4 大学の淫らなダンジョン
シュンの話から俺とアムリスと佐波さんはその場を後にして向かった。
話によれば大学の使われていない用務庫があって、そこに隠しダンジョンが出来ていたとのこと。
ミュサが案内してくれたあのダンジョンのように、一目で分からない結界があったようだ。
ダンジョンを見つけて俺はすぐさま入った。
入ったメンバーは俺とアムリス、佐波さんとマトトのメンバー。
念のため、シュンの方は他にダンジョンがないか探してもらうことになっている。
他にもありましたってこともあるとそれは困るし、メンバーとしてもこれで問題はない。
これでもアムリスだって魔法で援護は出来る上に、いざとなればシュンやミュサを召喚も可能であるからだ。
流石に佐波さんに頼るのはまだ頼りないけど。
ダンジョンに入ってからの俺の現状はダンジョンの入り口をつなぐ暗い通路を歩いているという状況だ。
俺はアムリスを中に入れて武器も出して、佐波さんもローブと武器を装備していた。
フロアに出てすぐ何かあっては困るし。
基本的に俺が不意打ちできる立場が多かったが、いつ逆にされるか分からないので、用心はしたい。
「気を付けてくれよ、佐波さん。武器を出し忘れて不意打ちされたってこともあり得るから」
俺は語る、自分への反省も込めて。
以前、不意打ちはないまでも、武器を出し忘れたことはあったので、俺も気を付けたいところ。
「分かった。万が一こんなことがあれば気を付けないとね」
佐波さんは頷く。
出来ればダンジョンに行かせたくはないので、万が一はないようにしたい。
ちなみにマトトは杖に巻き付いたまま、鉄のように固まっている。
彼女のスキル、武器化のおかげで鉄のようになっていたのだ。
しばらく歩くと光が入ってくる。
二、三歩歩けばダンジョン最初のフロアだ。
ということで、フロアの様子を入口から顔を出して覗く。
光景はどこかの城の部屋のようにレンガで壁が覆われて、絨毯も敷かれていた。
が、異様なのは部屋の中だ。
桃色の霧がかかっていて、中の様子も見えにくい。
更には臭いもだ。
どこか考える力を奪いそうな臭いが部屋から出ていた。
するとだ。
ふと俺の前に女性の顔が出てくる。
「ん?」
俺の疑問の声。
なにせ、モンスターではない。
俺と同じ人型の姿で、黒く短い髪を生やしていたから。
「か・ん・げ・い」
その女性は笑顔で答える。
そしてすぐに顔を俺に急激に近づける。
「!?」
俺は女性の顔と共に後方へと倒される。
しかも、俺の肩へとすぐさま手を伸ばして。
しくじった。
まさか人間があの時に出てくるなんて思いもしなかった。
俺は仰向けで倒れると、その上に女性が向かい合う形で体を合わせる。
その姿は黒のレオタード姿で、体を覆う面積も少ない。
一言でいえば蠱惑な姿だ。
俺の心臓は変に高鳴っていた。
<サキュバスのダンジョン、潜入開始>
<攻略難易度 LV4>
アムリスからのシステムボイス。
ということは目の前の女性はサキュバスということか。
女性は羽も尾も生やしているし、間違いはなさそうだ。
「思ったより小さい子だけど、キスで歓迎しちゃうから」
女性はすぐさま顔を近づけて、キスしてくる。
手を伸ばして防ぐべきだったはず。
でも、手を伸ばそうとする前に唇が触れるのを許してしまう。
「ん!?」
不意に俺の声が漏れる。
俺と女性に赤味がかったオーラが発生してもいた。
これはアムリスがやったのと同じだ。
離そうと女性の方に触れて力を込めても、離せそうにない。
俺の生命力が口から吸われているのも感じる。
このままだとおそらく空っぽになるまで吸われるかもしれない。
状況はヤバイ。
サキュバスに吸われつくして負ける末路なんて嫌だ。
アムリスにだって申し訳ない。
距離を離そうとして腕に力を籠める、体を揺らしてみる、それをやったがダメであった。
なにせ、力も予想以上に入らないうえに、女性は俺の上半身に腕を巻き付けてもいたから。
そうしているうちに、少しの間吸われ続けていた。
そして声が響く。
アムリスからのだ。
「土魔法、ストーンハンド!」
俺の体からアムリスの上半身が出てくる。
それとともに土で出来た1Mほどの手も近くの床から現れた。
魔法陣もいつの間にか出ていたようだ。
「ああっ!」
女性は浮遊する土の手に捕まり、俺から離される。
そして、土の手が女性を軽く投げた後に、握り拳の形状で向かっていく。
握り拳の土の手は女性へと当たった。
「危なかった……」
俺は上半身を起こして、女性を見る。
するとその女性は落下しつつ、光に包まれていった。
「ううっ……まだ吸い足りないのに……」
光に包まれた女性は後悔の残る言葉と共に消失していく。
これで危機は回避されたようだ。
「その、助かった。アムリス」
俺は礼を言う。
出にくい言葉だったが、何とか出た。
サキュバスのキスで負けそうだったし、正直アムリスには申し訳ないと思っている。
「まあ、その、私もあんな不意打ちが来るとは思わなかったし」
アムリスは視線を俺から外して許してくれた。
ちょっと気まずい。
「しかし、嗅覚強化もしていたけど不味い感じだな、このダンジョンでは」
「そういえば、サキュバスの臭いとかは分からなかったの?」
「部屋の変な空気で分からなかったんだ。というか、嗅覚強化したまま部屋にいると、何も考えられないかもしれない」
正直、嗅覚強化はこのダンジョンでは逆効果になる。
ということで、嗅覚強化スキルの発揮を無効にする。
これで臭いは人並みに戻って、脳への影響も楽になる。
とはいっても、この状態でも臭いの影響はある。
現に思考能力は回復してないし、ぼんやりした感覚は残っている。
入口にいったん戻って、正常な空気をいくつか粘着化した方がいいな。
戦闘の後に使えば、いくら可能の状態を回復するのに役立つはずだし。
この空気をずっと吸い続けてだと、はっきり言って不味い。
「えっと、ごめん……私が助けられなくて」
入口にいた佐波さんからの謝罪。
「いや、いいんだ。俺も不意打ちを防げなかったわけだし、何も佐波さんは初陣でしょ? やれなくて責めはしないさ」
「あ、その、ありがとう」
視線をそらして佐波さんは礼を言う。
初めての戦闘で急に援護してくれなんて、厳しい言葉だし。
気のせいかちょっとかわいく見えるな、佐波さん。
今まではこんな感情はなかったのに、なんだか変だ。
「それと、このダンジョンはかなり特殊だから。佐波さんは外で待っているという選択肢もあるよ。どうする?」
俺は何とか戦えたが、佐波さんはこのダンジョンで防御の行動が出来るか分からない。
と言っても、先ほどの戦闘はアムリス頼みではあるが。
「えっと、私も行く。この戦いで私もレベルアップしたから。この機は逃したくないの」
佐波さんは決意を伝える。
割と肝っ玉があるな、佐波さんは。
このダンジョンは頭が変になりそうなのに、こういう決断ができるなんて。
「そっか。なら佐波さんの分も正常な空気を用意しないと。俺もできるだけ守るけど、万が一のこともあるからね」
「分かった。ありがとう」
佐波さんからの礼。
ダンジョンの攻略は佐波さんも引き続き同行ということになる。
俺は一旦入り口に戻って、正常な空気を粘着化させた。
空気の数は各10を用意して、アイテムボックスに入れる。
改めて準備が出来たところで、再度攻略の開始だ。
ここら辺からは割と好きに書くことにしました。
微エロな展開も多くなります。




