2 自然治癒にも穴がある
ガティークからの話を終えて、俺は大波先生との話をする。
先生は世話になった期間なんて一日も満たないが、色々と面白い話をしてくれる人であった。
話は幼いころからそれっきりだが、それだけでも俺にとっては今でも記憶に残る貴重な人だ。
その先生の用件は天陸時高校という場所に来てほしいということ。
しかも、冒険者が他にもいるなら二人連れてきてほしいとも。
それで高校でしかできない話もあるとも言っているので、俺は了承した。
冒険者というワードが出てくるとは驚きだ。
今回の決定戦についても何か知っていそうな口ぶりだったし、それについても聞けるかもしれない。
罠の可能性だが、先生に限ってそれはないため、それについての疑いは全くない。
そして俺とアムリスは高校への道を移動していた。
連れてきた冒険者は三木島と佐波さんだ。
それと、手に入れた魔導書もアムリスに使って、テストも済んでいる。
「今回は同行の許可をしてくれて、本当にありがとうございます。天川さん」
三木島は移動しつつ頭を下げる。
パートナーのリカルドも同行しているが、ぬいぐるみのような形態があって、その形態でアイテムボックスに入れているのだとか。
「私なんかでよければ協力するからね。天川君」
次に声をかけたのが佐波さんだ。
他のメンバーは見回りを頼んでいる。
ちなみにこの二人を選んだのは時間的に可能だったのと、今の二人は見回りが頼りないためでもある。
佐波さんはレベルアップしてはいるも、三木島に至ってはまだレベル1のままだ。
モンスターとの戦いがあれば二人のレベルアップもしたいと考えて、連れてきている。
「今日は付いて来てくれてありがとう、二人とも。大波先生のことだから悪いことはしないと思うから」
俺は二人に礼を言う。
「でも、悪いことがあっても、天川君なら何とかしちゃうでしょ? 大丈夫だと信じているよ」
佐波さんはこう語る。
言葉の裏側に褒められているような意味も感じた。
「あ、その……ありがとう。でも、俺だけでもどうしようもないこともあるからな。そんなことがないように十分気を付けるけどね」
「そうなの? 傷も自然治癒で回復するし、大丈夫だと思うけど……」
佐波さんの言う通り自然治癒でほとんどの傷は元通りになる。
ただし昨日分かったことだが、その直りの速さがいつも同じではない。
「俺もそうは思っていたんだけど、ただ、昨日は治りが遅かった気もするんだよな。なんというか、だるさの回復が遅かった気もして」
昨日の西堂さんとの戦いで、俺はかなりの生命力を奪われた。
その勝負が終わってから自然治癒を有効にしたが、それからの直りが遅かった気がしていたのだ。
ただ、俺が耐久力を確認する間もなくメイルオンさんから回復してくれた。
そのため、耐久力を実際に見て、直りが遅いと判断したわけではない。
問題があると理解したのは感覚だけ。
数字を見て、直りが遅いと具体的に実感できたわけではない。
この問題もふんわりしたものであった。
「回復も遅い時があるってことなんだ、自然治癒って」
「そう。ただ、俺も何でこうなったかはいまいちはっきりしないんだ。予測はある程度できているけど、核心には至ってないところ」
俺の予測では生命力が大量に奪われていたことが原因と考える。
ただ、予測の範囲で断定はできないところが歯痒い。
「あまり頼りにしすぎると、痛い目を見そうね。その自然治癒は」
アムリスが俺に言葉をかける。
「俺もそう思うよ、アムリス。便利すぎるスキルも穴があるってわけだな」
結構付き合いのあるスキルでも分かってないこともあるって実感したわけだ。
でも、弱点があると分かったのはある意味収穫でもあるから。
「しかし、照日も大波先生と嬉しそうに話していたわね。久しぶりに会う親戚ように話していたけど違うの?」
「大波先生は親戚ではないよ。父さんと仲のいい友人で、俺も少しお世話になっていただけだ」
「そういう人がいるのはいいわよね」
「まあ、そうだな」
俺の同意の後にアムリスは遠い目で移動する先を見る。
「私にもシュンとミュサがいて、お兄ちゃんもいたのよね。お兄ちゃんはあまり親しくはない間柄だけど」
アムリスも俺と同じだったんだよな。
日陰者扱いされていて、親しい人も少なかったわけだから。
しかし、アムリスに兄がいることは初耳だ。
「親しい人は本当に大事にしないとな。下手な行動で失いたくはないもんだ」
「そうね」
アムリスの肯定。
その後に俺は天陸時高校の門を目にする。
その門には白衣を着た黒く長い髪の男性が立っていた。
「あれ、あそこにいる男性ってもしかして……?」
「ああ、そうだ。大波先生だ」
白衣の男性こそが大波先生だ。
俺は先生の元へと歩み寄る。
先に挨拶をかけるのは先生の方。
「やあ、久しぶりだ。照日君。随分と大きくなったな」
「先生は変わらないですね。髪が長くなったくらいですか?」
「ああ、最近切ってないからかな。研究のことで最近切る暇も作れない」
「先生は没頭すると髪が長くなると父から聞きました。それも変わらずのようで」
大波先生は俺の声に笑って答えようとしていた。
「ははは、その通りだ。で、早速話の方をいいかい?」
「はい、構いませんが」
「実はだな、これを見てほしい」
大波先生は脚の横に視線を移す。
すると、急に青色の花が咲き始めた。
この秋の時期に急に花が咲くなんておかしい。
その花はますます大きくなっていき、俺は下がる。
子供の大きさになったところで成長は止まり、そこから人間の顔をのぞかせる。
人間が花から出てくるはずはない。
あれはモンスターだ。
「え? 先生これって……モンスターじゃないですか?」
「その通り、ドリアードのドリリアという名前がある」
そのモンスター、ドリリアは鼻から上半身を出して、こちらを見渡す。
姿は緑色の皮膚を持ちつつ、青い髪を生やしていた。
体つきからして女性のようだが、特に攻撃をする様子もない。
大波先生が名前を知っていて、意思疎通も出来ている。
そこから判断できることは一つしかない。
「まさかと思いますけど……」
俺は判断の成否を確認するために質問をする。
対して大波先生は笑って答える。
「そういう訳だ。私も冒険者となれたわけだ」




