3 私をダンジョンに連れてって
「私もダンジョンに行ってみたんだけど……」
この佐波さんの言葉は予想は出来ていた。
そのまま素直に従うという雰囲気ではないよね。
別れようとするときに口を濁していた感じだし。
「ダメだ。危険だし、どんな目にあうかも分からない。幸いにも命を落とすとこまで至ってないけど、このダンジョンでそれがあるかもしれない」
ダメだと俺から伝える。
ダンジョンに入って俺だってどうなるか分からない。
それこそ佐波さんが命を落とす可能性だってだ。
「やっぱりレックスが心配だから」
「ダンジョンに行ったら、俺も佐波さんが心配だ」
「そうだけど、でも……レックスの飼い主さんって独り身でね、年も取っていて、私とレックスくらいしか親しい人がいないの」
なかなかに佐波さんは食い下がらない。
そこまでして助けたいなら俺とアムリスで行った方が安全なのに。
それは彼女も分かっているはずなんだけど。
「だったら尚のこと、俺が急いで行った方がいいよね」
「そ、そうだけど……お願い、私だったら安全にレックスを捕獲できるから。それに迷惑もかけないから」
でも、それがさっきの機会であったでしょうよ。
それでもダメだったから、次の機会も佐波さんはどうかと思うんだよな。
「「……」」
俺は難しい顔、佐波さんは神にでも祈るような顔。
両者無言の時。
こうやって議論の時間だって惜しいのは分かる。
これでレックスが奥に行っていたりすれば、探すのは困難だ。
可能性は低いことだが、無視は出来ない可能性。
ここはやむを得ない。
この判断をするしかない。
「分かった。こんなことしている時間ももったいないから。付いて来ていい」
「ありがとう! 迷惑はかけないから」
佐波さんの礼は晴れ間が見えたかのように笑顔を見せた。
「ただ、俺の目の届く範囲から離れないでくれよ」
「うん、本当にありがとう!」
佐波さんの足を粘着化で強引に足止めって方法もある。
でも、それやった後、強引にあとをついてくる場合も嫌だ。
だったらもうこれしかなかった。
「じゃあ、アムリス! 俺の中に入ってくれ」
「いいわよ」
俺の呼びかけにアムリスもすぐさま入ってくる。
そして俺はアイテムボックスを開けて、強化された剣を取り出す。
「佐波さん、さっきも言った通り離れないでくれ」
その言葉に佐波さんも頷き、俺はダンジョンに入っていった。
俺が歩んだ後を彼女も歩む。
俺を先頭に暗い通路を進んでいく。
佐波さんも問題なくついて行っているので、安心だ。
しばらく階段を下りていくと、光が差してきた。
光の先を覗くと、土で出来た壁も見えてきて、所々鉄のレールも地面にひかれている。
光源は天井に吊るされていたランタンからの物みたいだ。
<ドルガン鉱山 潜入開始>
<攻略難易度 LV6>
アムリスからのシステムボイス。
鉱山のダンジョンという訳か。
今回は入口から覗いているため、先のフロアの敵も発見できた。
敵は青い球体を中心に岩の欠片が集まっていて、大きさはバスケットボールくらいか。
その敵は浮遊していて、こちらに気づいていない。
粘着化して剣を伸ばすのがいいだろうね。
でも、せっかくだから、剣の切れ味を試してみたいのはある。
シュンを召喚してダンジョン内を探ってもらいたいが、後回しになりそうだ。
よし、急いでいるから、もう攻撃に移るか。
「佐波さんはここで待っていて」
俺の小声での指示に佐波さんは頷く。
そして、俺は急いで浮遊する敵に向けて駆けて行った。
飛んで剣を振りかぶる、が、相手はこっちに気づかない。
俺は剣を振り下ろした。
すると、剣は当たった。
でも、触感は空ぶったかのようだ。
敵は斜めに真っ二つになっており、落下して岩の欠片が散り散りになった。
俺も着地をする。
(切れ味、上がったようだけど、ここまでとはね)
ああ、驚くよ。
まさかこんなにとは。
エンデスソードの時だったら切れたろうけど、真っ二つは難しかったかもしれない。
「まあ、終わってよかったよ。後は例のレックスだけど……」
剣を鞘に納めて、俺は辺りを見回す。
敵もいるはずだし、脅えて近くにいるはずだけど。
見渡す、が、それでもレックスはいなかった。
いるとは思ったが、この様子だと奥に行ってしまったみたいだ。
「いないね、レックス……」
佐波さんも見渡して呟く。
俺が別の場所を見落としているわけでもなさそうだ。
で、入口以外の通路は二つに分かれている。
レックスは二つの内のどちらかに行ったことは分かる。
人見知りする犬だというのに奥へ行ってしまったのか。
逃げるために奥へ行ったというなら分かる。
でも、本当に逃げるためなのかというのもここまでくると疑問だ。
「厄介なことになったな、とりあえず、二つに分かれていることだし、シュンも呼ぼう」
俺から念じても、シュンに連絡は取れるとの話だからやってみよう。
連絡を取ると念じると、指輪が光り始める。
これは成功でよさそうだ。
声が指輪から響く。
「シュンだよ! レックス君は見つかった?」
「ああ、見つかったがダンジョンの中だ。ついでに二つの分かれ道のどっちかに言ったから、シュンの力を借りたい」
「了解! じゃあ、召喚してくれ」
確か召喚を念じると、シュンが出てくるはずだ。
という訳でシュンを召喚。
俺の前に白い魔法陣が出てきて、そこからシュンが飛び上がって出現する。
召喚ってこんな感じなんだな。
指輪の光も消えていた。
「じゃあ、頼んだ。俺は左の道へと行く」
「分かった。僕は右の道を行くよ。もの探しはこれでも自信はあるんだ」
「先に見つけたのは俺だけどな。まあ、運がよかったってのもあるけど」
「そうでした。まあ、今回は任せてよ」
そう言ってシュンは右の道を進む。
俺ももたもたできないな。
「じゃ、俺は左の道へと行こう。突然モンスターの強襲もあるかもしれないから、気を付けてくれよ佐波さん」
「うん、分かった」
佐波さんにも呼び掛けて、俺は左の道を進む。
左の道も下には鉄のレールが引かれていた。
おそらくトロッコで使うものか。
そうして、少し歩いていると大きなフロアが見えてくる。
俺はそのフロアに入ると、特にモンスターはいなかった。
だが、俺と同じ人間はいた。
もしかすると、冒険者か。
その人間は赤い髪でバンダナを巻いている男性のようだ。
更には何かを探しているのか、辺りを見回している様子。
「どこ行ったんだ、あれは……? あれを倒せば俺だって……」
声を出した男性は俺に視線を合わせる。
そして、目当ての物を見つけたように笑みを浮かべた。
俺を探していたのか、それとも別の物か。




