4 裏切りのキス
俺はミュサにキスをされてしまう。
青いオーラが二人に出てくる。
更には俺の顔を覆うようにミュサは手と腕で包み、口で上から押さえつけようとする。
「……!!」
口を塞がれて、俺は成すがまま生命力を奪われていた。
でも、アムリスのように力が抜けるという感覚はない。
まだ、反撃のきっかけはあった。
手で口を離せば、打開は出来る。
だったら、さっさと打開だ。
俺はミュサの顔へと手を伸ばす。
しかしだ。
突如、彼女の背後から二つの人形が出る。
それは俺の手足にかぶさり、ベッドへと固定したのだ。
手もバタつかせる。
が、それは貼り付けられたように動かなかった。
「んっ……」
ミュサから漏れる声。
表情はどこか悲しそうだ。
こんなこと、本当にしたかったのか?
このまま何もしないのもあれだし、足もバタつかせる。
それでも彼女には届かなく、ベッドと足がぶつかる音が出るだけ。
魔法も口がふさがっているし、スキルもアムリスが中にいないから使えない。
そうこうしているうちに俺に疲労感が積もっていく。
生命力を奪われる感覚だ。
手足もまだバタつかせているけど、その力も弱まっていくのが分かる。
衰弱ってやつなんだな。
で、時間が経つとようやくミュサは口と口との距離を離す。
十分吸ったようだが、それでも満足の表情は浮かべない。
口と口の間に繋がる唾液が少しいやらしい。
「あ……」
俺の声はいつもより弱い。
顔の動きも少し鈍く感じる。
「私は日陰者だから、こうするしか……」
ミュサの声。
それはどこか申し訳ない。
こんなことはしたくないとも見えた。
「ハッハ! ミュサ、よくやるじゃないか」
突如の男の声。
俺の周りには特に男の影も見えない。
すると、俺の部屋の入り口から突如裂け目が出来る。
その裂け目は緑色で中から黒いスーツの男性が下りてくる。
男性は黒い帽子をかぶっていて、背には大きなハサミを背負っていた。
ミュサが男へ視線を向ける。
「グラーソ、来たのね。後は一人で行けると思うから、任せるわよ」
「もう、ここまでくればね。僕一人で優勝候補の天川も終わりさ」
ミュサとグラーソという名の男の会話。
どうも、俺をここまで弱らせて仕留めるという作戦があの二人にはあったようだ。
「ここであなたがしくじったら、あなたはしばらくレムリン呼びになるわよ」
ミュサはもう勝ったと確信の話をしている。
しかし、レムリンってなんだよ。
ちょっと気になるじゃないか。
そんな中、グラーソは仰向けの俺の前に移動してくる。
足は自由だが、俺は未だ脱出できない。
彼は背のハサミを取り出し、持ち手に力を入れて二つに分ける。
これを受けたら死にそうだ。
「ハッハ! そんな呼び名は絶対にさせないよ。この一撃で終わりだからね!」
グラーソはハサミの片方を俺の真上に運ぶ。
見て分かる俺への死刑宣告。
そして、間髪入れずに俺にハサミでの突きを入れてきた。
どう見てもやばいし、死ぬ未来が見える。
強くなったけど、これで終わりなのか。
俺はどうなるのか?
その思いがよぎる。
が、その突きは俺には当たらなかった。
ハサミの軌道はずれて、俺の横へと向かう。
急な軌道修正、それは第三者によって行われたからだ。
「何をしているの!?」
声の主、アムリスはグラーソに体当たりを食らわせていた。
結果的にそれでハサミの突きを回避できた。
本当に助かったよ、アムリス。
グラーソはベッドに倒れて、アムリスはすぐに俺の中へと入る。
やることはまず人形からの解放。
空気を粘着化させて、人形に伸ばす。
その人形を引っ張るのに少し苦労したが、何とか一体は振りほどけた。
続けて二体目も同様にやって人形をどかせる。
何とか危機は脱したけど、どうやってアムリスはこっちのことを分かったんだろうか?
(下から足の音がどたばたと聞こえたからよ。ただ事じゃないと思ったら、危機一髪の状態を見て)
ああ、そういうこと。
足をばたつかせたのも無駄ではなかったんだな。
(でも、なんでこんなことに……)
ミュサの方へと視線を向ける。
彼女からは感情を感じ取れなかった、お面をかぶったかのように。
俺に見せた悲しそうな表情も今ではしていない。
「ミュサ、俺達を裏切ってなんか言うことはないのか?」
俺からの言葉、ミュサへ向けての。
友人を裏切ったのに何にも反応はない
本当に何もないのかよ。
あの悲しそうな表情は一体何だったかってなんだよ。
俺なんかよりもアムリスが一番きついはずだぞ。
とここで、すでに立ち上がっていたグラーソが俺にハサミの片方で斬撃を放つ。
「横やりが入ったけど、こっちが有利なのは変わりないからね。耐久力、かなり減っているでしょ! 天川君!」
俺は斬撃を後方に下がって回避する。
耐久力はかなり減っている、間違いなく。
「まあ、そうだけど……」
「体力回復でもしない限り、僕への勝機は変わりないはずさ」
グラーソはさらに言葉と斬撃を放つ。
でも、相手の言葉、妙に引っかかる。
俺には自然治癒のスキルがある。
現に今も耐久力は回復している状況。
そのスキルを知らないで言ったのか?
その間にミュサは緑色の裂け目へと入る。
逃げるつもりで、阻止したい。
だが、今はグラーソの方へと集中しないといけないようだ。
「というかな、ここで暴れられるとすごい困るんだ。外で相手してやるから、付いて来い!」
「ハッハ! 逃げるつもりかい? まあ、この部屋は僕の武器を振るにも狭いからね」
俺は窓を開けて、外へと跳んで行く。
幸いにも窓の先には家の屋根があって、そこに着地することが出来た。
この部屋、実は二階にあるんだよ。
とっさの判断だけど、冒険者になる前だったら、こんなことする勇気なんてなかったな。
強くなったおかげでの余裕なのかもな。
あと、グラーソも同くあの部屋で戦いたくないのか、提案には乗ってくれるようだ。
ハサミを振るのは俺の部屋ではぶつかりそうだしな。
その理由があって、俺もあの部屋では戦いたくない。
俺はアイテムボックスを開いて、剣を取り出す。
しかし、こっちから待っても相手は俺の部屋から出てくる様子はない。
俺の部屋を窓経由で覗く。
そこには驚くことがあった
グラーソは部屋にいなかったのだ。
ということは、部屋から出て律義に玄関から追ってくるのか?
いや、そんなかっこ悪いことって流石にやらないよね?
ただ残っているのは緑色の裂け目のみだ。
その緑色の裂け目を見て、ふと気づく。
相手は確か急に表れたんだよな、あの裂け目から。
ということはだ。
(照日、後ろ! 前に進んで!)
アムリスからの声。
嫌な予感が湧いてきて、俺は鞘から剣を抜きつつ後ろを見る。
あのグラーソがハサミの片方を振り下ろそうとしていたのだった。
緑色の裂け目も頭上にあって、あそこから出てきたのが分かる。
相手の剣の振り下し。
それはなんとか剣で防御できた。
アムリスが声をかけて無ければ、直撃だったな。
「うーん、やっぱりミュサに聞いていた通り、不意打ちは無理っぽいね。中にアムリスって子がいると、後ろの視界もカバーできちゃうか」
グラーソの残念の声。
俺の行動パターンは知られているようだけど、自然治癒のことは知らないな。
おかしい気もするけど、まずは戦闘に集中だ。
「だったら、これはどうだ?」
掌で広範囲の空気を粘着化させ、それを圧縮。
その圧縮した空気をグラーソの懐に押し込む。
ついでに相手の服にも触れて、粘着化も念じた。
そして放つは圧縮空気砲。
圧縮した空気から勢いよく空気が飛んで行き、グラーソは奥へと飛ばされる。
で、まだ終わってない。
相手の服は粘着化させて、その場で固定させる。
粘着化して固定だ、相手も落下せずに浮いたまま固定だ。
もちろん固定化したままで終わらせない。
服ごとグラーソを俺の方へと引っ張るのだ。
俺と相手の距離はどんどん縮まる。
そして、射程範囲で俺は突きを放つ。
相手はハサミで防御しようとしたが間に合わず、突きが刺さる。
ハサミを握る手の力が弱まり、屋根の上へ落下する。
「がっは! ど、どうしてそこまで動けるんだよ……ミュサはまちがいなく耐久力を減らしたってのに……!」
グラーソの言葉。
その後に彼は光に包まれる。
包んだ光は消失していった。
消え方はモンスターと同じ。
彼もまたモンスターだったようだな。
Q なんでグラーソはレムリンの呼び名で怒り気味なの?
A 本名はグラーソ・レムリンだから。
可愛い感じなので、本人はその呼び名を嫌っています




