンの外へ」
俺から改めて提案を出す。
そこで、ハルトさんは入口の方へと佇んでいた。
なにか考え事でもしているかのように。
「いや、それも無理そうだ」
ハルトさんの言葉。
「え? どういうことですか?」
そんなことを言われても俺は状況が飲めない。
「入り口にシャッターがあったようで閉まっている。外にはいけそうにないな」
ハルトさんが向いている方へと見る。
俺達が入ってきた入り口二つが灰色のシャッターがはばかっていたのだ。
出ていくなと言わんともしているように。
ただ、もう一つの奥への道が空いていたのは幸いなのか。
「そんな……」
メイルオンさんだってすでにいない。
頼みを聞けるかは分からないが、頼むことさえも今は出来ない状況だ。
「戦闘が始まる前は間違いなく閉まってもいなかったし、少なくとも君の戦闘が終わってからも締まっていなかったはず……」
「そういえば、髭の男が何か持っていたような気がするけど……まさかあれってシャッターのスイッチだったんじゃ?」
俺は髭の男性が持っていたものを思い出した。
今思えば、あれがシャッターのスイッチで指を触れていたような気がする。
あれで俺達を閉じ込めるための動作ってことになるのか。
「開けるスイッチもないのかな?」
「それもないですから、ここは俺が試しにやってみます」
俺はシャッターの前へと歩いて行き、それの下に手を差し込む。
両手で持ち上げてみるが、少しの動きもない。
(やっぱり持ち上げてもダメね、びくともしない……どうするの?)
しかもこのシャッターは持ち上げた感覚から見るに分厚そうなうえに、耐久力も高そうだ。
「だったら、壊すしかないな。派手にやるしかないようだから、ハルトさんも下がっていてくれ」
俺の指示にハルトさんは距離を置いて、それから俺も距離を置く。
手ごたえから察するに、ブラストボム一発だけではダメ。
だったら、回数を増やしてそれを集中させること。
(なるほどね。魔法の重ね掛けで、圧縮すると。これなら威力も倍になる)
そういう訳だ、アムリス。
俺は剣をシャッターへ構えて、結晶を精製する。
剣の先にバスケットボールくらいの結晶が出来た。
これに魔法を重ねるわけだ。
「炎魔法、ブラストボム。炎魔法、ブラストボム。炎魔法、ブラストボム……これで!」
魔法を三度唱えて、俺は結晶にブラストボムの効果を乗せる。
その結晶の爆発力を高めるため、さらに粘着化して圧縮した。
魔法の乗った結晶、それを俺はシャッターの前に投げつける。
火が付いた結晶は向かっていき、シャッターへと接触。
轟音と煙が巻き起こる。
しかも、ブラストボムの威力の三倍はあるくらいの煙と轟音だ。
俺は瞬時に片腕で防御していた。
(こんなの受けたら、でかいモンスターでも木っ端みじんよ……凄い爆発)
威力は間違いなく、ブラストボムの三倍だ。
これでダメだったら、どうしようもない。
煙は晴れていき、シャッターの様子が見える。
シャッターは少し傷が付いたくらいで、あまり効果がなかったようだ。
「ダメだったか……これじゃ壊せないな」
残念だが、壊す手段もこれでダメならばどうしようもない。
幸前に頼むにしても、この状態を見るに結果は同じだろう。
幸前が俺の傍へと寄ってくる。
「天川君。探してみたところ、こっちもスイッチらしきものはない」
「じゃあ、奥に進むしかなさそうだな。ここで留まるわけにもいかないし」
「そうだな、もしかすると奥ならば解決策があるかもしれない」
幸前の言葉。
現状、シャッターを突破する手段もない。
ならば奥へと進むしかなかった。
そのため、俺達は奥へと進んでいった。
フロアを後にして、俺達は暗い通路を進んでいく。
俺を先頭にハルトさん、フェリア、白い馬、幸前の順に進んでいた。
ある程度進んでいくと、次のフロアからの光が漏れる。
「来たか、カイエンとヒョウゲンを倒した冒険者よ」
入口から聞こえる女性の声に俺は立ち止まる。
同時に後ろの人たちも止まる。
どうも俺達がいることはお見通し。
少なくとも、入口からの不意打ちもダメそうだ。
ならば、堂々と入っていくほかない。
立ち止まった後に俺は入口を抜けてフロアへと入った。
そのフロアは同じくレンガが積まれていて、窓からの景色も見えていた。
「ああ、その通りだ。二人の冒険者を倒してきたぞ」
俺からの返答。
フロアの奥には黒く短い髪の少女がいた。
声は大人かと思っていたら、予想を裏切る姿だ。
少し驚きがある。
「冒険者か……その呼称もいいものではないな」
「そうか……ところで、名前を聞きたいんだけどいいか? こっちも聞きたいことはあるんだ」
冒険者という呼称が気に入らないことも気になる。
だが、他にも聞きたいことはあるため、まずは名前を聞いておきたい。
「私にか? 変わった男だ」
「まあな、冒険者に成っていい意味でいろいろ変わったことがあるんだ。そう言われても仕方ないな」
俺からの返答。
少女からの言葉の解答としてはおかしいかもしれない。
でも、変と評価されても否定はできないうえに、いい意味で捉えておきたい。
なので、あえてこういう言葉で返答した。
その返答に少女は少し笑みを浮かべる。
それからこう返答した。
「……私はヴェルナだ。世間一般では悪名高いと聞く、そしてこのダンジョンのリーダーとも言える」
少女は名乗った、ヴェルナと。
赤城らの男とカイエンたちの上司とも言えるヴェルナがその少女だと。
「俺は天川照日だ。知っているかもしれないけど」
俺もまた名乗った。
こうして勝ってきて有名になってはいるが、俺も名乗っておきたい。




