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6 サキュバスの冒険者

 俺はミュサからの話を受けて、アムリスへの謝罪をしようとしていた。

 アムリスもたった今、俺の体から出てきて、床に足を付けた。


 その表情は特に怒りはないようだ。

 ただ、喜んでもいない。


「アムリス、その……本当にごめん。あんな醜態をさらしちゃって……」


 俺からの謝罪。

 今までのアムリスの様子を見るに、あんな絡みを見ていてよくは思わないはずだ。

 ミュサとのキスもいい表情はなかったわけだから。


「まあ……いいわよ。それよりもサキュバスのハートには気を付けてよ。当たったら私は出てこれないし、行動や話すなんかのサポートも出来ないから」


 アムリスは一応の納得を表情として見せてはいた。

 すごく怒っている様子を見せてはいないので、そこは助かる。


 あのハートはどうもサキュバスの虜にさせるのは当たって見てわかる。

 アムリスを蚊帳の外へと追いやってしまうようだし。


「そうだな。対処法って切ればいいのか、あのハートは?」


「ええ、魔力で出来たものだけど、物理攻撃で消せるから」


 あのハート、剣で切るだけでいいのか。

 あてずっぽでいってみたら、それでいいとは驚きだ。


 ミュサの方へと視線を向けると、いつの間にか消えていた。

 すぐに帰ってもらうと思って召喚したのでああいう形になったのだろう。

 ずっと残しておくと、彼女も変な気持ちにさせるだろうし、今回はすぐに帰ってもらう召喚の方が都合がいいはずだ。


「じゃあ、正常な空気を吸ってから、そろそろ次のフロアへといこう。長居は出来ないからな」


「そうね。それと、分かっているとは思うけど、確認いい?」


「なんだ? 何か忘れものとか?」


 そう聞くと、アムリスは視線を逸らして口を開く。


「他のサキュバスに心を委ねないでよ? 彼女たちは心を委ねた男からいろんなものを奪っていくから。生命力だけでなく、もしかしたらLVもスキルも奪うかもしれないし」


 アムリスからの警告。

 そこにはどこか嫉妬のようにも見える。

 ミュサとのキスを見たような雰囲気もどこか垣間見えていて。


「委ねないように気を付ける。なんとなく委ねたら終わりって気はしているから」


 警告に俺は頷いて返答する。

 委ねる快楽は底なし沼への誘いだってのは分かるから。

 実際に受けて、そういう表現が近い。


 あと、嫉妬していそうなアムリスもどこか可愛い気もする。

 なんというか抱き寄せたくなるような、か弱さも俺に見せている感じだ。


 でも、抱き寄せたらダメな気もする。

 そのままずるずると、ダンジョンに来た目的も忘れてしまいそうだし。

 どことなく底なし沼へと行ってしまいそうな予感もある。


 とにかく、空気を吸って次のフロアへ行かないと。

 空気を三つ消費して、気分替えだ。




 俺と佐波さんは粘着化した空気を吸って、次のフロアへの道を進む。

 進む道には特に障害となるような敵もなく進めた。


 だが、淫気はその最中に取り入れてもいる。

 俺の思考力を少しづつ奪っていった。

 正常な空気はまだ五つあるから大丈夫。

 もしなくなれば、ダンジョンの入り口まで戻って確保しないと。


 そして俺は道を進んでいると、遠くから音が聞こえ始める。

 この音は以前にも聞いたことがある音。

 何かがぶつかる音が小気味よく、テンポよく聞こえてきた。


「この音どこかで聞いたような……」


 俺は呟く。

 と、同時に頭の記憶を引き出そうとする。


 少し考えてみても分からない。

 間違いなく聞いた音なのは分かるが、思い出せない。

 思考力が落ちているからなのか。


「とにかく行ってみない?」


 佐波さんの提案。

 まあ、行けば分かるのは確かなことだ。


「ああ、そうだな。行けば分かるな」


 俺はそう言って入り口付近まで来た。

 入口に隠れて密かに覗く方がいいか。


 いや、なんだか無性に気になる。

 細かいことより音のことを早く探りたい。

 敵とかだったらその時はその時に対処でいいか。


 俺は隠れることを気にせず、堂々とフロアに入った。

 そして見渡す。

 音の正体はすぐに分かった。


 あの音はボールをラケットで弾く音と、壁にぶつかる音だった。

 ボールはテニスで使うもの。

 女性が壁に向かってテニスの練習をしていたようだ。


「あら? ここまで来てくれたの? 嬉しいわ」


 ふと女性の声が聞こえる。

 その声も聞き覚えがあった。


「え? まさか……?」


 俺の頭の中にかつて会った人物が浮かび上がる。

 それは最近会った人物だ。


「ふふふ、私、西堂聖菜よ。優勝候補の天川君」


 その女性、西堂さんは俺の方へと歩んで、名乗る。

 姿は俺に会ったときと変わらず、テニスのユニフォーム姿だ。


 しかも、俺を優勝候補だと知っている。

 冒険者だってのは確定だ。


「なんでここに西堂さんが?」


「私ねサキュバスのテオリスと契約して、冒険者となったのよ。それで、ここのフィールドは絶好の場所だから敢えてここのサキュバスは残すことにしたの。壁打ちにも最適だったからってのもあるわ」


「じゃあ、行方不明になった男子って西堂さんが手引きしたってことか?」


「そういうこと、ここのサキュバスは生命力を欲しがっていたから、手引きしてあげたわよ。冒険者の男子も一名いたけどね」


 このダンジョンでの異変、西堂さんも裏で手を引いていたわけか。


「でも、なんでサキュバスの味方なんてことを?」


「何故って? さらわれたって報告が広まれば、他の冒険者も来るでしょ? その冒険者たちを頂けば、私は気持ちよくなる上に強くなれる」


「た、確かにそうだけど……」


 現に俺がこの情報に乗ってきてしまったわけだ。

 このさらわれた情報は牧瀬さとしての力はある。

 でも、そのために他人を利用するのは良くないはずだ。


「あなたはとっても強い上に、しかも年下は私のタイプなの。ねえ、分かる?」


「え……?」


 愛の告白に似た西堂さんの言葉。

 それに俺は戸惑った。


 そして彼女の背から黒い翼が生えてきて、腰の後ろから黒い尾が伸びてくる。


「もう、あなたと一緒に気持ち良くなって、たくさん奪いたいの。生命力もスキルもレベルも」


 西堂さんは捕食者としての目を俺に向けて語る。

 さらにはふとももを密着させてゆっくりとこすり、黒い尾もふとももに巻き付けていた。

 スキルの力か、彼女はサキュバスになったかのようだ。


 今までの冒険者とは違う目だ。

 俺を自らの糧としか見ていない。


 不味いには違いない。


 でも、気のせいかな。

 不味いという状況よりも期待の方が大きいというのは。

 何故かあの目が気持ちよくさせてくれるような気がして。


 ……いや、それはダメだ。


 抵抗しないと。

 呑まれて、思い通りに成ったら、そのまま負けだ。

 アムリスだって委ねるなと言っていたんだ。


「そ、そんなこと言ったって……俺は負けないからな」


「ふふふ、そんなこと言っちゃうの? あなた、私のスカートにくぎ付けだったのに?」


 うわ、あの時の視線、バレていたのか。

 不味いとの感情。

 でも、相手を不快にさせたというよりも、好感を知られたということが不味い。


「う……」


「怒ってないわよ、私のスカートの中見たいってことでしょ? ほら、見る?」


 突然、西堂さんは腰の横を俺に向けて、スカートをめくった。

 めくると綺麗な足と肉付きのいい尻があらわになる。

 特に下着は見える様子もない。

 ただ、もっと大きくめくれば見えるかもしれない。


 その様に俺の心臓は高鳴る。

 見てはいけない。


「その……今はそんなものを見る気は……」


 俺は視線を外して、話す。


「ふふふ、それくらいで目をそらしちゃうの? 可愛い。それじゃあ、天川君を頂くために決闘を申し込むわよ」


 申し込むとの言葉が西堂さんから出る。

 お決まり事かのようの、メイルオンさんもワープしてきた。


「では、決闘の宣言を聞きまして、エルドシールダー所属の私、メイルオンがジャッジを務めさせていただきます」


 メイルオンさんは特に慌てる様子もなく告げる。

 しかしあの人、こんな空気の中でも冷静なんだな。

 凄い羨ましい。


(照日、委ねたら負けだから。気を付けて)


「ああ、そうだな。早くに蹴りをつけたい」


 アムリスに向けて俺は肯定する。

 その工程の言葉は俺に言い聞かせるためでもある。


 長引けば敗北へと徐々に傾くだろうから。

 効果はあるか分からないけど、暗示のようなものはしておきたい。


 そして、佐波さんは入口の方へと歩んでいく。


「あと、冒険者佐波の介入は認められておりませんので、あしからず。一対一の決まりですから」


 メイルオンさんからの警告。

 まあ、佐波さんを攻撃手段に使うつもりもないから、それは構わない。

 元々俺の戦闘をただ見て強くなってもらうためだけに連れてきたから。


「さらわれた人たちだってまだいるはずだから、さっさと蹴りをつけるぞ」


 俺の言葉のあとにメイルオンさんが戦う冒険者二人に視線を送る。


「では、私、メイルオンが西堂聖菜と天川照日の戦闘を見届けます。戦闘開始」


 メイルオンさんの言葉で戦闘の火ぶたが落とされた。

話数が少ない章にする予定でした。

でも、やっぱ無理そうです。

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