4 ジャイアントキリング
戦闘開始の後、フェリアをパートナーとする男性が俺に向かってきた。
男の方は幸前て名前みたいだな。
メイルオンさんが言っていたし。
そして、その移動速度も速い。
流石はLV50、動きが全く違うな。
(ねえ、照日? あんなこと言ったけど、勝機はあるの?)
アムリスの心配言葉。
ああ、あるさ、心配いらない。
アムリスのために絶対に勝ってやるから。
(……ありがと、照日。私も出来ることはしっかりやるから)
頼むよ、アムリス。
心の中のやり取りの後、俺は粘着化した空気を放つ。
幸前はそれを飛んで回避して、剣を上に掲げもする。
剣の振り下ろしに、俺も剣の防御で応戦する。
「くっ! 重い! あの剣は軽そうなのに……」
剣のせめぎ合いは俺が押されている状況。
力もかなりの差を感じる。
そのため、斜め後ろに飛んで、せめぎ合いから逃げた。
(照日、弓矢も飛んでくるから! すぐ避けて!)
忠告の後にフェリアの方を見る。
すでに弓を構えていて、俺に向けて矢を飛ばす。
それも俺は何とか避けた。
「防戦は不味い……」
だから、アイテムボックスオープンだ。
片手で縄二本と毒針を取り出す。
縄はゴブリンのダンジョンで手に入れたものだ。
毒針は縄に粘着させて置き、まず片手で針を付着させてない縄の先を投げる。
その縄も粘着化させて操作可能だ。
対して幸前はその縄を後方に飛んで避ける。
粘着化させて縄で追っているが、追うのは一苦労だ。
でも、そのための縄二本体制だ。
(照日、また弓矢が飛んでくる! しゃがんで!)
了解、アムリス。
俺はしゃがみつつ、縄の操作を続ける。
矢は俺の上を素通りする。
そして、幸前が縄を上に飛んで避けた。
その時を狙って、俺はもう一本の縄の操作も開始する。
縄に付着した毒針が幸前の足に刺さる。
「よし、刺さったぞ」
安心の息を俺は出す。
追うのは大変だが、これで刺さった。
(毒で衰弱させる作戦ね。考えたわね)
まあ、そんなところだな。
だが、幸前を見て驚くところがあった。
俺は針を引き抜くと、すぐにその傷が回復していた。
「僕は治癒力を高めるスキルも持っていてね。それくらいの傷はこうして回復するんだ」
幸前は俺を見て語る。
そうしているうちに傷口もなくなっていた。
「な! そんなスキルもあるのか……!」
「こういうスキルがあるから自信もあってね。こんな針に刺されたのは初めてだけど」
「そっか……でも、まだ俺はあきらめてないからな」
攻撃しても無駄になる状況。
それが分かって、さらに戦況は厳しくなる。
でも、幸前の言葉に俺は勝機を見出していた。
「ああ、望み通りの言葉だ。天川君も面白いことをしてくれたし、僕も新たな攻め方を見せようか」
そういうと、幸前はフェリアに視線を向ける。
あいつが頷くと、黒い円を出す。
何かをアイテムボックスから取り出す気か。
その後に幸前はこっちに向かってくる。
彼は俺に剣が届く範囲で振り下ろす。
突きで応戦する隙はなさそうだ。
それも防御するしかない。
「ところで、パートナーがあんなきついことを言って、お前さんはどう思ったんだ?」
剣で防御して、俺は問いを投げる。
「フェリアがあんなことを言って悪いね。でも、あのまま言わせていたほうが、君はもっと力を出してくれると思ってね」
「ああ、いい気分じゃない! でも、そのおかげか火はついたよ」
「僕のことも恨んでも構わないからね? 君が本気出せるなら好都合だ」
俺の気持ちもこうなると分かっていた上で黙っていたのか。
こいつは俺達が踊り狂う様に乗じて、自分も踊るって魂胆というわけね。
このままは不味いと俺はまたせめぎ合いから逃げた。
すると、幸前は俺に掌を見せてきた。
「なにをする気だ?」
「炎魔法、フレイムサークル」
幸前の言葉と共に俺を中心に火が発生する。
その火はすぐに俺の周りを走った、円を描くように。
不味い気がして縄も針もすべて俺の手に戻す。
火で出来た円は俺には近づくことはなかったが、高さを増やして壁のように俺を阻んだ。
魔法ってあんなに早く発動できるのかよ。
「俺に届かなかったのは幸いだが、移動範囲を縮められたか…」
俺は周りを見る、同時にアイテムボックスオープンを念じる。
円の直径は3Mくらいか。
むしろ、逃げ場を狭めることが狙いか。
何か大事を仕掛ける気か。
幸前がフェリアへ視線を向ける。
「じゃあ、僕たちの新たな攻め方、見ててくれ」
その幸前の言葉と共にフェリアは束になった矢を放つ。
矢は先端に大きな固形物が付いていて、俺ではなく、上へと飛んで行った。
「何だか分からないが、不味い気がするな」
「炎魔法、フレイムスネイク」
幸前は手のひらを上に向けて魔法を発動させる。
俺はアイテムボックスから毒針を取り出して、縄に付着させた。
何が起こるかは分からないが、避けにくい攻撃をしてくる予感がする。
幸前の唱えた魔法によって、直線状の火が上へと向かっていく。
目指す先は上空の矢で、距離を縮める。
するとどうだ。
矢が周囲に散らばる、火に包まれてだ。
しかも、その火をまとった矢に固形物までついていて、一斉に俺の方へと向かう。
「逃げないとだめだ!」
「これが僕の合体技。ブラストドラゴンさ」
幸前が腕を動かす。
あの矢ごと幸前が火を操作するのか。
矢の数は8つ。
全て回避できないと負けの可能性がある。
「くっ! あの矢に固形物もついているから、当たりたくはないな!」
一つの矢が俺に回避され、通り過ぎる。
その後、矢は音を立てて爆発した。
周囲に黒い爆炎が残る。
「全部避けれるかな?」
この炎の壁の中にいてはだめだ。
俺は上空に縄を伸ばす。
その先には木の枝があって、俺は縄を縮めて上に飛ぶ。
上に飛びつつ、俺は次々とくる矢を体を捻らせて、回避していった。
当たらなかった矢は爆発していった。
矢は全部回避した。
「危なかった……これで、爆発も避けたってわけだな」
俺は炎の円の真上にでて、下を見下ろす。
炎の円の中に煙は閉じ込められて、外には出てなかった。
その瞬間。
(照日! 矢が来ているから!)
アムリスからの忠告。
俺はフェリアの方を見る。
すでに、矢は迫っていて、回避する時間はなかった。
俺は腹に矢を受ける。
「あれを回避したのは凄いけど、こうなる事も想定済みでね」
幸前からの言葉。
それを聞きつつ、俺は枝とつながった縄を離して、落下する。
受け身をとれずに地面に背をぶつけた。
「がはっ!」
俺の中の胃液が衝撃で口から飛ぶ。
周りに煙は少し残っていたが、火の円はもう消えていた。
「あなたはなかなか頑張りましたわよ。でも、わたくしと幸前の前では勝機はなかったようですわね」
フェリアが近づきつつ、言葉をかける。
勝ちを確信したかのような言葉。
そうは言いつつも、俺の剣が届く範囲から逃げてはいる。
用心深いな。
この状況、確かに俺の負けがほぼ決定みたいだな。
かなり痛いし、立ち上がるにも時間がかかる。
でも、まだできることってあるんだよ。
俺は縄に念じる。
「さて……どう、かな?」
俺は勝機についてを問う。
「何を言いますの? もう、あなたは負けたようなものではありませんか?」
「まだ、出来ること……あるんだよな」
俺からの反論。
そして、手ごたえを感じた。
俺が念じた縄は毒針が付着した方。
その縄は密かに幸前の足に刺さっていた。
「何をしてますの? 幸前にはあんな針が通用しないことは分かっているはずでしょ?」
そうだな、あれで幸前に傷はつけられないよ。
傷だけ、ならな。
突如、人が倒れる音。
その音にフェリアは視線を向ける。
視線の先には幸前が倒れて苦しんでいた。
「よかった……俺の勝機、繋がったみたいだ」
俺の言葉。
その言葉にフェリアは唖然と驚愕の表情で反応する。