7 佐波さんの望み
ジャバウォックは光に包まれていき、消滅した。
前は攻撃を通すのにてこずったけど、今はこれくらいの強さになったのか。
レベルも結構上がったけど、剣の強化は大きいな。
あと、ミュサの方も魔法の時に気になった点がある。
その点はスカートを抑えずに魔法で強い風を起こしていたこと。
あの時の彼女にも強風の影響は出ていて、それがスカートに出ていたんだ。
あんなことやっていると、風でスカートがすごいめくれていたんだよな。
横から見ても太ももが見えたし、尻までめくれそうな勢いだったな。
彼女の横にいて視線が行きそうになって、気になってしまうのは少し欠点かな。
本人は見られても大丈夫なんだろうけど、なんでか俺まで気になってしまう。
このウィンドプレッシャーはおそらくこれからも使うだろうから、何とかなるように頼んでみるか。
召喚したミュサはいつの間にか消えていたし、後で提案はしてみよう。
(照日……よそ見はよくないからね?)
アムリスからの注意。
あ、うん、そうだね。
よそ見で隙作って、反撃なんてしょうもないミスだからね。
声も少し冷たい感じだから、これは何とかしたい。
<やった! やった! ダンジョンクリアよ! すごいじゃない!>
おお、これでダンジョンクリアか。
確かにあのジャバウォックはボスっぽかったからな。
それはそれで嬉しいけど、結局レックスも見つかってないから、まだ俺の中ではクリアではない。
あと、あっちの様子も気になるからな。
あのコブラのモンスターは一体何だろうか。
「おーい、コブラのモンスター。大丈夫か?」
俺はコブラの方へと声をかける。
あちらは特にケガしている様子もなく離れていて、俺に視線を向けた。
「あ、大丈夫ですぜ。で、でもこっちは戦う意思はないので簡便ですぜ」
「ならいいんだ。戦う必要がなければそれでいいんだ。で、なんでジャバウォックに襲われていたんだということだ」
「単純ですぜ。俺が敵認定されちゃったからですぜ。あれ、ダンジョンのリーダーですから、うっかり入ってしまった俺を敵とみなしたんですぜ」
コブラは語る。
なんだかすごい単純だな。
割と拍子抜けする感じだ。
「んーそっか。まあ、これでダンジョンはクリアしたし、後はこのダンジョンも消滅するからな。後はどうなるのか分からないけど」
「あーそれですぜが、お兄さんに協力したいんですぜ。いいですかい?」
「協力か……まあ、それは俺、別に構わないけど」
「あ、俺はこんななりしてますぜが、毒は持っていませんぜ。コブラフェイカーって名前ですぜ、俺は」
いかにもコブラって感じなのに、毒なしなのか、お前。
ああ、それが敵を遠ざける擬態の一種なのかな。
自然界にも毒持っている風に見せかける生き物もいるって話だしな。
「あ、このモンスターと契約すれば冒険者に成れるんだね?」
佐波さんが恐る恐る近づいて、声をかける。
「そうだよ、佐波さん。俺も一応契約できるけど、そうするとシュンのように召喚できるんだよな、このモンスターを」
佐波さんは頷いて理解した後、俺からコブラの方へと視線を向ける。
その視線は希望に近い感じだ。
その希望は何となくわかった。
意思疎通がモンスターとできるならやることは一つだけだろう。
「ねえ、天川君。私、このモンスターと契約したいんだけど……? ダメ?」
この佐波さんの言葉は予想出来ていた。
そりゃ、冒険者に成れる希少な機会だし。
「ダメだよ。危険な目にあってほしくはないよ、俺」
「そうだけど……でも……」
佐波さんは落ち込む様子を見せる。
もしかすると冒険者に成る目的もあってダンジョンに来たのだろうか。
「危険な目に合うのは俺だけで大丈夫だ。俺だって強くなったんだ」
「本当にそれでいいの?」
佐波さんの言葉に俺は答えようとした。
でもなんでだ。
何故か思いつかないし、いい回答が出ない。
どこか心の中で悩んでいるみたいで。
「……ともかく、佐波さんには任せられない」
結局はこう答えるしかなかった。
答えにはなってないのは分かるが、佐波さんを冒険者に成ることを避けるのが正解だ。
「私もさ、危ないのは分かるよ。でも、私はやっぱり天川君が危険な目に合うことは嫌だから」
「俺は大丈夫だ。危険な目に合わないように動いているから」
「でもね、天川君だけではカバーできない部分もあるでしょ? いくら強くても天川君は一人だけなんだから」
「そうだけど……」
結構痛いことをついてくるな。
冒険者の中でも相当強い部類にいるのは分かるのは事実。
同等の強さの幸前も確かにいる。
それでも、全てのモンスターに対応できるかと言えば、それは違う。
俺と幸前がダンジョンにいる間に公にモンスターが出てきたら、きっと対応できない。
複数の冒険者が味方にいてくれた方がいいのかもしれない。
「私もさ。モンスターの危険におびえている人は多く見ているのよ。だからさ、私もこの機会は逃したくないの」
「……」
「私に契約させてほしいの、お願い!」
無言の俺に佐波さんの強い願い。
今では噂程度にモンスターは昼には出てこないという話は聞くが、それも確定的ではない。
昼にモンスターが出る可能性もある。
今のところ、昼の間は人間に危害を加えないだけかもしれない。
昨日のシュンとケットシーの戦いのように。
だから佐波さんの願いを聞くメリットはある。
他の冒険者が必ずしも他人のために戦うとも限らないから。
俺は考えて結論を出した。
「……分かった。ただ、ダンジョン攻略のためというよりも、ダンジョン外で何かあった時のためにいてもらうつもりだからな」
「ありがとう! 本当にわがまま言ってごめんね」
「まあ、考えてみればそのわがままを受け入れる利点も俺にはあるから」
とりあえずと、俺は考えていることを話す。
単に大したことないことで褒められただけだたら、言葉に困ったかもしれない。
返す言葉がすぐに思いついて、それは良かったと思う。
「俺も助けてくれたお兄さんに間接的に協力できるなら、問題はありませんぜ」
コブラもこれでいいと話す。
このことでごねられると困るので、問題はないということでよかった。
「これからもよろしくね。私は佐波って呼んでくれればいいから」
「俺の名前は……っと、種族の名前はあっても個別に分ける名前はありませんでしたぜ」
「じゃあ、マトトって呼ぶから」
「ありがたき名付けですぜ、佐波の姉さん。よろしくお願いですぜ」
佐波さん、割と変なネーミングセンスだな。
あのコブラもマトトって名前でいいのは驚きだが。
ここは俺がどうこう言うことではないか。
「後は契約をすればいいんだよね?」
「そうですぜ。お互いに触れて契約の同意を思い浮かべれば、契約完了ですぜ。俺のしっぽを握って下せえ」
マトトは長い尾を佐波さんの手へと伸ばす。
そういえば他人の契約を見るのは初めてだな。
契約ってモンスターによって違うんだ。
流石にキスでの契約が全モンスターで共通化だったら困るよな。
そう思っていた時だ。
「うわあ!」
俺が通ったところとは別のフロアの通路、そこから高速で俺の横を物体が通る。
その通り過ぎた方へと見ると、短い尾の先端を輝かせていた生物がいた。
見た目は握り拳くらいの大きさのホタルのモンスター。
(あれ! ダスティアホタルよ!)
何?
確かにホタルって感じだから、あれか。
俺も倒したいけど相手もなかなか早い。
「佐波さん、悪いけどあのモンスターを追いたい! 契約はちょっと待って付いて来てくれ」
「あ、分かった。それじゃあ、ついて行くから!」
佐波さんは契約の前に俺の元へと走っていく。
そしてダスティアホタルは通路へと逃げて行き、俺はそれを追うことにする。




