5 幸前、配下を辞める
「すごいな、幸前。俺だったら倒すのに時間がかかったな。本当に助かったよ」
俺は幸前への驚きを言葉に出す。
「いや、天川君。君もよくあの男性を助けたよ。理想的な動きだ」
幸前からは褒めの言葉を貰う。
「そうか? 念には念を入れたかったから、重ねかけしただけだ。被害が出ないように」
「あのバラは一度僕も戦ったことがあって分かるけど、赤い粉は少しでも吸うと、周囲へ無差別に攻撃する狂人状態になるんだ。僕もなったけど運よく回復薬があってね」
「ああ、だから理想的だったと」
あの動きでよかったと今更ながら思う。
それにアクアシールドを念のために貼ってよかった。
このシールドだけで防いでいたら、吸っていた可能性もある。
もしも吸っていたら回復手段はなかったから、俺か男性が狂人になって手が付けられなかったはずだし。
「あの時はひやひやしたわ。まあ、私は何度も幸前に助けられているから、少しは恩を返す形に成れてよかったわ」
フェリアが白い馬から下りて声をかける。
協力的な馬のようだし、おそらくは幸前が契約したモンスターなのだろう。
それと今の話を受けて、幸前は苦笑いを浮かべていた。
「正直負けを覚悟したのはあの時で二度目だよ。状態異常で負けたわけだしね、天川君の時は」
幸前は語る。
しかし、幸前でも敗北の境をさまよったことがあるのだな。
正直言えば、余裕でモンスターも蹴散らしていたイメージがあったから。
「まあ、それは私も同じですわ。あと、もう一つ言っておきましょう、天川さんに」
フェリアは俺に顔を向けて話を切り出す。
「俺にか?」
「幸前は天川さんの配下から抜けて、冒険者として再度あなたに刃を向けることを。そして、配下なのは今日までということを」
「冒険者として復活するのは聞いていたけど、配下は今日までなのか」
ガティークから幸前の復活は聞いていた。
でも、明日からとは。
「配下から抜ければ、稼いだポイントはゼロ。ですが、天川さんを倒せばその稼いだポイント以上が手に入るわ。王に成るためにはあなたの撃破が必要不可欠」
「まあ、そうだな」
「明日から幸前は敵として立ち向かうこと。それは覚悟しておくといいですわよ」
指をさしてフェリアは語る。
こういう時には望むところだ、とか、負けるつもりはないというべきなのはわかる。
でも、とりあえずはこの言葉を言いたい。
「ああ、復活してよかったな」
俺からの言葉。
その後に沈黙が流れる。
なにせ、フェリアは意表を突かれたと顔で語っていたからだ。
「え? 復活して、よかった? 私、あなたを喜ばせることを言ったつもりがないけど……?」
「その復活のために今までポイント稼いできたんだろ? 大変だったろうし、それが報われてよかったじゃないか」
「そ、そうだけど……あなたと戦うのよ? 王に成るための道を賭けて」
「まあ、こっちも負けるつもりはないさ。でも、俺は単純に苦労が報われたことにはよかったって言いたいんだよ。おめでとう、幸前、フェリア」
俺からの激励。
フェリアの言葉遣いも少し変だ。
普段のは作っているような言葉にも見える。
もしや今の言葉遣いが素なのかも。
その彼女は沈黙して少し後に言葉を返す。
「……その、ありがとう。まさか、おめでとうなんて言葉、言われるなんて……」
「まあ、俺も幸前の稼いだポイントでだいぶ助かっているから、幸前の稼ぎには感謝したいし」
フェリアにはアムリスのことをさんざん言われた。
だが気持ちを入れ替えているようだから、今の関係も特に問題はない。
なので、それについてはもう水に流すことにしている。
「僕も天川君の言葉にありがたいと返すよ。それと、救った男性についてはいいのかい? 聞いておくことくらいはあるんじゃないか?」
幸前は馬から下りてから話す。
同時に馬の頭を撫でた。
あの男性は確かにいろいろ不可解なことがある。
「おっとそうだな。いろいろと聞きたいことがあるんだよ。という訳で……話の方、いいですか?」
俺は男性の方へと視線を向けて言葉をかける。
さっきまで逃げ回っていて、茶髪でオレンジ色の指輪をしている男性に。
見た感じでは俺よりも背が大きく、俺よりも年上のように見える。
何でこの制限のあるダンジョンにいるのか。
何のためにここにいるのか。
その男性に聞くために
「あ、うん。聞きたいことならいいよ」
特に難しい顔をする様子もなく、男性は受け入れの姿勢を見せた。
あんなことがあったというのにマイペースな性格なのかな、この男性は。
引っかかるところはあるが、こうして話してくれるならとにかく聞いてみたい。
「名前を聞きたいのと、何故ここにいるかって教えてもらいたいんですが」
「ああ、山の中で変に歪んでいるように見えたところがあったんだよ。そこがふと気になって入ったらこんなところに来たわけ」
「あれ、小屋から入ったわけでは?」
「なかったよ、小屋なんて」
まさかの話だ。
俺が入ってきた小屋から入ってきたわけではないと。
では一体と考えていると、このフロアのことで気が付いたことがある。
「って、よくみるとフロアの通路が三つある。ダンジョンの入り口ってもう一つあったと考えられるか」
俺達が入ってきてないところは男性が入った入り口で、もう一方は奥へ続く通路、というところだろう。
今までのダンジョンは入口が一つしかなかったので、こういうパターンは意外だ。
「ここダンジョンだったんだな。そういえば、なんか入る時に頭の中で声が聞こえたような気が」
「二組の冒険者じゃないとダメとかそんな事では?」
「ああ、それそれ。まあ、何とかはいれるし気にしなくてもいいかって、潜っていたらこんなことになったわけだ」
「凄い肝ですね。あなただったら遭難して慌てずに生きてそうな気もします」
「ありがとうな。実は遭難して本当に生き延びちゃったこともあるんだ。よく分かったな」
冗談のつもりで言ったんだけど、マジだったのか。
変なことに巻き込まれるけど、妙に悪運が強いタイプの人間みたいだから、言った俺自身も不思議だとは思っていない。
この男性はどことなく変なところで恵まれている感じもしていた。
「そういえば、名前、聞いてもらってないんですけど、教えてもらっても?」
「ああ、俺の名前か。ハルトって呼んでくれ」
では俺のやることはあと一つだ。
俺はハルトさんの腕へと手を伸ばす。
「分かりました。ではハルトさん、俺がダンジョンの外へと送りますから、行きましょう」
この一般人をダンジョンにそのままという訳にはいかない。
これからモンスターだって出るのに流れ弾に当たってケガということは避けたい。
ダンジョンも攻略中だが、中断してでも送らないといけない。
「ええ……外へ出ても暇だし、二人とも強そうだから見学って言うのはダメ?」
そんな提案をハルトさんに駄々をこねる。
まさか冒険者に成りたいという訳ではないよな。
佐波さんはレックスのことがあったので許可したけど、今回は微塵の関係もない男性だ。
なので、受け入れる理由はない。
「ダメです。何かあったときには俺だけでは責任をとれないので」
「ちょっと冒険者ってのも興味あるし……そこのところ頼みたいんだ。いいかな?」
「そんなこと言ってもダメです。さあ、早く一般人はダンジョンの外へと避難を」
「ああ、そんなあ……」
俺は力ずくでハルトさんの手を引っ張る。
俺よりも年上の男性相手だが、こちらは冒険者としてLVが上がっている、当然、力も。
なので、片手で引っ張っていくのも簡単だ。
そんなハルトさんを引きずって入口へと行くと、ふと通路から声がかかる。
「なんだ? 騒がしいと思って様子を見たら、やっているな」
俺は声の方へと見る。
そこにはコートで厚着した男性と、黒いひげを生やした男性の二人がいた。
口ぶりからするに味方とは思えない。
嫌な予感はする。
「え? こんなタイミングで……?」
不安を俺は呟く。
わずかな可能性だが、やはり敵でないことにかけたい。
敵であれば、ハルトさんを送るのが後回しになってしまう。
「しかも、冒険者じゃないかよ。ヴェルナ様への障害になる予感がするぜ」
コートの男性がヴェルナ様との語句を出す。
俺の敵だということがすぐに分かった。
ハルトさんのことを後回しになる可能性がさらに高くなる。




