エピローグ5
記憶があやふやな俺は家に帰りたいと伝える。
その後にヴェルナという王女は落胆の表情を見せた後、言葉を出した。
「天川よ、私はヴェルナという名の王女なのだ。改めて自己紹介しよう」
「王女様なのですか? その最初はため口で申し訳ないです」
「もう些細なことだ。それに今はもうお前しか頼れる人がいない状況だ。強引に事を進めるが許せ」
「え? その……ここは何処かわからないですし、家に帰りたいのですけど……」
俺は改めて伝える。
よく考えれば、浮いた円盤が俺を運ぶこともとんでもないことだが、それは後回しだ。
「許せ。お前を帰せば、家に帰ることだって不可能だ。理解してくれ」
「な、何故俺なんかに期待しているんですか!? 俺はいじめられっ子なんですよ!」
「ええい! 女々しいことを言うな! もうなるようになるから、黙って従え!」
「は、はい! 王女様!」
強引な口ぶりに俺は従うことを伝える。
こういう人はこうしないと口悪く続けてくるので、従うほかはないのが分かっている。
「まずは仲間の元へと連れて行く! こうなっては国の兵を全部向けても勝ち目はないだろうから、少しでも話し合ってゼルティアとの対策を考えねば!」
「わ、分かりました……」
断片的なことしか聞いていないが、とにかく緊急事態なのは分かる。
でも、それを俺がどうにかできるかなんて、不可能としか言いようがない。
俺は運ばれながら通路を抜けると、中世の闘技場のような広場に出る。
その闘技場は観客席に人はないが、下の方に通路は何個かあった。
「どうしたんだい? 嫌な予感がしたからここに来てみたんだけど……?」
声をかけたのは俺とは違う高校の銀髪の生徒、そして隣には金髪でエルフのような耳を生やした女性もいた。
他にも俺の地域のご当地ヒーロー、マーシナルライオンさんまで何故かいた。
「私も不穏な気配を察してな。もしや不味いことでも?」
マーシナルライオンさんも近寄って話しかけてくる。
「実はだな……とんでもないことが起こってしまった。驚かないで話を聞いてくれ」
それからヴェルナは俺に起こったことを話した。
話を俺も聞いていたが、他の三人は俺がすごく強いという話に驚きもしない。
ただ記憶をなくしたと聞いて驚いたことは事実である。
正直、俺が強かったということは信用出来ないので、なぜ俺の強さを認めてくれるのかは分からない。
それにすごく期待をしてくれることに申し訳ない気持ちもあった。
こんないじめっ子の俺に期待をしてくれることに対して。
そんな思いの中で話が終わる。
「……高校でのことは覚えているのだろう。まずは佐波君と三木島君と話せば思い出してくれるだろうから、僕が連絡を取ってみる。記憶のない天川君では戦ってもしょうがない」
銀髪の人がスマホを取って連絡を始めた。
話で名前が出ていたが、幸前さんという人は佐波さんと三木島と知り合いのようだ。
友好的な人で少し羨ましい。
俺はいじめられっ子だったから。こういう性格になることなんてありえそうにない。
ただ、どことなく俺のことも知っているそぶりは見せていたので、話しかけてみたくなってきた。
「あの、幸前さん……で、よかったですよね?」
幸前さんの連絡が終わったタイミングで俺は話を持ち掛ける。
「ああ、そうだよ。天川君」
「俺がすごく強いと期待しているのですけど、どれくらい強かったか分かりやすく教えてくれますか?」
記憶のない期間で俺はやっていたこともあるようだが、そこについては聞いてみたい気持ちはあった。
その為に知っていそうな幸前さんと話をしてみたい。
「簡単に言うとだ、僕は王に成るトーナメントの決勝戦まで来た。それで僕を撃破して、天川君は王に成ったんだ」
「はあ……」
「まあ、信じられないだろうね。魔法も使えないのかな? それとアムリス君は中にいるのかい?」
「え? 俺って魔法なんて使えるんですか? それとアムリスって人も分からないんですけど……」
「そうか……まあアムリス君が中にいるなら、もっと事は容易に運べたんだろうな……」
アムリスって人も俺のことを知っているようにも聞こえる。
ただ、その人と関わった記憶は全くない。
「その、俺は強いって期待されているようですけど、俺は全然信じられないんです。俺っていじめられたことしかないですから」
「そうか……ああ、ヴェルナ君、ちょっと落ち着いてほしい。今は僕と天川君で話がしたい」
幸前さんは近くにいるヴェルナをなだめた。
あのヴェルナって人はきっと気が強くて、いじめっ子みたいな人なのだと予想できる。
「話を聞いていて、俺にしかどうしようもないっていうのは分かるんです。でも、その期待がとても大き過ぎて……本当にどうすればいいのか……」
「まあ、無理もないか。話を聞けば、決定戦の記憶がすべてなくなったように見えるから」
「あ、その……一人で逃げようとは考えてはいないとだけ伝えます」
「それは嬉しい。君の根っこは変わってもいないようだからね」
幸前さんからの言葉。
どことなく友人だからこそ知っているような語り口でもあった。
「もしかして決定戦で俺と幸前さんは知り合って、仲を深めたと見ても……」
「そうとも言えるかな、友人に近いとも言える。君は仲間のために戦うと強くなれることも知っているから」
「……いまいち分からないんですけど、そうなんですか、俺って?」
「ああ、フェリアがアムリス君を中傷したときにすごく怒ったんだ。それで最初の戦いで僕は負けた」
戦いの記憶だって思い出さない。
それどころか戦ったとしても幸前さんに負けるとしか思えないほどだ。
「そんなことが……でも、戦った記憶は全くないです……」
「思い出さないかい? 私のパートナーのLVは50よ。10倍の差があるじゃない、とフェリアは言ったんだ。それに可能性ってものはLVの差だけで決まるんじゃない、と君は言葉を返した」
「……まったく記憶にないです」
それを聞いて俺は思い出そうとするも、思い出せなかった。
幸前さんの話を聞くだけでも、俺が強かったとの事実は分かる。
ただ、どうしてもその強い自分は俺とかけ離れていて、信じることはできない。
「ふむ……ならば、決定戦の話をとにかくしよう。天川君の知り合いと話せば記憶も戻るかもしれないから」
「佐波さんは俺のことを知っているかもしれないので、話してみます」
「それと、ゼルティア君との対策も考えよう。彼の出来ることだけを聞くと正直どうすればいいかも分からないが、とにかく今いる人だけでも知恵を集っていかないと」
幸前さんは周りを見て話す。
ゼルティアがとんでもない人で倒さないといけない。
そこは理解できるが、俺が戦ったところでどうしようもないのも分かる。
もしも俺とゼルティアが戦うようになれば、おそらく逃げるしかないだろう。
無暗に戦ったところで、無様に負けて死ぬしかないのも分かるから。
そこである女性の声が遠くから聞こえてくる。
「天川くーん! きたよー!」
別の通路から佐波さんが走ってきたのだ。
更には三木島も一緒で、大学生の女性も一緒に来ていた。




