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5 圧倒的弱者の可能性

「ぐあぁ……ああ……」


「どうしたの!? 幸前!」


 幸前が苦しむ様にフェリアが近づき、戸惑う

 分からないようで、俺から解説するか。


「ハチの毒ってさ、一回目で刺されると抵抗が出来るんだ」


「今さら、何を……!?」


「で、二回目刺されると、その抵抗が過剰に反応するんだ。自身の体を苦しめるほどにな」


「ハチの毒? そんな、ハチに刺されたことは……あ、まさか!!」


 何に刺されたか気付いたようだな。


「そうだよ、俺が刺した針はデンジャラスビーの毒針さ。現実でもアナフィラキシーショックってものがあるんでね。それだよ、今起きているのは」


「う……」


「さて、なんか手を打たないと負けだぞ?」


 軽く笑って、打開策を俺は問う。

 あれを狙ったのは、幸前がデンジャラスビーに刺されたことはないと分かってからだ。

 一回も刺されてないって言っていたし。


「回復……私にはできないから、どうすれば……? そ、そうよ! 今、あなたをここで倒せば!」


 弓を構えて、フェリアは俺を狙う。

 まだ立ち上がれないから、俺は格好の的。


「まあ、そうくるよね。じゃ、俺はこうだ」


「あ」


 俺は握っている縄を操作して、フェリアを縛る。

 かなりうろたえていたし、縄のことも忘れていたようだ。

 縛られた彼女は倒れた。


「あぁ……」


 幸前の苦しみでうめく声。

 それは弱くなっていた。


 やったの俺だけど、これで死なないよね?

 あれでしか勝ち手段無かったんで、生きていてほしいんだけど。


 そういえば、両者HP公開ってスキルあったっけ。

 ちょっと試しにやってみよう。


「両者HP公開!」


 宣言をすると、俺の耐久力と幸前の耐久力が頭上に表示される。

 そして、幸前の耐久力数値は雪崩のように減少を示していた。

 もう、耐久力は二桁だ。


 そして、一桁へとなってすぐに0となる。


「あ……」


 フェリアは顔に絶望を浮かべていた。

 それも地獄で判決でも言い渡されたような。

 幸前は声も上げなくなっていた。


「勝者、天川照日」


 その瞬間、ジャッジからの声が上がった。

 俺の勝ちが正式に下る。


 ちなみに俺の耐久力は300/1000と表示されていた。

 割と危ないところだったな。


「えっと、メイルオンさん。あんなことするしかないのは悪いと思うけど、幸前は死んではいないですよね?」


「ご心配なく。一命はとりとめていますし、回復もさせるつもりです。私が付いているのは冒険者の命の保障のためでもあります」


 安心の一言。

 殺して決着なんて、決闘として後味が悪いもん。

 やっと勝負が決まったって感じだ。


 メイルオンさんは幸前の元へ行き、しゃがんで手をかざす。

 その手から光を幸前の全身に浴びせた。

 光は白に近い青みがかった色で回復魔法かな。


 光を浴びてしばらくすると、幸前の苦しんだ顔が緩和される。

 気のせいか血色もよくなったのか。


「どうだ? 100%負けと断言した奴には見えない可能性と力、これが分かったか?」


 俺はフェリアの方へと視線を向ける。

 同時に縄の縛りも解いてあげた。

 痛みも落ち着いて、ようやく立ち上がれそうだ。


「……わ、私は負けるはずが……負けるはずがないわ! あんな無能に!」


 すると、フェリアの方から反論が来た。

 俺が逆の立場だったら、そうも言いたくはなるか。

 だが、俺はそんな高い地位にもいたことがないから、何とも言えないな。


「……」


「あんな……あんなことがあったら……お母さまにも顔向けが出来ませんわ! こんなことが--」


「もうよせ、フェリア……」


 フェリアは反論しつつも涙を浮かべていた。

 その言葉に割って入ったのが、幸前だ。


「幸前!?」


 フェリアの驚き。


「負けは負けだし、悪あがきは見苦しいぞ……」


「でも、あなただってここまで来たのでしょ? それがここで終わるなんて……」


「負けを認めてこそ得られる強さもある。それにまだ可能性が潰えたわけではない、だろ?」


 幸前の言葉を聞いて、フェリアはようやく理解を示す落ち着きを見せた。

 あっちも解決と見ていいようだな。

 この気を見計らっていたのか、メイルオンさんは俺へと視線を向ける。


「それでは、決闘も終わったため、私は帰還します。それと敗北した冒険者とパートナーもダンジョン外へと帰還させます」


 おお、そっか。

 このダンジョンに冒険者とパートナーを放置させるのも命にかかわるからね。


「あ、俺の回復とかってないの?」


「ええ、帰還させたと同時に回復の処置をします、ご安心を。それでは帰還します」


 これもありがたいね。

 ダメージ負ったままのダンジョン攻略はきついから。

 ただでさえ、こっちが圧倒的不利の戦いだったし。


 そして、メイルオンさん達を囲む白い魔法陣が浮かび上がり、光に包まれて三人は消えていった。

 俺は体を起こして、足で直立する。


「……ふう、これで安心だ。回復の光も降っているな」


 俺が一息を付くと、頭上に光の粒が降り注ぐ。

 その光の感触は優しく、体の痛みも消えていった。

 上半身を捻っても、痛みはない。

 ダンジョンに行く前と同じ体力に戻っている。


 アムリスは体から出てきた。


「照日、その……」


「どうかしたか? 俺はアムリスが無能と言われたから、それを否定しただけだぞ」


 急に出てきて面と向かって話すからな。

 話すだけなら心の中で十分なのに。


 アムリスは表情をはにかませている。


「本当にありがとう」


「……いいってことよ」


 俺は笑って答える。

 こういうことは面と向かって言いたいか。


「私、無能の日陰者って呼び名がすごく嫌だった。正直言って、フェリアの言っていたことも事実だったし、ああいわれると反論も出来ないほどだったの。だから、照日が完全に否定してくれて嬉しかった」


 視線を下げてアムリスは告白している。


 俺も日陰者と言われ始めたときは嫌だったよ。

 彼女が来るまで、言われすぎて慣れてしまっていたけどね。

 だから、いやだという気持ちは俺は理解できる。


「アムリス、この力も君のおかげなんだ。これで俺にも光が照らされたから、日陰者と言われたら俺が君に日を照らしてやる」


 アムリスだけじゃない。

 きっと他にも日に照らされることなく苦しむ人たちはいっぱいいるはずだ。

 だから、俺は冒険者としてモンスターも倒しつつ、困っている人を助けるようにしたい。


 アムリスの顔に笑顔が浮かぶ。


「ありがと」


 そう言って、アムリスが俺に抱きついて来た。

 彼女の体温が伝わる。

 今は尾も生やしていて、それを俺の腰に巻き付ける。


「もちろん、無能と言われても否定してやるからな」


 アムリスの頭に俺は手を置いて、告げる。

 しばらくこの間は続いた。

 十分と判断したのか、俺の体から彼女は離れる。


 名残惜しいけど、まだダンジョン攻略は終わってないからな。


「えへへ……照日の体温、暖かいね。そういえばさ、レベルアップしたはずよね? 確認しよ」


「おお、そうだな。っていうか、レベルアップの音声聞こえなかった気がするけど?」


「私はあなたの中にいたから聞こえたわよ」


 あ、そうなのか。

 頭の中いっぱいだったからかな、聞こえなかったのは。

 戦闘のことで頭いっぱいだったし。


 とここで俺は気がかりだったことを思い出す。


「そういえば、一つすごく気になっていたことがあったんだが……」


「え? 何? 重要な事?」


 俺は頷いて、口を開く。


「エルドシールダーってメイルオンさん言っていたよな? あれ、何なんだ?」


 そういうと、真剣味を帯びていたアムリスはジト目に変わる。

 え? 俺はなんか変なこと言ったか?

 あれ割と気になっていたんだけど。


「……ったく、あなたは反応がおっそいわねー」


「急だったし仕方ないだろ? 反応遅いのはなかなか治らないんで許してほしい」


「エルドシールダーってね、私たちの世界の数あるギルドの一つよ。ルールを決めたり、他国からの自衛力を担うギルドなの」


 アムリスからの解説。

 ギルドの一つ、か。

 法の番人て感じの組織の人なんだな、あのメイルオンさん。


「ギルドね……あっちの世界にもあるんだな。じゃあ、そろそろ確認と行くか、ステータスの」


 理解した俺はステータスオープンを念じる。


 そして、分かったことがあったのだ。

 優勝候補を倒したことの恩恵を。

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