1 冒険者になったことで日陰者から人気者へ
アムリスからの一件があってから、俺は朝を迎えた。
昨日と同じように朝食も摂って、着替えてだ。
高校へ行く必要がなくなったこと、それはありがたい。
ダンジョン攻略して、家に帰って、高校に行く。
それの繰り返しだと体がもたない自信がある。
あと、優勝候補になったと知らせる手紙も来たね。
王国の印鑑もあって、実感を沸かせるのは十分。
手紙は大事に保存しておくことにしたよ。
そして、今の俺、天川はどこにいるかというと。
「おい、お前ら! 天川さんに迷惑をかけるなよ! 変な気遣いしちまって、ダンジョン攻略に支障が出たらどうなるんだ?」
三木島からの喝。
向けられたのは真希勢高校の生徒たち。
「ダンジョン攻略してどうだった!?」
「魔法って使えるのか?」
「モンスターって本当にいたのー?」
「天川ー! エターナルフォースブリザード使ってくれー!」
「落ちつけ、お前ら! 許可が出るまで待てだ!」
三木島は歓声を出す他の高校生たちに制止の声を出す。
今、俺は真希勢高校にいたのだ。
もう少し具体的な場所は俺の教室で、そこの角で佐波さんの隣にいた。
三木島に至っては俺から少し離れたところで、周囲の生徒がこっちに来ないよう抑止となってくれている。
なぜ、ここにいるのか?
簡単に説明すると、佐波さんからの連絡があって、ここに来たのだ。
行かないという選択肢、それはあるよ。
でも、拒否し続ければ佐波さんも連絡し続けるだろうし、他の生徒を待たせれば、どんどん抑えられなくなるはずだ。
だから、俺は早いうちに他の生徒への顔見せを済ませるのだ。
で、来てからどうなったか?
俺は予想外の歓迎を受けたよ。
それも今までの俺からも考えないくらいの歓声。
「会いたかったぞー」「素敵な顔を見せてー!」「天川様、バンザーイ!」「天川神が降臨なされたぞー!」
初めて英雄と呼ばれるようになった人ってのはこういう気持ちなんだろうな。
なんというか、よく分からないけど達成感がある。
戸惑いもあった。
でも、こうして俺が来てくれるだけで、こんなに喜んでくれるって、それは嬉しかった。
「ごめんね。忙しいし疲れているのに学校に来てもらって」
佐波さんからの謝罪。
まあ、俺は構わない。
ちなみに佐波さんは昨日俺に助けてもらったということで、質問攻めにあっていた。
あと、いやなこともされなかったって聞いているのは安心だ。
これに関しては三木島がにらみを利かせてくれたから、彼女は安心していたって聞く。
三木島には感謝だな。
あれ以来、本当に心を入れ替えて、俺のため、佐波さんのために動いてくれていると聞く。
俺の予定では一時間くらい話をするだけだし、授業もしないからな。
大学入試を頑張る人たちは勉強のために自主的に授業を受けるけどね。
俺は授業どころでないから、流石に受けないよ。
「おれはいいよ。むしろ、高校に行かなかったら、佐波さん達に生徒たちを抑え込んでもらって、迷惑をかけるから」
少なくとも、前は高校に行くのも嫌だったが、今の環境なら問題ない。
ただ、アムリスは今俺の中にいるので、彼女の存在がばれるのは少し嫌だ。
三木島も佐波さんも知っているさ、でも、どことなく引っ込めておきたい。
人気者だからと丁重に扱われるとは限らない。
アイドルだからと言って陰で髪を引っ張られたとか、そんなこともあったと聞いているからね。
ということで、俺が高校にいる間、アムリスはしばらく中にいてもらうことになっている。
「じゃあ……そろそろ、一人づつ話してくれるかな? みんな待っているよ」
「そうだな、魔法を使うところも見せるかもな」
俺は生徒たちの方へ向かった。
そして、ダンジョンでの出来事を話して、魔法のこと、そしてスキルのことを話す。
一応、アムリスのことは伏せておいて、だ。
話しているうちに冒険者になりたいとかという生徒も出たが、そこは俺から釘をさしておく。
冒険者になれるのって意思疎通できるモンスターと会わなきゃいけないし。
ホント運だからな、
やっぱり、生徒が危険な目に合うのは嫌だしね。
俺は生徒たちの会話を終えて、帰路を歩んでいた。
人通りは今のところなく、煉瓦と家に囲まれた一本道の場所だ。
話は最終的に教壇に立って話すことになったので、気分は教師だった。
あまりこういう偉そうな立場で話すこともなくて、割と言葉はどぎまぎだったな。
でも、佐波さんがフォローしてくれて助かったよ。
帰って何するか?
ダンジョンの捜索だ。
モンスターが出てきて危害を加えることは避けたいから、先手を打ってダンジョンを潰しておきたい。
今すぐダンジョン直行もいいけど、荷物は家に置いておきたい。
今、俺はアムリスと一緒に歩んでいた。
「私はあそこの場に出てもよかったけれども……」
「念のためね? 問題あると困るから」
俺は困る可能性を踏まえて、アムリスに話す。
ただ、学校でアムリスの存在を話しても問題ないのかもしれないな。
生徒たちはモンスターの存在も受け入れてくれている感じだったし。
結構いたんだよな、モンスターと会ってみたいな、冒険者になりたいって生徒。
話す機会があれば、その時に話すことにしよう。
で、俺のダンジョン捜索手段だ。
それは原始的な方法しかなかった。
移動する、おかしなところを探る、それだけ。
佐波さんからの情報も特にないし、もしかすると、今日はダンジョンに潜入しないってこともあるかもしれない。
手っ取り早くダンジョン捜索、そんなものはない現状。
あと、幸前とも連絡はとれるようにしたし、何かあったら連絡も来るんだよね。
ダンジョンが現れたらあっちの方で何とかしちゃうが、対処できないようなのが来たら連絡するって。
今のところ、どうなんだろうな、幸前の方は。
「今のところはダンジョン出てこないわね」
「そうだな。それ言って、地震起きて、ダンジョン出てきて、なんてあっても困るんだけどな」
軽い冗談を言ってみる。
実際にこんな冗談が起きたら、今は困ったりはするが。
荷物くらいは家に置いておきたい。
そう言っていると、奥の通路から何やら音が聞こえる。
金属がぶつかる音が通路の中で奏でていた。
場所は遠い。
よく見てみると、猫と鎧が戦っている。
その猫は茶色い毛並で二本足で立っていて、爪の攻撃の応酬。
対するは土の体を鎧で覆うモンスターで、こちらは防戦に徹底している。
防戦の理由は見てわかった。
制服の女性を背後で守っていたからだ。
その制服はアムリスと同じで黒と白がベースの制服。
気になるな、あの服。
なんだか、アムリスとの関係性があるのかも。
「照日、行ってみましょう」
「ああ、そうする!」
俺とアムリスは向かう。
その戦闘の現場へ。
お待たせしました。
ようやくヒロインらしいヒロインが出せます。




