1 光の当たらない陰はない、絶対に自分にも光が当たる日は来る
三行あらすじ
・照日、ボコられる
・照日、サキュバスに会う
・照日、契約のキスで冒険者になる
ゴブリンが光に包まれていく中で、ある言葉を思浮かべていた。
”光の当たらない陰はない、絶対に自分にも光が当たる日は来る”
これは以前、柄池さんというオレンジ色の髪の人が教えてくれた言葉。
どこにでもいる高校生ではあるが、俺は一つ特異な経験をした。
イノシシのバケモノと対面して、その危機を救ってもらったこと。
あのイノシシは成人男性並みの大きさで、黒い体表に黒いオーラを出していた。
今の世界にいないと分かるイノシシのバケモノ、それを倒してくれたのが柄池さんだ。
危機が去った後に柄池さんと自己紹介をしあって、分かった事がある。
彼はこの世界の人間ではないということ。
そして、あの言葉を教えてくれたこと。
その言葉には嫌なことがあっても俺に希望を持たせてくれる力があった。
きっと、近い未来に俺を助けてくれる人がいるという可能性があったから。
「ありがとう、柄池さん……!」
あの瞬間、変われたことに俺は礼を言う。
俺でも光が当たる日が来る。
それが今日なのかもしれない。
不思議と恐怖がなかったのは、イノシシのバケモノよりもあのゴブリンが小さかったからだろう。
モンスターに対する恐怖に少し慣れたからみたいだ。
だからこそ、俺はあの時に救ってくれた柄池さんに感謝をしたかった。
「や、やればできるんじゃない! 見直したわよ!」
背後からの女性の声。
ゴブリンを包んだ光が完全に光が消えていき、剣に加わる重力もなくなる。
方やもう一匹のゴブリンはいつの間にかいない。
弾かれたときに逃げる様子もなくどういう訳か消えたが、魔法陣のダメージで消えたのか。
<レベルアップ! レベルアップよ!>
更に女性の声が脳内に響く。
これは脳内に響くもので、聞こえ方が違う。
「そういえば、レベルアップと言われたんだけど? 脳内の声で」
「ああ、それね? 冒険者になったから、確認できるはずよ。ステータスオープンと念じてみて」
女性からの解説。
それで、何かわかるのか?
それに冒険者ってなんだ?
と考えつつも、ステータスオープン、とりあえずやる。
すると出てきたのだ、ステータスが。
俺の目の前に額縁が出てきて、その中に俺のステータスが書いてあった。
縁は濃い緑色で、中には黒い画面、その中で白い文字が浮かんでいた。
名前:天川照日
種族:人間
LV:2
職業:冒険者
所属:なし
耐久力:700
魔法力:100
攻撃力:250
防御力:250
機動力:250
技術力:250
魔法威力:100
これが俺のステータスか、と言っても弱いのか強いのか分からない。
耐久力の高さに目が行く。
ボコボコにされるのに慣れたからなのかな。
「0のところがないから、まあ、いいほうなのか? と言うか、冒険者って何? どこかへ行かないといけないのか?」
「戦闘経験ない割にはいい方よ。それと冒険者ってのはね、まあ、今はモンスターと戦って倒す資格がある人と覚えればいいわ」
「モンスター駆除人って認識か」
「じゃあ、次はこっちも確認したいから、ちょっと頭を付けるわよ」
そうして、女性は飛びながらお互いの顔を近づけ合う。
女性と近づく機会はないので、再びでも心臓が高鳴る。
更にと自身の額と俺の額を付けた。
温かい温度が俺の額に伝わる。
すると、女性は透明度を上げて消失した。
「何を確認したかったんだ?」
どこへ行くのかぐらいは説明は欲しい。
口調は特に慌てていた様子ではないから、危うい状況でないはずだけど。
(成功ね。今、あなたの意識の中に潜っているのよ。私に問題もないわ)
女性の声が心の中から響く。
まじか。
ということは俺の中にいる、さらにつまり、俺の心も読めていそうだ。
(そういうことよ。サキュバスは夢の中に潜れるけど、こうやって冒険者の契約を結んだあなたとは特別、こういうこともできるの。あと、ステータスも再度確認してみて)
あの契約やったから潜れる訳になったと。
あ、君はサキュバスと呼ばれる奴なのか。
モンスターみたいだけど、こっちに友好的だし、そこは気にしないことで。
とまあ、俺も何か変化があるのか気になるので、念じてみる。
ステータスオープンと。
攻撃力等の欄は飛ばしてみると、新しくできた欄もあった。
スキル、魔法欄
物質粘着化:LV1
スキルが付いていた。
先ほどの確認ではなかったはずだが、もしや、女性が中にいるからついたってやつか。
(そういうわけ。触れたものをねばねばさせる力なの。触れて粘着化を念じると、触れたものを粘着化する。再度触れて粘着解除を念じれば、粘着化が解けるから)
なるほど。
魔法とも記してあるから、魔法もそのうち使えるのかな。
やっぱり、魔法は使ってみたいし。
というか、なんだかRPGの世界のプレイヤーみたいだな、俺。
遅れ気味の反応だけど、立て続けにこんな驚きがあると、こうはなるか。
(これであなたも戦える冒険者になったわけね。あと、勘違いされると困るけど、あのキスは恋愛感情があっての物じゃないから……)
そうか。
君は綺麗だけど、恋愛感情がないなら、あまり変な気を持ってもいけないか。
まあ、本当に恋愛感情がなければの話だけど。
(……な、何、勘違いしているのよ! 恋愛感情はないと言ったらないの!)
そうは言うけど、キスした後は顔赤くしていたし、満足げな顔だったと記憶しているぞ。
むきになって否定していると、その言葉、信用度に欠けるんだけど。
(……じゃあ、話し換えましょ! これからあなたの分からないことを説明するわね。まずは……)
あ、無理やりな話題替え。
でも、ようやく、いろいろなことが聞けるわけか。
女性がどれくらい知っているか分からないけど、少しでも判明することがあればよしとする。
あと、付き合いも長くなりそうだし、女性の名前も聞いておきたい。
そんなことを思っていると、駆ける足音が聞こえてくる。
それは正面からで、さっきも聞いた音。
ゴブリンが二匹、俺に向かって走ってきた。
かと思えば、すぐにゴブリンは通路を曲がっていく。
戦闘する気があっちになかったことは喜ばしいが、それでもよくはなかった。
あのゴブリンは一人づつ女性を抱え上げて、走っていたのだからだ。
しかも、攫われている内の一人は俺のクラスメイトの佐波さんでもあった。
「待て!」
俺は剣を持って走る。
飲み物は量がないので、ちょっと悪い気もしながら、一時置いておく。
さっきみたいな目くらましも通用しないくらいの量だからね。