エピローグ2
「そうだ、私の指示だ。そして、ヴェルナや他のモンスターに人さらいを指示したのも。いわば今回の騒動の黒幕と言える」
ゼルティアからの言葉。
先ほどまでの行動を考えればこうなりそうだったが、言葉で言われると驚く。
その驚きはアムリスにもあったのだから。
(そんな、お兄ちゃんが……お兄ちゃんが悪いことしていたなんて……)
アムリスから落胆の言葉が出ていた。
実の兄が裏でこんなことをやれば、失望だってある。
それに加えて戦いにくさも。
「アムリス、辛いかもしれないが、俺はあの人と戦うからな」
(うん、任せるから)
アムリスから任せられて、俺の視線はゼルティアに向ける。
戦う前にまだ分からないことはある。
「戦うと言っても、あんたに聞きたいことが多すぎるからな。まずは話を聞いてもらうぞ」
「いいだろう、私も話したいからな。ここまで事が運んで、誰にも話さずだと私としてもつまらない」
「で、ここまでして何の目的があったんだよ?」
まず聞きたいことは目的だ。
提案してみて、すんなり応答してくれてそこは助かる。
「簡単だ。ヴェルナのペンダントにトルーハの力を封じ込めるためだ。このペンダントには封印された魔王の力が宿っているが、それを開放するには強大な力と数多くの人の生け贄が必要なのだ」
「それで人さらいをしていたわけかよ」
「決定戦の前にヴェルナはすでに従わせていたからな。生け贄はそのうち集まるだろうから、必要なカギはトルーハだけ。しかも、それが天川照日君とアムリスの元にいたからな、実に好都合だったよ」
「俺は掌の上で踊らされていたということにもなるか」
俺を利用していいところを岳をかっさらっていたわけか。
まさかアムリスのお兄さんがこんなことをするとは思わなかったのも事実。
悔しい思いもある。
と考えていたところだ。
「いやいや、君は偶然都合よく踊っていたから利用したに過ぎないさ」
「何だ、俺がトルーハさんと契約したことは知らなかったというのか?」
「知らなかったんだ、君と初めて会うまでは。君に会いに来たのはトルーハを君と探す為だったのだぞ。剣を隠したのも時間を作るために私の部下がやったことなのだから」
「あれはそのために人為的にやったのか」
ガティークに頼んだ時に剣を隠されたのは仕組まれたことだったという訳か。
色々と分かったことが出てきた。
「で、聞きたいことは以上か? まだまだ答える余裕はあるが」
「いや、もういい。俺は野望の肩担ぎをしていたなら、その責任でその野望をつぶす必要がある。さっさと潰しておきたい」
「そうか。では始めようか」
俺にはここまでゼルティアを増長させた責任はある。
だから、俺がここで倒すしかない。
「待て。私もこの戦いに加勢するぞ、天川よ」
ヴェルナからも加勢の提案が出る。
「ヴェルナ、助かる。でも、いいのか? 人質だっているんじゃ」
「ここまで来たからには私も戦わねば。ゼルティアに歯向かわなくとも、きっと人質はただでは済まない」
「そういうことか」
俺から納得を伝える。
ヴァルナにも譲れないところはあるだろうから、俺もここで文句を言うつもりもない。
「話は済んだかい? 何人こようが構わないぞ、私は」
ゼルティアからの確認。
ヴェルナも円盤のモンスターの姿へと変わっていて、戦闘も出来る。
俺はすでに戦闘準備が出来ていた。
「親切に待ってくれてどうも。余裕のようだが、先に攻めさせてもらうぞ!」
まずは俺から結晶を精製して、ゼルティアへの攻撃をする。
その結晶は三つの鋭利な先端に分かれて、伸びていく。
更にはヴェルナも円盤を一つゼルティアへと飛ばした。
俺にやったようにスキルを何かに変えるつもりか。
しかし、ゼルティアは二対一の攻撃でも何もせずだった。
このままでは当たる、そう思っていた時だ。
「一つ言い忘れていたな。トルーハをペンダントに封じ込めた今、魔王の片鱗の力、私はそれを使えるようになっている」
そのゼルティアの言葉の後、瞬時に消えたのだ。
円盤が光る直前と、結晶が当たる直前に。
「な、何!?」
俺は驚くしかなかった。
瞬間移動か高速での移動か。
「私の方でも手ごたえがないぞ、天川。光が当たった形跡さえもない」
ヴェルナもまたどこにいるか分からないようだ。
その言葉で俺の嗅覚でようやく察知できる。
「ここだ。二人とも」
上を見上げて、ゼルティアの姿を確認する。
彼は真上の天井に逆さの状態で足を付けていたのだ。
その足には黒い気が張り付いていて、それで固定をしているようだ。
「何をしたかは分からないが、炎魔法、フレイムスネイク」
俺は魔法で直線状の炎を掌から出す、攻撃魔法巨大化も合わせて。
20もの炎がゼルティアの周囲を囲む。
避けた種が分からないが、周囲を囲んで逃げ場をなくせばそれも通じない。
囲んだ炎が一斉にゼルティアへと向かう。
その位置から炎が真上に上がり、俺はそれを後退して避けた。
間違いなく当たった。
「魔王の力はいいものだ。トルーハを封印して更なる力が私に手に入ったからな」
と思ったのも間違いとゼルティアは言葉を挟んでくる。
今度は俺の背後から話してくる。
俺は飛んで距離をとると、その姿は焦げ跡も臭いさえもなかった。
「何だ、何が起こっているんだ……?」
「天川、ゼルティアは時間を止めて逃げたのだ」
戸惑う俺にヴェルナが答える。
「時間を……? そんなことが出来るのか?」
「私の国には封印されていたのだ、時間を操るマーガジオという魔王が。きっとそいつの力をゼルティアは得ている」
「まさかあのヴェルナが持っていたペンダントにか。トルーハさんも封印されているあのペンダントに」
「それしかない。私もあの形見のペンダントに魔王が封印されているなんて思いたくもなかったが」
ヴェルナの解説の後にゼルティアが持つペンダントを見る。
そのペンダントは中心に直線のようなものが生えていた。
まるで時計の針のように。
「亡国の姫とあればここまで分かるか。なら誤魔化しもきかないな。その通り、魔王マーガジオの力を私は手に入れている」
その解説をゼルティアは肯定する。
種がはっきりしたのはいいが、これからどうすればいいかは壁としてかなり大きい。
「さっきのは時間を止めて、わずかの隙間をかいくぐって避けたわけか」
「そうだ。ペンダントを持つ前は魔王の影を伸ばすだけしかできなかったが、今ではこうだ。私に触れることはもう不可能と考えていい」
「くっ……」
触れることは不可能、その言葉に俺は反論ができなかった。
種は分かったが、攻撃をどう当てればいいかはまだ分からない。
そして、当てる手段も思い浮かびそうにもない。
ゼルティアは背後から出てきた黒い影に収まった剣を握る。
「では、私が魔王の力に慣れたからにはもう攻撃も出来そうだ。ここからは」
ゼルティアからの攻撃が始まる。




