3 優勝候補との対面、だがしかし
大波先生から冒険者に成ったという告白を聞く。
電話でも聞いていないことだった。
こんなことは良そうも出来なかったこと。
その言葉の後にアムリスは俺の傍によってくる。
「照日、このドリリア、優勝候補の一人よ」
そしてアムリスは俺に耳打ちをする。
「な? 優勝候補の一人か。ということは先生、もしかして」
俺は言葉と共に先生への視線の色が変わる。
優勝候補ということはやはりポイントを稼ぐ目的があるはず。
まさか、俺と戦うつもりなのか。
先生と戦うのは心苦しいし、それだけは避けたいところだ。
「いやいや、照日君の思ったことは違うと言えるぞ」
俺の心積もりを大波先生は否定する。
先生がそう言うのだから、間違いはないだろう。
でも冒険者に成った意図が見えない。
「じゃあ、一体?」
俺からの質問。
「私はこれでLVが10ちょっとしかない。戦っても負ける自信があるから」
「……戦う意思はないってことでいいのですか?」
「そういう訳だ。むしろ君の配下になるつもりでいるんだ」
先生の意図を聞き、俺は安心した。
これで戦うことになってはやりづらい。
傍ら、隣のドリリアは肩を落としていた。
「せっかく……せっかく優勝候補としてこの世界に来たのに……あんまりよ、こんなことなんて」
ドリリアは残念の言葉を出す。
確かに優勝候補として来て戦うことも放棄しているようであれば、落胆もデカいだろうし。
「まあまあ、十分私の役に立ってくれているんだ。君が来てくれてこれで感謝しているんだ」
「もう、うるさい! この波平!」
「悪いな、まあ今回は諦めてくれ。君は次の機会もさらに次の機会もありそうだし、それで頑張ってくれ」
ドリリアに横から握り拳で叩かれつつ、痛くもなさそうな大波先生は語る。
波平はたまに言われる先生のあだ名だ。
本名は大波平次郎であるため、そこからあだ名がついた。
正直言えばドリリアには同情の余地がある。
だが、今回は戦わない方がいいので俺からは何も言わないことにする。
もしも彼女の要望をかなえるのであれば、きっと俺との戦いは避けられないだろうから。
なので、これが一番いい収まり方だ。
「それでなんですが、高校での話は一体?」
「それだな。具体的には今回のダンジョンの出現についてだ。ここからは移動して語ろう」
大波先生は叩くドリリアに目もくれず、移動を始める。
俺は彼女から距離をとって移動していく。
校舎への入り口の道を歩みながら、会話が再開された。
「なんだか今回は変だと聞きます。ダンジョンもこんなに目立つようには出ないと聞きますし」
「そうだ。それで私も他の一般人に被害が出ないように努めているし、私の生徒も冒険者に成って周りの被害を防いでくれている」
大波先生からの話を聞きつつ、俺の後をアムリス、三木島、佐波さん達がついてくる。
放置されたドリリアも花から出てきて俺達の後を追い始める。
「俺も同じく被害が出ないようにダンジョンに行っています。仲間も他にもいますし、その仲間が見回りもやってくれてもいます」
「それは私も聞いているよ。立派にやっているな。それとな、生徒だけでなくご当地ヒーローも地味にモンスターと戦っていたりするんだ」
「あ、ご当地ヒーローもですか。大変なことになっていますね」
意外な事実に俺は驚く。
ご当地ヒーローもモンスターと戦うのか。
おそらく冒険者でもないはずなのに大変だよな。
モンスターと戦っているときに対面したらどうしようか。
助けるべきなんだろうけど、ヒーローが一般人に助けられるって面目つぶれるし。
「そのヒーローについて今は置いておくとして。ダンジョンのことだ」
「はい」
「今回目立つように出来ているのは王からの指示ではなく、第三者の仕業だってことは分かっている」
大波先生から事実を聞く。
アムリスの父親から今回はダンジョンの異変に関わっていないとは聞いていた。
ならば、自然発生か、もしくは他の第三者か。
そう不明慮な部分がようやく判明したことになる。
次に校舎への入口の道からそれた方向を大波先生は歩く。
「王様からではなく、裏で引いている組織がいるってことですか?」
「そういうわけだ。そいつらがモンスターを使って人を誘拐しているってことは調べで分かった」
「先生もいろいろ調べているってことなんですか。今回の騒動について」
「そうだ。実はずっと前からモンスターの存在を私は知っていてだな。冒険者としての研究も密かにやっていたんだよ。今回はダンジョンのことをメインに調査する必要になったが」
先生も俺以上に騒動について知っていることがあるようだ。
なら俺からも質問してみよう。
「しかし、なんでモンスターは誘拐なんかを?」
「残念だが、そこはまだはっきりしない。ただ、さらわれた人から聞くに何かを聞き出すためだとか、儀式のためだとかとある程度分かってはいる。そのためにさらわれた様だ」
「そういうことですか。ヴェルナってやつも、もしかしたら……」
「ほう。その名を知っているのか、照日君」
「はい、マズワインってのを倒してミュサを解放したときに、ヴェルナの部下が襲ってきました。返り討ちにしましたが」
大波先生がこう反応するならば、そのヴェルナもダンジョンの騒動に深くかかわっていそうだな。
「そのヴェルナも気を付けた方がいい。あちらの世界の別の国から来て、悪名高いことをしでかしているし、そいつ自身も手強い」
「分かりました」
俺の了解の返事。
その後に大きく口の開いた穴にたどり着く。
穴は岩に囲まれていて、広さは八平方Mはありそうだ。
まるでダンジョンのようにも見える。
大きさからして人工的に作ったものとは言えない。
「よし、目的の場所についた。もう一つの本題に入ろうか」
「目的の場所……ここってダンジョンみたいですね」
「ああ、特殊なダンジョンだ。モンスターもめったに出てこないし、ギルドの人が来る頻度が高いくらいだ」
そんなダンジョンもあるんだな。
モンスターを倒す以外の目的がありそうな感じだ。
「で、このダンジョンでのもう一つの本題って……?」
「私はな、他の人が成長する様を見ると嬉しくなるんだ。成長は危機を乗り越えた先にある素晴らしい結果だからだ」
大波先生の言葉、それに喜びの感情がにじんでいた。
これは短い間でも俺がよく聞いた言葉だ。
その後に起きることも割と面倒なことになることが多いとも父さんから聞く。
「そ、そうですね……」
「照日君もいくつもの危機を乗り越えたことは分かる。だが、だ」
ダンジョンを進んでフロアに出る。
そのフロアもまた岩で構成されている。
そこには生徒が三人いた。
何となく予想が出来る。
おそらく先生の言っていた冒険者の生徒だ。
そして先生がやりたいことも。
「もしかして先生。俺を呼んだ理由って」
「理解してくれたか。私の生徒とも戦ってほしい。照日君の為でもあり、私の生徒の為に」
大波先生は生徒の方へと手を伸ばして話す。
その顔は期待であふれていた。




