4 無意識なスカートの誘惑
三行あらすじ
・粘着化で剣も伸ばせた
・魔法は覚えた、でも詠唱の時間が……
・アイテムボックスも使えるよ
俺は階段を下りていく。
その先には先ほどと同じ部屋が広がっていた。
ただ、違うことがあった。
ゴブリンが三匹いて、こちらに気づいてなかったことだ。
三人ともこん棒は持っていたが、会話をしていて、気付いている様子はない。
入口の陰で俺の顔を出して覗き、そこは確認できた。
こうやって隙が出来たら、こっから狙わなきゃ損だね。
不意を突いて悪いけど、のんきなことをしている方に問題があったと反省してくれ。
俺は剣に粘着化を念じ、入口から腕を出して、ゴブリンに突きを放つ。
防ぐこともしなかった相手は、無防備に突きが命中した。
「ヒゲボッ!?」
「なんだ!? なんだ!?」
急な強襲にゴブリンたちも声を出す。
突かれた相手は光に包まれて、消えていく。
今いるゴブリンも入り口から顔を出す俺に視線を向けた。
「冒険者だ! 冒険者だ!」
「もう来たのか! もう来たのか!」
ゴブリン達は驚きつつ、すぐに別の入口へと向かう。
誰かに報告か。
それはさすがにまずい。
俺は剣を振って、入口へ向かうゴブリンに刀身を向ける。
ゴブリンたちはまとまっていたため、刀身にまとわりつかれる。
今の二匹は密着した状態で剣に巻き付かれて、拘束されている
「おお、粘着状態だとこうなるわけか」
今粘着化している部分は刀身だけで、剣の先端は粘着化していない。
粘着化した刀身部分は刃の機能は失っているが、触れると粘着する機能はあったようだ。
だったら、次はこうしよう。
俺は剣を上に振って、巻き付いたゴブリンを持ち上げる。
そして、振り下ろすとともに巻き付いた刀身を離して、二匹を叩き落した。
「「ヒンゲバアッ!!」」
ゴブリンの悲鳴。
と共に二匹は光に包まれて消滅した。
持ち上げられるか不安だったが、粘着物質の操作で、何とか軽々持ち上げられた。
「よし、誰かへの報告前に倒せて何より」
俺は安心の息を付く。
別の入り口へと視線を向ける。
すると、今回は階段ではなく奥へと続く通路であり、暗くて中までは見えない。
入口には上に伸びた岩の直方体の上にさらに伸びた鋭利な岩のとげが置かれている。
それも左右にひとつづつ
そして、入口の上に穴もあったのだ。
二つの穴の距離は俺の身長と同じくらい。
(あれ? 入口の上の方に穴があるわね)
「そういえば。もしかしたら報告しようとした相手への部屋に繋がるかもな」
(じゃあ、私が覗いてくるわ。先に様子を確認できれば、有利でしょ?)
アムリスは飛べるし、適任だもんね。
俺が行くよりは安全でもあるし。
俺は入口の方へと歩んでいく。
「それじゃ、頼むよ」
俺の言葉の後にアムリスは体から出ていく。
そして、飛んで行く彼女を視線で追う。
でも、それは失敗だったと、ここまでは気付かなかった。
なにせ、今のアムリスはミニスカートで前傾姿勢でこちらに背を向けている。
そんな状態で、こちらよりも高い位置にいれば。
スカートの中が見えてしまう。
俺はとっさに視線を外した。
「あ! 覗かなかった!?」
「いや、見ていない! 見ていない!」
尻は見えたけど、パンツまでは見ていない。
だからセーフ、嘘も言ってない。
見とけばよかったか?
日陰者の俺にはそんな勇気なんてないんだ、悪いけど。
あの子、サキュバスだね、無意識にこんなことするし。
視線を外して、入口から遠ざかると、俺は改めてアムリスの飛んだ方を見る。
今の彼女は入口を覗く様子だ。
少しした後、彼女はその穴に体を入れて、潜っていく。
大丈夫かと不安があった。
戦闘できない身なのに、一人での行動は不安だな。
そんな不安の中、俺は鋭利な岩へと視線を戻す。
少しすると、アムリスの体は脚から出てきた。
全身を出した後に、彼女は羽ばたいてこちらへと向かってくる。
「いたわよ、捕まっている人達。それにゴブリンのリーダーが」
「なるほど、次の部屋がボスってわけか」
「捕まっている人達は動けないけど、みんな無事そうよ。それに、こっちの部屋のことも気付いている様子はない」
「それなら安心だな。じゃあ、手早く準備して攻め込むとするか」
準備として、俺はアイテムボックスオープンを念じる。
ボスならポーションも使っておく方が吉だろうな。
あと他にも武器は確保できそうだし。
アムリスが俺の中に入ってくる。
同時にボックスからポーションを取り出して、飲んだ。
味は苦みが全くなくて、飲みやすい。
薬という割には飲みやすさを考慮していて、ちょっと感心。
体の痛みがなくなり、回復を感じる。
で、武器の確保として、俺は入口の岩へと近づいた。
(武器の確保? どこかにあるの?)
「目の前のこれさ」
目の前の鋭利な岩に触れる。
粘着化を念じると、岩は形を曲げて球体になる。
そして俺はアイテムボックスを開けて、その中に粘着化の岩を入れた。
(これが武器に? 確かに、にょきってるけど)
「まあ、武器として使えそうだからね。せっかくだし有効活用をと」
どろりと粘着化した岩がボックスへと入っていく。
その中で俺はもう一つの岩も粘着化していた。
岩が完全に入ったのを見届けて、もう一つの岩もボックスへと入れた。
念のためにボックスの中を確認しておく。
アイテムボックスオープンと。
アイテムボックス
ロングソード *1
粘着化した鋭利な岩 *2
空のビン *1
大丈夫そうだ、粘着化も解除されてない。
あと、飲んだビンはついでにアイテムボックスへと入れておく。
これも武器になるかもしれないし。
(準備はいいの?)
「ああ、これでいい、行こう」
入口へと歩いていく。
捕まった人たちが無事とは言っても、時間をかけすぎるのも良くない。
入口の通路は人が入れるくらいの広さで、俺は普通に走って移動できた。
通路には明かりもない。
走る中、少しづつ騒ぎ声が聞こえてきて、明りも入ってくる。
俺は減速して、壁に背を付けて移動していくと、入口へと到達した。
その入り口からそっと顔をのぞかせる。
中央には王冠を被ったゴブリンが立っていた。
そして、奥には縄で手を縛られて、拘束された人が複数いた。
あのゴブリンがリーダーと見ていいだろう。




