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2 スザンガの砦へと行く前に

 俺は幸前からの連絡を受けてダンジョンへと向かった。

 道中も難なく進むことが出来て、すぐに彼の元へとたどり着くことが出来た。


 たどり着いた場所は周りは草木が茂っていて、道として塗装されていない。

 他にあるのは小屋が一つあるだけだ。

 幸前の話では小屋の奥がダンジョンになっているとのこと。


「しかし、フェリア。あなたからのお誘いなんて意外だったわ。私がいるから拒絶すると思っていたけど」


 先に声をかけるのはアムリス。

 彼女の表情はにやついていた。

 お誘いのことについては彼女にすでに話していた。


「な、悪いかしら……」


 アムリスから視線をそらして、フェリアは答える。


「からかっているわけじゃないわよ。私は別にいいけども」


「ま、まあ、こうして負けましたから、意識を変えましたわ。なので、こうやってあなたたちの戦いを見て学ぶ機会が欲しかったですし」


 フェリアが呼んだ理由を語る。


 あのこっちを見下していたフェリアがね、こうなるとは。

 いろいろあって、態度も柔らかくなったという訳か。

 俺としては前みたいなことを言わなくなっただけで十分だ。


「ありがとう、天川君。これで行けそうだ」


 幸前からの礼。

 武器もすでに持っていて、準備は出来ているようだ。


 更には俺と同じ指輪も指にはめている。

 契約石の指輪で、モンスターとの契約もしていると見える。


「こっちはいつでも準備が出来ている。早速向かってもいいぞ」


 幸前の言葉に対して、俺は答える。

 すると、スマホが鳴り始める。

 音からして俺からだ。


「こっちも急ぎではないから、電話の時間はある。遠慮しなくていいよ」


 幸前からの話に俺はスマホを取る。

 スマホを見ると電話は大波先生からだと分かる。

 何か重要なことかもしれないので、ここで話は済ませておきたい


「すまない、じゃあ遠慮なく……はい、もしもし」


 俺は謝りつつ、スマホからの応対をする。

 大波先生からの声が聞こえてきた。


「ああ、照日君。時間はいいか?」


「はい、問題ありません。大波先生」


 幸前からも許可は取っている。

 流石に長い時間だとまずいが。


「前に話していたヴェルナがいるだろ。そいつの部下を灯里君が確保して、話を聞き出したんだ」


「え? それのことで、俺に話があるってわけですか?」


「ああ、そうだ。話によるとヴェルナはダンジョンにいると聞く」


 ダンジョンとの語句。

 まさか俺の近くのダンジョンが、ってことはないか。

 でも、一応名前は出してみるか。


「ダンジョンですか。まさかスザンガの砦とかそういう名前であったりとか?」


「ほう、御明察なこと。その通りだ。そこにトップのヴェルナがいると部下は話す」


 まじか。

 当てずっぽなのにドンピシャなんて。


「このダンジョンは二組の冒険者でないといけないようです。なので、俺と幸前で向かう予定で、今目の前に来ています」

「おお、手が早い。その二人ならば安心だろう。だが、部下も強力な上にヴェルナも伊達にトップの座にはいないからな。油断はしないように」


「分かっています。油断すれば負けるかもしれませんし」


 油断が負けに繋がるのは今まで何度も戦って分かっていることだ。

 今もこれからも油断をしないつもりだ。


「それとな、あれからアムリス君の父親とも連絡が取れるようになってな。それで、私の調査にも協力してくれることになった」


「え? アムリスの父親とも? 父親ってこちらの世界の干渉があまり出来ないって聞きましたが」


「そうだ、でも独自のルートがあってな、こうして連絡が出来たわけだ」


「まあ、連絡が出来るのは良かったです」


 しかし、連絡経路の確保が早いな。

 少なくとも俺が来る前までは確保できていなかったのに、一日でできるなんて。


「それでだ、これからモンスターの動向には気を付けてほしい」


「動向に……なにかあると見ていいのですか?」


 先生の声も少し険しい。

 詳しく聞いておきたいないようだ。


「ダンジョンのモンスターたちの動きがきな臭くなっているという話をアムリス君の父親から聞いた。最近は妙におとなしくてな、灯里君達もそれを感じている」


「ダンジョンのモンスターの動きがきな臭いですか? それを伝えるために先生と連絡経路を確保したと見ても?」


 俺は敢えて先生の言葉の重要部分を繰り返し言葉に出す。

 俺の周りにも聞いてもらうために。


「そうなる。父親は周りから咎められるかもしれないが、背に腹は代えられないと判断しての連絡なのだろう」


「そこまでのことを……分かりました。他の皆にもこのことは話しておきます」


 この情報を俺だけで留めてはいけない。

 他の皆への警戒のためにも。


「では、私からは以上だ。気を付けてくれ」


「先生こそ、気を付けてください」


 割と先生も重要な情報を聞いているわけだ。

 敵に密かにならわれているということもあり得るかもしれない。

 その理由があって、先生には気を付けてもらいたい。


「話は聞いたよ、天川君。ダンジョン内のモンスターがおかしいのだろう?」


 幸前からの言葉。

 ある程度話の内容を理解しているようで助かる。


「そういう訳だ。しかもアムリスの父親もそう感じているって大波先生に言っていたんだ」


「アムリスの父親……王様も感じて伝えたのか。これは僕も警戒した方がいいね」


「何かが起こるかもしれないからな。これは他のみんなにも今の内に連絡しておきたい」


 またもダンジョンの攻略が後回しになる。

 連絡することは重要だが、少し申し訳ない。


「連絡の時間くらいは僕も待てるから。ダンジョンはその後かな?」


「まあ、そうだけど。佐波さんに拡散を頼んでもらえれば後は大丈夫だ、時間はそうかからない」


 佐波さんも三木島やレックスたちの連絡経路を確保している。

 なので、彼女一人に連絡すれば後は大丈夫だ。


 俺はメールにて佐波さんに今回の要件を伝える。

 メールを送ったとにはすぐに彼女からの返信が来て拡散すると了解してくれた。

 連絡はこれで済んだわけだ。


「もういいのかい?」


「ああ、これで問題ない。待たせて申し訳なかったけど、これでダンジョンへと行けるぞ」


「別に待つのは問題ないさ、時間も短かったし。それじゃあ攻略と行くか」


「ああ」


 俺はそう言って武器を取り出す。

 ちなみに、グランデソードの混成もガティークに渡す前には解除している状態だ。

 準備を整えてから、俺は小屋へと入っていった。


 幸前が奥の壁を通過して、俺もその後を追う。

 壁を俺も通過すると暗い通路に入り、脳内にアムリスの声が響く。


<ダンジョンの通過条件を満たしたわ。これで通過おっけーよ>


 システムボイスから許可を認められる。

 一組だったら、ここで通れなくなるという訳か。


 俺の前から幸前が語る。


「そういえば、このダンジョンについて何か話してなかったかい? 特殊なダンジョンだったから分かったことがあれば教えてほしいな」


「聞いているのはダンジョンにいる敵くらいか。ヴェルナって悪名高いやつがいるから、そいつらを敵に回すと聞く」


「それは厄介なことになるかもしれないな。まあ、どういう敵だろうと蹴散らしていくしかないのは変わりない」


 幸前の言葉。

 その後に俺の後ろから声を聞く。


「そうよ、私たちだって天川さんと戦った時以上に強くなりましたわ。ダンジョンの敵なんて簡単ですわよ」


 フェリアからの声だ。

 対応は柔らかくなったが、割と張り合いたいという気持ちは残っているのかもしれない。

 俺としてはこっちを見認めてくれれば張り合うのは構わない。


「あら? 言うじゃない。照日も十分強くなっていることは頭に入れた方がいいわよ」


 で、それにアムリスからも張り合いの声を出してきた。

 強くなったことは事実だけど、張り合ってくれとは言っていない。


 俺は後ろを見ると、移動しながらフェリアとアムリスはお互いをにらみ合っていた。

 お互いに不快になるようなとげのある言葉はないけど、ライバルのような関係に収まっている感じだ。

 これくらいなら俺も不快ではないし、この関係は続けてもらっても構わない。


 移動をしていると奥の通路から光が入ってくる。

 同時にフロアから声も聞こえてきた。


「おやおや? なーんか生意気言っている女性の声が聞こえましたよ? こりゃ俺達も黙っていられないね」


 フロアからの男性の声。

 幸前は立ち止まり、俺も立ち止まる。


 通路からの不意打ちも俺達の存在を知られては無駄だ。

 なので、俺と幸前は堂々とフロアへと入る。


 そこはレンガで囲まれた壁がフロアを形成していた。

 窓もあって、青い空もそこから見える。

 そのフロアには赤、青、黄の別々の鉢巻を身に付けている三人の男がいた。



<スザンガの砦 潜入開始>

<攻略難易度 LV5>


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