7 ボス戦も楽になっていた
草木の台座に座っていたおじさん。
彼は俺の様子を察して視線を向ける。
「おお、冒険者が来たか」
おじさんは座ったまま俺を見て、言葉を投げる。
その白いひげのおじさんは、緑色の服をまとい、老人のように細い手足であった。
「やってきたぞ。あんたに特に恨みはないけど、倒させてもらうぞ」
「罪に問われて隠遁していたのだが、わしもこういう時期が来てしまったか」
「訳アリのようだけど、本当にいいのか?」
「わしが悪いからの、禁忌を犯して人を止めてしまったからだ。覚悟は出来ているが、ただで倒されるつもりはないからの?」
そう言って、おじさんは笑う。
木でできた杖が上から落ちてきて、それを手で受け止めた。
どこか、死期を悟ったように見えるな。
ここまで行くとやはり気になる。
名前ぐらいは聞いておきたい。
「おじさん、名前ぐらいは聞かせてくれないか」
「ほう、気になるか? わしはエルメイノという名がある。かつて、人間だった男と覚えてくれ」
木でできた杖をエルメイノというおじさんが振る。
すると、小さい竜巻が彼の足元に発生した。
その竜巻に彼はあぐらをかいて、乗る。
「じゃあ、俺は戦うぞ。両者HP公開」
「おお、構わんぞ。遠慮なく来い、若人よ」
あちらからの覚悟も決まったような物言い。
俺もまた剣を構えて、お互いの耐久力が表示される。
あちらの耐久力は1000/1000。
早速の攻撃は相手から。
風を巻かせて白い刃を杖から出し、俺に飛ばしてきた。
刃は三日月状で三つ、魔法かな。
だったら、こうして防ぐまで
俺は手を地面に触れて粘着化を念じる。
すぐに粘着化した地面を真上に引き上げる。
そして、粘着解除。
それで出来たのは直方体で厚みのある土の壁。
粘着化も高速になった上に広範囲になったからこんなことも可能だ。
その土の壁で、俺は相手の刃を防いだ。
幸前から回収した魔法もシールドが張れるのはあったけど、今回はこれだ。
「次はこちらだ」
俺は突きを放つ、粘着化して伸ばしたものを。
土の壁は崩してだ。
エルメイノは渦巻く竜巻に乗ったまま逃げていく。
ただし、速度は俺の方が早く、そろそろ届くというところ。
するとエルメイノは杖の先で竜巻を付くと、竜巻の高さが増加する。
彼を覆うほどにだ。
その竜巻で、俺の伸ばした剣を弾く。
また伸ばして攻撃は可能だが、それだと同じことの繰り返しだな。
なら、試してみようか、もっと早い攻撃を。
(どうするの? 粘着空気砲もダメなの?)
俺の中のアムリスが問う。
おそらく防がれるだろうね。
まだ試してないスキルがあるんだよ。
俺は剣を元に戻して、掌をエルメイノに向ける。
何かくると判断したのか、彼は杖を構えた。
さらには魔法陣も彼の下から出てくる。
試すスキルは粘着圧縮。
俺は掌で空気を粘着化させ、それを粘着圧縮と念じる。
イメージは空気を縮めること。
その掌の空気は圧縮化されていった、感触からして一円玉の大きさまでに。
考えた通りのスキルだ。
圧縮した空気は元に戻りたいと、掌へと小さい震えを伝えていた。
ならば、こうしてみよう。
「圧縮空気砲!」
掌の空気に向けて突きを放つ。
念じるは圧縮した空気を砲台として、中の空気の発射。
その念じた通りに動いてくれて、圧縮した空気はエルメイノへと放たれる。
するとどうだ。
「風魔法、エアシャッ--ぬおうあ!」
エルメイノの魔法の直前に圧縮空気は命中したのだ。
腹を抑えて彼は後ろへ飛んで行き、乗っていた竜巻も消えていた。
足場を失うことで飛んでいた彼は地に落ちる。
そして、その隙は逃さない。
俺は粘着空気砲を彼に放った。
仰向けの体に命中して、地面に拘束された。
足掻いていても粘着した空気は自由を許さないまま。
耐久力を見ると、エルメイノの数値は700/1000。
見ながら俺は接近して、拘束された彼の上から剣を構える。
「この状況、どうする? 何もないというのであれば、俺の勝ちだ」
「このねばねば、取れる気配がないからのう……」
「ということは……?」
「まあ、取れたとしてもこの状況は圧倒的に不利じゃ。耐久力も差があるしの、わしの負けじゃな」
エルメイノの敗北宣言。
それを聞いた瞬間、アムリスのボイスが脳内に響いた。
<やった! やった! ダンジョンクリアよ! すごいじゃない!>
<レベルアップ! レベルアップよ!>
敗北宣言もダンジョンに受け入られたようで、良かった。
しかし、棄権宣言も反応するって、割と知能のあるダンジョンなのか?
ともかく、よかったよ。
見た目老人の相手をいたぶるのは気が引けたからな。
俺は拘束する粘着空気に触れて、解除をする。
エルメイノはゆっくりと立ち上がる。
「ところで、これからあんたはどうなるんだ?」
俺からの疑問。
ゴブリンのダンジョンのリーダーを倒したときは、光に包まれてきえたからその後は気になった。
「どうなるか……少なくとも死ぬようなことはないが、国の牢へと入れられるじゃろうな。まあ、ダンジョンのモンスターは基本悪さした奴らで、別の世界の冒険者に対処してもらおうとダンジョンとして転移させるようだしの」
ダンジョンってそういう意味もあるんだな。
モンスターもただの魔法生物って感じではないんだな。
「これから、ダンジョンの敵は容赦なく倒して構わないってことだな」
「ま、そうじゃな。ただ、戦う意思のないもので、協力してくれるモンスターもいるかもしれないがの」
エルメイノが腰に手を当てていると、手に光が包まれ始める。
老人の見た目をしているし、落下して地面にぶつかれば、痛みもデカいよな。
少し悪いことをした気もする。
「あ、光が……」
「おお、光が出てきたか。では、捕まりに行くかのう。それとせっかくだし、一ついいか?」
「何か?」
尋ねる俺に、エルメイノが持っていた杖を渡す。
「わしの杖も若人が有効活用してくれ。風の魔法の詠唱を短縮してくれるから、その杖は。あと、台座の下の宝箱もわしは使わないから、遠慮なく持っていけ」
「え、ありがとうございます!」
「若人が使わなければ、別の若人に譲っても構わぬぞ。使われない杖もかわいそうじゃからのう」
エルメイノがそう言うと上へと視線を向けた。
その後に光が全身を包んでいき、時間をかけて消失していった。
早速、向かうとするか。
いきなり誰かに横取りされるとは思えないが、行動は早い方がいい
俺は台座の方へと向かう。
そこの下には宝箱があって、引っ張り出した。
(ちょっといい?)
「何か?」
(照日、かっこ良かったわよ。フェリアを倒したとき)
「……まあ、当然のことをしただけだよ」
改めて言われるとやはり照れる。
俺はこんなこと言われるなんて思わなかったしな。
ということで、照れ隠しのために俺は宝箱を開けた。
すると、なかには白い羽とガイアス石がそれぞれ7個入っていたのだ。
白い羽はスマホくらいの大きさはあるが、鳥の物ではない。
なにせ、白い粒子を少量放っているからだ。
(あ、ガイアス石と天界の羽よ!)
もしかして羽も取引される奴か?
(ええ、持っておいて損はないから、貰っておきなさい)
じゃあ、ありがたく使わせてもらいますよ、エルメイノさん。
手にかける前に俺は両掌を合わせて礼をした。
それらのアイテムと、杖をアイテムボックスに入れる。
こうしてこのダンジョンはクリアとなったことになる。
だが、これだけでは終わらなかった。
幸前を倒したことの影響はあまりにもデカく、アムリスの世界、こちらの世界にも大きく影響を与えたのだ。