1 目覚めのキスから始まる一日
俺は昨日は母さんを迎えに行って家に帰った後、ダンジョンの方を探しに行っていた。
結果を言うと、ダンジョンはなかったので、見回るだけとなった。
夜近くまで見回った後は、家に帰って寝るまでに至る。
それとステータスとスキルも確認しておいた。
ステータスとスキルが色々上がって、新しく得られたスキルは
防御弱化発症:LV1
だ。
スキルコピーで使うものだということは分かる。
そして時間は過ぎて、朝を迎える。
俺はねまぎでベッドの上で起きたばかりだ。
まだ意識は朦朧としているところ。
「もう、朝か……」
窓から差し込む朝の光景が目に入る。
まだ目に映る光景はおぼろげだが、認識は出来た。
時間もいつも起きている時間帯だろう。
でも変だ。
何故か人がそばにいる感じだ。
いる場所はベッドの上かもしれない。
ベッドの感触から誰か他の人の重みがかかっているのも分かる。
俺の目に映る朧げな光景は徐々にはっきりとしてきた。
「天川さん、起きましたか?」
女性の声。
アムリスではない声だな。
服はアムリスと同じ制服を着ているようだけど。
「おはよう……って、ミュサか!」
まじか。
こうやって起こしてくれる経験はないんだよ。
しかも年齢の近い女性からってのは。
あっても母さんぐらいだし。
ミュサは仰向けの俺の上に対面するように四つん這いでいた。
「起こしに来ました、私の方も用事がありますので」
「用事か……ついでに起こしてくれて悪いな」
なんだか家のこともいろいろやるみたいだな。
ただで家に住むのは悪いって、ミュサは家の手伝いもやるって昨日の夜に言っていたしな。
「いえ、問題ないです。あなたから生命力を頂く用事ですから」
「あ、そうなの……え?」
ミュサは笑顔で俺の顔を腕で包む。
さらにはゆっくりと俺の上に体を乗せてきた。
お互いの足も絡むように潜らせてくる。
寝起きだからは反応も鈍いし、力も入らない。
抵抗らしい抵抗は出来ない。
「頂きます」
「んぐっ……!?」
ミュサは俺にキスをしてきた。
青いオーラもお互いに包まれる。
俺の生命力は彼女の口へと奪われていく。
だるさも少しづつ増してきた。
抵抗した方がいいのかな。
でも下手に抵抗するのもダメなのかも。
これが出来ないとミュサは生きていけないようだし。
抵抗もせずにいると、時間をおいてから、ミュサは口と口の距離を離す。
口をつなぐ唾液をなめとり、満足そうな笑みを浮かべて。
「ごちそうさまでした。今日のところはこれで十分です」
「そ、そっか……」
やっぱりきれいな人からのキスってドキドキするな。
ミュサも美人だし、こうしてみると。
まあ、必要なことって言うから、これから抵抗はしない方がいいよな。
「やっぱり、天川さんの生命力はおいしいです。健康的な味がしてさっぱり気味です」
ミュサは評価をする。
しかし、彼女の声色も感情が少し出てきたようだ。
昨日は起伏がない感じで感情を押し殺すだった。
でも、今では嬉しいって声が伝わってくる起伏だ、心情の変化は間違いなくある。
というか生命力にも味ってあるんだな。
俺は一生分からない感覚だけど。
で、ここで声がする。
アムリスの声だ。
「照日ー、そろそろ起きた方がいいわよ……ってミュサ! 何をしているのよ!」
声の方を見るとアムリスがミュサと同じ制服で驚きの様子を見せていた。
ドアも開いていて、通路で彼女の様子も見えていた。
「生命力を頂きました。キスをしてです」
「えぇ……? そ、そうよね、確かにあなたはこうしないといけないって話は聞いていたから」
アムリスは納得の声は出すも、声からして不満はあるようだ。
アムリスは俺のことをどう感じているんだろうな。
寝ぼけていて好きっては言ったけど、あれが本心なのかは俺の方から断定するにはいかないし。
だから、彼女が俺のことを好きだという前提で行動をするのは問題もある。
俺のことが好きだと思って行動して、やっぱり俺のこと嫌いですとかってこともあり得そうだし。
「そういえば、天川さん。今日は朝からお客様が来るのではないでしょうか? あまりもたもたできないと思います」
ミュサは上体を起こして、ベッドから下りる。
その言葉で思い出した、佐波さんとの約束を。
「ああ、そういえば、佐波さんが来るんだったな。準備しないと」
俺は急いで起きて、時計を見た。
時間はまだ大丈夫そうだ。
着替えて食事しての準備する余裕はありそうだ。
「ふふふ、目覚めのキスは効果がありそうですね。男性にすると目覚めがいいってシュンも言っていましたし」
ミュサの言葉から分かったこと。
この朝からの仕向はシュンからだったんだな。
そう思いつつ俺はドアへと向かう。
まずは食事をしたいし。
一回のリビングで食事をとって、着替え、顔も洗って歯磨き。
今日も制服だ。
これでも学生だし、なんとなく、こっちの方が落ち着く。
私服だと変な感じもして、こっちにしている。
で、準備を済ませてから佐波さんは来た、こちらも制服で。
今はリビングで佐波さんと俺とアムリスで座ってテーブルを囲む状況。
「天川君、友達が増えたみたいね」
座っているのは三人だけだが、リビングにいたのはシュンもミュサもいた。
シュンはテレビの前で座ってみていて、ミュサは母さんと一緒にお茶を入れる手伝いだ。
「まあね、家がにぎやかになるとは思わなかったよ」
俺は今の状況の印象を語る。
友達か、否定はしないけど、頼れる仲間ってのは間違いないな。
違う気もするけど訂正の必要はないな。
「でさ、早速、相談ごとがあるんだけど、いい?」
「いいよ、ダンジョンとかモンスター絡みのことだろ」
「うーん、それに近いね。探してほしいのはワンちゃんなの、レックス君って言うポメラニアン」
佐波さんはテーブルに犬の写真を出す。
ベージュで丸っこい形に毛を生やした犬が写っていた。
危ない状況だし、力のある人に探してもらいたいってところか。
「犬探し、か。まあ、この状況だしな。探すために色々うろつくのは危ないよな」
「今のところお昼は大丈夫なのよね。お昼に被害はないようだけど、それでもうろつくってのは危ないことに変わりないし……」
しかも、この状況で自衛隊とか国の護衛力は機能してない。
近くの警察も自主的には動いているけど、それだけじゃ心許ない。
未だに住人からの不満の声は聞く。
それでも普通に社会人とかは働いていたりするけど。
昼は大丈夫だからって、働くことになっている所が多い。
でも、社会人から残業は減ってない声もあるけど、それはそれで不安になってくるな。
「警察とか頼れそうなのは少ないし、俺なら探せるな」
「ということで探してもらいたいんだけど、いいかな?」
まあ、断る理由はない。
ダンジョンを探すついでに出来る相談事だしな。
「分かった、その相談事を受ける。俺以外にも探せそうな人はいるから。テレビの前のシュンも、お茶を出してくれたミュサもあれで戦えるから」
「ありがとう。それでだけど、私もついて行く予定だけど構わない?」
「え? 佐波さんも? モンスターとかに会ったら危ないよ」
まさかの提案だ。
と言っても、危ないことは分かっているはずだし、だからこそ俺に頼んだんだよな?
「そうなんだけど……でもそのワンちゃんね、人見知りする子だし、私と飼い主さんに懐かないの。見つけたとしても私がいないと逃げられるってことになりそう」
となると、もし俺が犬を見つけて近づいても、逃げられるってことか。
佐波さんの力も借りないと捕獲というのも難しそうだ。
アムリスがいれば粘着化で捕獲も出来るけど、変に暴れてケガさせるってことはないよね。
一番安全なのは、佐波さん同行の方がいいか。
「そう来るか……分かった。ついて行くのは構わないけど、もしもダンジョンの中を探すって時は帰ってもらうから」
「うん、危ないから、その時は帰るよ」
流石にダンジョンの中に佐波さんも同行はさせられない。
帰るとしてもシュンやミュサに守ってもらって、ということも可能だし。
もしダンジョンを探すって時はさすがに犬も深くは行かないはず。
だから、おそらくはすぐに見つかるだろうね。
「じゃあ、早速行きたいところだけど、俺はまだ依頼していたものが来てなくて、少し待ってほしい」
依頼していたものは武器の強化と指輪のこと。
そろそろ頼んでいたことが終わってもいいはずだ。
佐波さんにもガティークとのやり取りは見せることになるけど、まあ問題はないだろう。
長かったですがこれから第四章に入ります。
ブックマークや評価などして頂き、ありがとうございます。
更にして頂けると励みになります。




