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10 ワインと過去話

(照日! しっかり! しっかりして!)


 アムリスからの不安の声。


 俺は大丈夫なんだ、回復しそうだし。

 それよりも一番不安なのはミュサの方。


 体勢が崩れる彼女を俺は抱きかかえる。

 俺に痛みは走るが、そんなの無視だ。


「ミュサ! しっかりしろ! まだ、終わりだなんて早すぎるぞ」


 俺は彼女に手を触れて、スキルコピーを念じる。

 可能性があるならこっちを先にやった方がいい。


「天川さん……わ、私」


「いい、喋るな! まだ手の施しようがある! 回復魔法だってあるんだ、俺には!」


「ああ、言ってくれて……嬉しかった、です」


 口から血が流れるもミュサは笑顔で言う。

 まるで優ゴンでもいうかのような表情だ。


 でも、施しようはあるんだ。

 この魔法は使ったことはないけど、使うなら今だ。

 幸前から回収した水魔法のアクアヒールを。


「水魔法、アクアヒール! ……なんだ、魔法陣が出ない? それに魔法の力も感じない……!?」


 おかしい。

 初めて使った割には全然魔法の力が感じない。

 他の魔法だったら使う魔法を念じたときに魔法の力を感じるというのに。


「光に……当たりたかったなあ……」


「おい! ミュサ! 誰も光を照らさないって言っていないぞ! 勝手に終わりみたいなことを言うな!」


 俺の言葉。

 その後に無言が走る。

 ミュサからの反応はない上に、目も閉じていた。


 まさか、まさかの最悪の可能性はないだろうな?


「ああ、魔法が使えなくて悲しいことだね。魔法が使えれば助かったかもしれないだろうに……」


 男からの言葉。

 その男はフロアの道に立っていた。

 格好は白いシルクハットをかぶっていて、白い燕尾服と青いマントで、高級な地位を思わせる。


「お前は……?」


 俺からの問いにシルクハットの男性は帽子を脱いで口を開く。


「ああ、自己紹介が遅れたね。マズワインだ。ミュサが天川君を密かに読んでいたとは知らなかったから、こうして罰を与えたところさ」


「……罰にしては酷いことをするな」


「それはそうだろ? 裏切り者を生かしておいては周りも危うい。死は当然だ」


 シルクハットの男性、マズワインが答える。

 ごみを掃除したかのような、平然とした声。


 その声に先に反応したのはシュンだった。


「お前がミュサを! 黙っていられないぞ!」


 シュンが瞬時にモンスターの姿になって、剣をアイテムボックスから出す。

 そして駆けていき、マズワインに切りかかった。


 しかし、マズワインの指輪から長い突起物が生えてくる。

 それは俺を貫いた尻尾のようなものだ。

 生えた尻尾で払われて、シュンは飛ばされてしまった。


 その後に壁にぶつかり床へとずり落ちる。


「あと、すまない。魔法はすべて使えないことになった、このダンジョンでは。私はここが気にいった物で、あまり物騒なことをされては困るんだ」


「そうか、あんたを倒せば解除はできると見ていいな?」


 そっちから原因を言ってくれるとは有り難い。

 解決策を自分で告白しているようなものだ。


「まあ、そうだろうな。出来ればの話だが。それともう一ついいだろうか?」


「何だ?」


「まず、ワインだ。飲みたくなったので、注いでくれるだろうか?」


 マズワインは横を向き、どこから取り出したか分からないワイングラスも横に出す。

 つまらない洒落を言って。

 ミュサをあんなにしておいて、そんなことを言われるんじゃ、いら立ちだって出てくる。


 俺は瞬時に傍にある剣を引き抜き、突きを放つ。

 しかし、マズワインは俺の方を見ない。

 それどころか、どこからか現れたメイドの女性にワインを注がせていた。

 あの女性は人間の肌とは違い、薄暗い肌のため、モンスターなのだろうか。


 突きが伸びて相手に当たろうとする。

 だが、相手の指輪が輝き、爪を生やした腕が伸びる。

 腕を見るに爬虫類かドラゴン、そのあたりか。


「何だ、その腕は? トカゲか?」


「トカゲではないさ。いるにはいるが、それでは力不足で君の相手には申し訳がない。今からその正体をお見せしよう」


 マズワインはワインを少し飲んでから話し、グラスを女性に預ける。

 その後、両手にはめた指輪を前に出して光らせた。


 輝きの中心に大きな光の球体が生まれて、徐々に大きくなってくる。

 その大きな光から二つの頭と長い首が飛び出る。

 体表は黒に近い紫の色でドラゴンを思わせる骨格。

 光からさらに一対の大きな翼と六本の尾が飛び出てきた。


 光が完全に消えると、胴体もまた黒に近い紫色であった。

 俺を貫いた尻尾にも近いため、やった犯人はあの竜みたいなものなのだろう。


「トカゲだろうと、ちがうだろうとあんたを倒すには変わりないぞ」


「そう焦るな。紹介しよう、私のしもべ、ジャバウォックだ」


 紹介したドラゴンのようなモンスター、ジャバウォックは大きな翼でマズワインの前を浮遊する。

 大きさは5Mはあろうか。

 二つの頭は俺へと視線を向けていた。


(マズワイン……そうだ、思い出した! あの男、確かに見たことがある!)


 アムリスは思い出して、俺の中から出てくる。


「マズワイン、いや、フルーテ。あなたとこんなところで会うなんてね」


 アムリスの声は喜びの再会とは程遠い。

 どちらかと言えば、会いたくない者を見てしまったかのような声。


 フルーテとあったとは聞くが、やはりマズワインは偽名を使って接近していたということだろう。

 接触はそれでやったということ


「お久しぶりです。アムリス王女、無能の日陰者生活は充実していますか?」


「充実はしているわよ。照日と会えたから、嬉しいくらいに」


「皮肉なのでしょうかね? まあ、いいでしょう」


 笑いつつマズワインは言葉を返す。

 その間に俺は再度突きをマズワインに放つ。

 狙うは最初っからあの男。


 しかし、その突きはジャバウォックの尾に弾かれる。

 六本も尾があるとただで通しはしないか。

 それにあの尾は固く、ジャバウォックに攻撃を通すのも一苦労だ。


「どうして私にあんなことをしたの?」


「どうしてか? まあ、恨みはないのですがね。あなたの幼いころの力を奪いたくてですね」


「え? 私の幼いころの力? 幼いころなんて特にすごい力を使った覚えはないわよ?」


「それはそうでしょう。あなただけでなく周りの者よりも私が一番早くあなたの力を見抜いたとも言えますか、シュンというモンスターを最初に見て」


 ここでマズワインの言葉から出てくるシュンの名前。

 まさかの言葉に俺も攻撃の手が止む。


 しかし、その間に関係ないとジャバウォックは黒ずんだ緑色のブレスを俺の周囲に吐きかけた。

 俺とアムリスはそのブレスの範囲外へ逃げると、床にそのブレスが付着し、音と煙を立てて溶かしていく。

 あのブレス、溶かす力があるようだ。

 どれくらいの強度かは知らないが、触れたくはないブレスだ。


「シュンが? 確かに小さいころから仲良くしていた子だったけど、それが?」


「あなたは物に命を吹き込む力があった。シュンという子はあなたが幼いころに生み出したモンスターなのですよ」


「え? 本当に? 確かにいつの間にかシュンはいたけど……」


「その頃はその力のコントロールもうまくいかなかったでしょう。それにシュン君もいつ生まれたかも分かっていないでしょうね、私と幼いあなたしか生まれたところは見ていませんから」


 マズワインからの解説。


 確かにシュンもいつ生まれたかは俺に話していない。

 あったのは今日だし、そんなことを教えてくれる仲でもないが、自分でも分からないから話せないという訳か。


「あなたは私の教育に少し関わったものね、そういえば……」


「モンスターと言っても生まれたてのシュン君では赤子同然です。彼もあなたも覚えて無くて当然でしょう」


「覚えてないわ……そんな力があったなんてことも」


「それで、私はあなたの力を奪った、絶好のチャンスでしたから。そして、私は奪うための絶好の機会をあなたの可愛がっていた人形を利用した。それで、仮に命を与えたのがミュサですよ」


「ミュサが……その時に」


 アムリスの噛み締めるような言葉。

 ここでミュサが出てくるという訳か。

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