表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/143

8 粘る勝負の行方

 俺がアムリスに小声で話した後、カイエンからの行動があった。


「さっさと行くぞ! まだまだ俺の攻撃は激化してくぜ!」


 カイエンの言葉。

 それと同時に攻撃に移るようで、杭を後ろに下げる。


 先ほどと同様に液体を飛ばす攻撃だ。

 杭に液体もまとわりついている。


「そうくるか。だったら俺は……」


 俺は剣を構えて、言葉を放つ。


「くらえやぁっ!!!」


 カイエンは俺に向けて液体を飛ばしてきた。

 距離は先程よりも取っている。

 しかし、それでもすぐに追いつきそうなほどに早い。


「水魔法、フロストビーム」


 俺は魔法を発動させて、足元に魔法陣を出す。

 魔法を向けるのは相手でも床でもない。

 新生の剣、ベルガルドエンデスに向けてだ。


 魔法をかけると剣の刀身が氷結して、冷気を帯びる。

 これでフロストビームの効果が剣に乗った。

 ベルガルドエンデスの力があってこれが出来る。


 そして、俺は飛んでくる液体に向けて、斬撃を合わせた。

 刀身が液体に触れて、液体は凍り付いて行く。

 触れたのは一瞬の間で、この手ごたえで液体の動きは封じたと確信できた。

 だが、液体が俺へと向く力はまだ感じる。


 さらに凍った液体へ俺のスキル、反射化を念じる。

 斬撃をそのまま液体へと振りぬく。

 凍った液体が俺へと向ける力が徐々に真逆へと向かうことが分かった。


「なっ!? まさか!!」


「お前の攻撃! そのままそっくり返すぞ!」


 俺は一気に剣を振りぬくと、凍った液体が破片へと砕ける。

 同時にその破片がカイエンへと反射化された力も加わって、速度を上げて向かっていく。


 この反射化のスキルは西堂さんから回収したもの。

 そしてその彼女は俺の結晶の攻撃をラケットの一振りで無効化した。

 反射化のスキルなら俺にやったように今回の攻撃も無効化できると考えて、この手段をとったのだ。

 おそらく、反射化によって液体が加える力がそのまま反射されている。


 無効化できれば上々だったが、凍結させて無力化したせいもあってか、理想的な形でカウンターとなってくれた。


「な! 鏡のように反射させて……があ!」


 カイエンは凍った破片の反射を受けて、飛んで行った。

 予想できなかった上に速度も速かったためか、防御も出来なかったようだ。

 床とぶつかり、仰向けの状態で彼は壁際まで滑る。


 彼の耐久力は12000から8000へと変わり、倒れた状況。

 この隙は逃せない。


 俺は結晶を精製して、彼へと伸ばした。

 鋭利な結晶の先端が距離を縮めていく。

 ただ、彼に触れるぎりぎりまで伸ばしただけで、攻撃までは行わない


「どうだ? これから俺はもう一度攻撃をする。降参するんだったら攻撃はやめだ」


 俺からの提案。

 乗りはしないと予想しているが、念のためだ。

 ちなみに粘着化した空気もカイエンには効果が薄いので、ブラストボムを結晶に乗せて攻撃を行う予定だ。


 彼は答えるために口を開く。

 予想できた内容を。


「へっ……こんな状況だから降参はできないんだよ。降参は勝負を捨てる意志を見せること、最後まで無様は晒せねえからな」


 カイエンは笑いながら答えた。

 俺も逆の立場ならこう答えたかもしれない。

 気持ちには共感できた。


「そうか……なら俺はこうする。炎魔法、ブラストボム」


 結晶を伸ばして、魔法を唱える。

 カイエンへと刺さったと同時に結晶に念じて、まとわりつかせる。

 まとわりついた結晶は炎もまとっていた。

 炎のダメージもありそうだ。


 そして響く爆発音と黒い煙。

 時間が経つと耐久力の表記だけが見える。

 これでけりが付くと良いのだが。

 そう思っていると、カイエンの耐久力は0となっていた。


 こちらの勝負を見ていたメイルオンさんは頷く。


「勝者、天川照日」


<レベルアップ! レベルアップよ!>


 勝利の宣言。

 この勝負は俺の勝ちということだ。


 一気に負けに傾くかもしれない勝負。

 それに勝利出来て、一安心だ。


「もしかすると、カイエンの攻撃力がだんだん上がっていったかもな。そのうち、最大まで回復していても一撃で0なんてこともありえたかもしれない」


 カイエンの言葉では攻撃が激化すると言っていた。

 更には液体が飛ぶ速度も速くなっていたので、もしかすると攻撃力が上がったおかげの可能性もある。

 飽くまで可能性の話だが、この勝負は一瞬の油断もできなかったのは間違いない。


 カイエンの方へと視線を向けていると、煙が完全に晴れていた。

 姿も見えている。

 そして驚くことに、彼は手を付けて上半身を起こそうとしていたのだ。

 耐久力も0だというのに


「おい……待ちな。こんな攻撃……俺を負かすには、力不足だぞ」


 カイエンは言葉と共に膝にも力を入れ始める。

 立ち上がりは震えもあって、おぼつかない。

 だが、それでもからは脚に力も入れて立ち上がっったのだ。


 まじか。

 幸前だって耐久力0で立ち上がれなかったのに。

 なんて根性なんだ。


「おい……無理すんな。気持ちはわかるが、そこまでしたらこれから先どうなるか」


「だから何だよ? 負けたらどのみち……碌な目に会わねえんだよ、俺達は。はっきり言うぜ……お前の覚悟よりも何倍も重い覚悟背負っているんだよ、俺は……」


 カイエンからの言葉。

 その覚悟に偽りがないと分かる。

 こうして立ち上がった上に、おそらくヴェルナのために戦っているのがよく分かるからだ。


 すると、俺からではなくメイルオンさんがカイエンの方へと歩み寄っていく。


「負けは負けです、カイエン。引き下がりなさい」


 メイルオンさんからの言葉。

 特殊な状況であるが、彼女からこういう言葉が出るとは珍しい。

 いつもは最低限のことだけやって、受け身の行動しかないのに。


「っせーんだよ! てめーらが俺達のことをあんな扱いで済ますんだ! だからこうでもしないといけねーんだよ!」


「それでもです。だからと言ってカイエンのことが許されると思ってはいけません」


 カイエンはその言葉を聞いて、膝の力が抜けかけたのか、足がずれる。

 少しの間があった。


「……そー言うならよ。先にお前からぶっ倒す!」


 杭の攻撃がメイルオンさんへと向かう。


 まさかの事態だ。

 メイルオンさんに攻撃が向かうなんて。


 俺も結晶を精製して、彼女へと壁を向かわせた。

 だが、予想がつかなかったため、防御の動作は遅れた。


「カイエンの負け。それが揺るぐことはありません」


 メイルオンさんは静かに告げた。

 攻撃が向いているのに氷のように冷静に。


 その言葉の後、杭が刺さろうとする。

 しかし、その杭は寸前で止まった。


 分身していたメイルオンさん二人がカイエンの腹へと蹴りを加えたからだ。

 俺の戦いを見ていた彼女以外に現れた分身が、だ。


「ぐ……が……」


 姿勢を崩して前に倒れるカイエン。


「カイエンの負け。それが揺るぐことはありません」


 再び同じメイルオンさんの言葉と同時にカイエンは倒れた。

 さらに三人の彼女が足を真上に上げて、彼へと振り下ろす。

 もう声を出す力もなくなったようだ。


 割と怒っているのかもしれない、メイルオンさんは。

 言葉は先ほどと同じだが、どこか口調は違っていたから。


「えっと、俺の勝ちということでいいんですよね?」


 俺からの質問。

 予想外のことが起きて少し不安が生まれたので、聞いてみる。


「はい、不測の事態は発生しましたが、摘み取りましたので問題ありません。では、敗者の搬送をしようと思います」


 三人のメイルオンさんはそう告げてカイエンと共に光に包まれる。

 光に包まれると、光は消えて行った。


 予想外のことが起きたが、分かったことがある。

 やはりメイルオンさんに変なことをしない方がいいということを。

 最も変なことをする気もないが、意図せずにこうなってしまった場合も避けた方がいいことも分かる。


 それと、幸前の方の勝負も気になる。

 どうなったのかと視線を変えるとだ。


「勝者、幸前継刀」


 メイルオンさんの勝者を告げる声。

 幸前も勝てたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ