エピローグ6
佐波さんが俺の方に寄ってきた。
それと、三木島と一緒に来た大学生の女性もいたが、誰かの知り合いなのだろうか。
俺の記憶を頼りにしてもその女性は分からない。
幸前さんはそれを見届けた後に歩を進める。
「では、僕とフェリア、それとヴェルナ君とマーシナルさんとで打開策を考えてみる。天川君と佐波君達は記憶が戻るように話をしてくれ。僕はこっちを優先したいから」
「あ、はい。分かりました」
俺からの了承の後に幸前さんは俺から遠ざかった。
フェリアというエルフの耳の女性とマーシナルライオンさん、それとヴェルナも含めて遠くで話し始める。
「天川君。事情の方も分かっているから、話をしに来たよ」
「佐波さん……俺、記憶がなくて……」
「うん、聞いているよ。だからこうして来たんだから」
「その……ありがとう。少し幸前さんと話したけど、それでも思い出せなかった」
俺は現状を話す。
今のところ、決定戦での出来事を思い出すことはない。
それどころか起きたことを聞いても信用できない状況。
ずっとこのままなのかとも思えてきた。
「それじゃあ、私を抜いてまずは三人で話してみたらどうかしら? 知っていることは三人の方が多いでしょうし」
「そうですね、西堂さん。三木島君と私で話してみます」
西堂さんと呼ばれる大学生の女性が離れて話すと、佐波さんも頷いた。
「えっとさ、何を思い出せばいいかも分からない状況だけど……」
「大丈夫よ。私は決定戦の始まる時のことは覚えているから、それを話せば思い出すかもしれないよ。まずは天川君が変わったきっかけを話そう」
佐波さんと話す機会が多かったわけではない。
ただ、俺のことをよく見ていたのは分かるので、信用できる。
少なくとも三木島の言うことよりは。
「俺、決定戦の中で変わったのか? 本当に?」
「そうよ。おとなしい性格だったけど、見違えるほどに変わったんだから」
「そうなんだ……でも、どんなきっかけがあったのか……」
「アムリスちゃんが来てからね、変わったと思ったのは。決定戦の始まった夜に天川君が私を助けに来てくれたから、そのころから変わったのは分かるよ」
アムリスという語句を記憶を失ってからよく聞く。
それくらい大事なのだろうが、それでも記憶は思い出さない。
「アムリス……か……しかし俺が助けに行くなんて、今では信じられないよ」
「でも、助けに来てくれたのは間違いないよ。ゴブリンのリーダーを倒してね。それに三木島君だって助けたんだから」
まさかの三木島を助けたという事実。
それに俺は本人へと無意識に視線を変えた。
「え、本当に?」
「そうですよ、天川さん。それで俺は心を入れ替えたんですから」
三木島は俺の疑問を肯定してくれた。
正直これも信じられないけど、佐波さんが言うのであれば本当の事なのかもしれない。
それに彼の目はいじめていたころとは全く違っている。
今では服装さえ整えば、優等生とも言えそうなほどの目だったから。
「なんと言うか、今までの三木島と雰囲気が違ったのはそれでか」
「俺はお前を罪悪感で縛るつもりもないって天川さんは言ってくれたんだ。だからこうして心を入れ替えることが出来たんだ」
「というか、言葉遣いまで変わっているんだな、三木島」
「当たり前ですよ。恩人に対して今までの言葉遣いなんて失礼極まりないですから」
あの三木島がここまで言うほどなのか。
それが俺によってここまで変えてしまった。
大きな変化に信じられない。
「本当に俺のおかげで変わったのか?」
「はい、天川さんには感謝してます、今までとこれからの人生で一番なほどに」
かつての三木島だったら信用できない言葉。
でも今の状態ならば、俺は信用できそうだ。
しかしだ。
「……その、ここまでやってくれるのはありがたいんだけど、記憶が全然戻らない。それに本当のことだとしてもあまりにも俺がやったと思えないことばかりで……」
記憶のない間にやったことがいまだにあり得ないことばかりだ。
信じればもしかすると記憶が戻るかもしれないが、聞いたことがどれもこれも信じることが出来ない。
そこで大学生の女性、西堂さんが俺へ視線を向けて口を開く。
「ここまで思い出さないとなると重症ね。せめて一番共にしてきたアムリスがいればあるいはだけど、その彼女もいないみたいだし」
「そのアムリスって人に会えば、もしかすると記憶が戻りそうなのですか?」
「そうね、本当であればあなたと文字通り心身を共にした仲だから、可能性があればそこなのだけど。その口ぶりだと行方不明というところね」
西堂さんの呟く可能性。
少なくとも、今までの話でアムリスという人が重要そうになることは理解できる。
記憶は戻ってほしいと思うが、その後のことも正直不安だ。
とここで俺は腰についていたものに目が行く。
オレンジ色の髪を束ねたようなアクセサリーに。
「……そういえば、このアクセサリーってなんだったっけ?」
「それは何か覚えていないの? もしかすると手掛かりになりそう?」
「この装備は……ん? なんだか騒がしくなった気が」
俺は会話の途中で音を聞いた。
何かの鳴き声と大きな足音が騒がしく聞こえる。
その後、闘技場の壁が大きく崩れた。
モンスターは龍のようなモンスターもいれば、ゴブリンのようなモンスター、果てには人を模した城のようなモンスターが。
それも種類も様々で数も多い。
西堂さんは驚いて、その光景を見つめていた。
「な、モンスターが!? 大量な上にこんなところに!?」
「あ、あれがモンスター……!」
俺は初めて見るモンスターに唖然としていた。
今の俺ではこんなのと一匹でも戦えば、勝ち目なんてなさそうだから。
ただ、モンスターの中に明らかに人と分かる人物も中心にいる。
白い鎧をまとった人が、俺に視線を向けた状態で。
「記憶をなくしているようだから、改めて自己紹介をしよう。私がゼルティアだ、天川照日君」
「あ、あの人が……ゼルティア……」
今の状況で一番の脅威と言われるゼルティア、その人を見て俺は言葉を呟く。
きっと戦えば、確実に負けるだろうことが視線だけで分かる。
俺とゼルティアの視線の間にヴェルナが割って入ってきた。
「くっ……対策も何もないが、ここは私がやるしかない!」
ヴェルナが周囲に円盤を浮かばせて、ゼルティアへと敵意の視線を向けていた。




