13 剣の強化とミュサのことについて
隠れ家のことを済ませて、俺達は家までの帰路を歩んでいった。
ミュサも歩けるまでに回復していて、俺が背負って移動する必要もなかった。
実のところ家まで背負うことになったらって不安はあったよ。
あの時は軽く運べたが、割としんどくなるかもしれないし。
俺は今、家のリビングで、ガティークと連絡を取っている。
連絡は少し前から始まっていて、光る石と指輪のパーツを見せるのも、すでに済んだこと。
あと、彼女との連絡は最初に渡されたギルドからの手紙で連絡が取れたよ。
今は手紙から出された映像を経由して連絡を取っている。
最初、連絡することになってどうすればと思ったけどね。
アムリスから手段を教えてもらったから、何とか連絡できたよ。
「じゃあ、この剣はガイアス石三つでアタシが強化していいんだな? その石があれば、さらに強くできるよ」
ガティークからの確認。
あの光があふれる石を見せたところ、ミシワイド結晶と言うかなりの貴重品であったようだ。
その結晶があると、剣をさらに強化できるうえに、魔力を結晶化させて剣にまとわせることもできるとか。
ならば強化しようと、ガティークに頼んだわけだ。
また、指輪のパーツは召喚能力を高めるもので、契約したモンスターをさらに呼べるらしい。
具体的には指輪なしで呼べるモンスター以外にもう一体を召喚できるということだ。
こちらは短時間しか置いておくことはできないが、三回まで呼び出せる。
「ああ、頼む。しかし、本当にいいんだな? この剣もアムリスから借りているようなもんだけど」
俺からガティークに頼む。
今まで使っていた剣はアムリスから借りたものだ。
一応、彼女から許可も取っているが、俺の物でないため再度確認はしたかった。
「私はいいのよ。この剣もさらに強くなるっていうなら、照日のためにもっと使ってもらいたいし」
アムリスからの解答。
そう言ってくれてよかった、改めて安心する。
急に気が変わってやっぱりやめるということもあるしね。
「よし、この剣は責任を持ってアタシが強化させてもらう。ついでに契約石と指輪のパーツも使えるようにしてやるから、明日まで待ってくれ」
「ありがとう。お願いするよ」
剣と結晶、契約石とパーツ、それとガイアス石三つを手紙の前に置く。
それらが消えていって、映像の中のガティークに渡る。
アムリスの剣が一時離れたが、何かあればロングソードや、今日獲得したシールドソードを代わりに使おう。
渡したアイテムを早速ガティークは持って移動すると、映像も同時に消える。
作業に取り掛かったのだろう。
「あとさ、この手紙も見た?」
アムリスは片手の手紙を見せる。
その手紙はギルドからではない。
もっと重要な人物からのだ。
「ああ、見たよ。アムリスの父さんからだろ?」
その手紙はアムリスの父からのであり、冒険者のランクが上がったことで送られたものだ。
内容はダンジョンのことで、要点はこうだ。
・今回のダンジョンの出現の仕方は父親の方でも予想外。
・さらにはモンスターから俺の世界への被害もいつも以上に多い。
・アムリスの父親から決定戦の干渉は出来ない決まりがあるので、解決に関しては彼女に任せたい。
・干渉できない決まりもあって、ダンジョンがこうなった原因も探れそうにない。
・マズワインについてはこれから取り調べを行う。
・急に大事を頼んで申し訳ない。
それと、父親もこんなにランクが上がるとは思わなかったことも書かれていた。
これから調べた報告は手紙でもやり取りをするとも、だ。
「全部は伝えられないけど、まだまだダンジョン攻略していかないといけないようね」
「そうだな。思ったより分からないことは多いけど、父親とダンジョンが大々的に出ることは無関係みたいだな」
父親とダンジョンが大々的に出ることが無関係、それが分かっただけでも大きい。
そちらを疑う必要がないというのは俺としてもやりやすい。
何よりアムリス自身、訳も分からない悪影響の一端を担がされてない事が分かった。
これだけでも十分であった。
「あと、幸前の方からも連絡があったわよね。何かしら?」
「ああ、それはあっちもダンジョン攻略をしたってことで、撃破ポイントが入ったんだと。細かいポイントはメールで伝えてくれた」
スマホを持ち上げて俺は伝える。
今回、幸前がダンジョンで撃破したポイントは88ポイントだということだ。
ちなみに俺の今回の加算ポイントは
グラーソの撃破 +10ポイント
ニックスの撃破 +10ポイント
マズワインの撃破 +30ポイント
ジャバウォックの撃破 +20ポイント
ということで、256ポイント+70ポイントの326ポイント。
意外だけど、ジャバウォックも撃破扱いになるようだ。
それに幸前のポイントを合わせて、総計414ポイントとなる。
俺だけでもかなりポイントを稼いだのだが、幸前のポイントも合わさってすごいことになっている。
まだ決定戦が始まって三日目、一日に100弱稼いでいることになるので、これ以上に稼いでいる冒険者はいないはずだ。
「フェリアも幸前も稼ぐわね……伊達に優勝候補ではないわ」
改めて、幸前は凄いと思わされる。
俺のポイント以上に稼いでいる冒険者がいるならもっと有名になるはずだしな。
その冒険者が存在すれば、そのうち耳に入ってくるだろう。
「だな……そういえば、母さん遅いな。まさか、俺たちがいない間に家に帰ったか、それとも何かあったんじゃ?」
今は母さんもいない状態だ。
家にいるのは俺とアムリス、シュンとミュサだけだ。
材料が足りないと買い出しに行っただけで、遅い気もする。
少し不安でもあるので、様子を見に行くべきか。
「様子見に行こうか? 照日」
「一応、見に行こう。今日のシュンとミュサみたいなこともあり得るし、行った方がいいな」
俺はアムリスを見て頷く。
すると、ミュサもその声に反応をしたのだ。
「あ、私もいい? 話も少ししたいから」
「話か、いいよ。でも母さんに電話してからだな。家を出て、すぐに電話したい。あと、シュンは留守番していてくれ」
シュンへと留守番を頼む。
「はいはーい」とシュンの声が聞こえる中、俺とアムリスとミュサは出ていった。
俺は家を出てから、すぐにスマホで電話をした。
電話に出て、いつもの様子で会話をする。
結果的には危機にさらされる、晒されそうな状況ではなかった。
一安心だ。
それをアムリスにも告げたところだ、今は。
「良かったわね」
アムリスからの声。
俺達は今ブロック塀で区切られた道を歩んでいた。
時間は昼が過ぎようとしているところで、特に人通りはない。
「まあ、念のため迎えに行こう。場所はいつも食材を買いに行っている場所だし、俺も帰る道を把握しているから」
「昼には基本的にモンスターが出ないって噂があるようだけど、割と本当みたいね」
ダンジョンが出てから噂がアムリスの言っていたことだ。
俺はそれに疑いの目があったが、こうして昼にはモンスターからの被害がない。
今日のことは除くが。
「まあ、そうみたいだな。おかげでお昼はダンジョンが出ても町のみんなは普通に暮らせているけど、シュンとミュサみたいなことは例外と思った方がいいのか?」
その思ったことをふと呟く。
それに答えたのはミュサだ。
「そうね。あのケットシーはマズワインが召喚したモンスターで、シュンの方から戦闘を持ちかけたから。本当だったら争うこともなかったわ」
「あ、そうなのか。そこの事情は知っているんだな」
「ケットシーは飽くまで偵察するだけだったから。それがマズワインからの命令だったの」
あの時まではマズワインの部下だったわけだし、内情は知っているか。
内情を知っているってことは、あれか。
マズワインのことについても、もしかしたら知っていることはあるかもな。
「そうだ、マズワインがアムリスの力を奪ったってこと聞いたんだけど、その力ってどうなったんだ?」
ということで、ここは聞くしかないだろう。
「ええ、そこも含めて話をしようと思っていたの」
ミュサは頷き、話しを始めた。




