11 試練を乗り越えて
俺はマーシナルさんを打ち破り、試練に打ち勝った。
その結果に歓声が巻き起こるも、その声は周りをも揺らす。
先ほどの地震よりは劣るだろうが、それでも地震かと思えるくらいの力がある。
「す、すごいな……人の声ってこんなにも力が」
俺は周りの様子に目を奪われるしかなかった。
こんな歓声は初めてでもあったので。
メイルオンさんはマーシナルさんの方へと寄っていき、回復処置を始めた。
と、ここでアムリスが急速に近寄ってくる。
「やったじゃない! 照日!」
「うごあ!」
声と共にアムリスが突進してきて、バランスを崩す。
「これで王様よ! 王様! ついにやったのよ!」
「ああ、そうだな」
「嬉しそうじゃないわね?」
「実感が今のところないっていうのと、これから本当にやりたいことに手を付けられるからな。まだ終わったわけじゃないし」
俺は確かに王へと成れるわけだが、王になって終わりでもない。
ヴェルナの待遇改善だってあるから、俺のやることはこれから増える。
ここで俺の目標への道が終わったわけでもないのだ。
実感がないのもそれが原因かもしれない。
「でも、喜べるときは喜んだ方がいいわよ。ということで、私から一言」
「何?」
俺からの疑問の後にアムリスは俺の手を取る。
そして微笑んで次の言葉を言ってくれた。
「おめでとう、照日」
アムリスからの祝福。
その言葉のおかげで少し心が緩んだ気がした。
緩みから俺もどこか嬉しさがこみあげてくる。
「……あ、実感が出てきたな。ありがとう」
俺からの礼。
この嬉しさが実感かどうかは分からない。
でも、嬉しい音には違いないので、俺からも礼を言わないといけない。
それが終わった後にトルーハさんに乗ったミュサも近づいてくる。
「私からもいいですか、天川さん」
「ミュサか、用件はアムリスと同じってところか?」
俺からの質問。
それにミュサは頷くと共に、姿勢を低くして膝を下に付ける。
「そうです。おめでとうございます」
「ありがとう」
「ですが、私はこれだけでは終わりません。これから私は王の部下として、改めて仕えることを伝えに」
「ああ、そうなるか。でも接し方は今まで通りでいいんだぞ」
俺からは現状維持でいいと伝える。
頭を俺よりも下げたのは、ミュサの意思表明の表れか。
「いえ、天川さんが王に成るのであれば、今までの接し方では」
「俺は以前と違う付き合い方だと調子が狂いそうだし、そこは頼むよ」
俺からの理由の説明。
彼女の言い分は分かるも、今の状態を見ていると俺の調子が狂いそうな予感がしている。
「……そうですか。ならば、今までと同じように」
「それで頼むよ」
「では、生命力も今まで奪いに来ますので、よろしくお願いします」
「あ、そ、それもそうだったな……」
確かに生命力のこともそうだ。
接し方を変えなくていいといったからには、これからミュサも毎日生命力を奪いに来るだろう。
アムリスはそれを聞いて何とも言いようがない顔でいて、その中でシュンが俺の後ろから飛びついてくる。
「やっぱそう言うと思ったよ、てるちゃーん。僕の目に狂いはなかったわけだ。という訳で僕も今まで通りの接し方で行くよ」
「シュンは接し方を変えろと言ってもダメだろ? それに身分が変わったからと言って、接し方を変えないといけない関係でもないだろ、俺達は?」
俺はミュサへと顔を向けたまま、シュンへと目線を向ける。
「そうそう、付き合いだって長い方じゃない」
「そういう訳だし、ミュサもシュンも今まで通りでいいんでな」
俺からの言葉にミュサは笑みを浮かべた。
納得は行ったようで何よりだ。
「天川照日、今よろしいでしょうか?」
この会話に飛んできたメイルオンさんの言葉が割って入る。
「はい、何か?」
「マーシナルライオンが話があるということで、降りてきてもらっても構いませんか?」
「あ、はい。分かりました」
俺から了承を伝えると、マーシナルさんの元へと下降していく。
シュンは俺の背に乗っかったままで。
「てるちゃん。僕はスキルコピーが切れたんで、このままで許して」
「ああ、そうかい。しょうがないな」
シュンの要望を俺は受け入れる。
スキルもそろそろ切れそうなので、それは仕方なしか。
ついでと言わんばかりにトルーハさんも俺に視線を向けた。
「天川君。俺は腹が減ってきたんで、なんか食べたいんだけど。出来ればモヤシ炒め大盛りが」
「こんな状況でそんなこと言わないでくださいよ、トルーハさん」
野菜を食べたいという要望に俺は変な気分になってしまう。
でも、トルーハさんには世話になったので、それくらいはいいかとも思える。
あとはヴェルナも呼んでおきたい。
王へと成れて、報告できれば喜ぶだろうから。
「すまない、天川君。話があって下りてきてもらって」
「ああ、構いませんよ。いづれ、下りないといけないですし」
俺はマーシナルさんの元へと降りて、話し始める。
その会話が始まってからシュンは地に足を付けて、その場を離れる。
「おめでとう、君は試練を乗り越えた」
「はい」
「私からも王へとなって問題ないとお墨付きなのだ。自信を持ってこれからも頑張ってほしい」
「ありがとうございます」
俺は礼を言う。
試練を直接与えてくれた人から言われると、やはり心構えも無意識に変わってくる。
そのやり取りの中でマーシナルさんは俺が身に付けているアクセサリーに目を向けていた。
「それにしても、その後ろのオレンジのアクセサリーはどこで手に入ったのか聞きたいのだが……?」
「これはガティークさんに作ってもらいました。スキルが追加される装備品です」
「そうか、その髪のような装備品を見ていると思い出してね。あの救済者の方を」
マーシナルさんは上へと視線を向ける。
救済者という言葉は俺の耳になじみがなかった。
「救済者……ですか?」
「私はアムリス君の国の人間でもないと言ったが、そのオレンジ色の髪の救済者に助けられたのだよ、この国に来る前に」
「そう……なのですか……」
俺はその話に興味が出ていた。
俺もまたオレンジ色の髪の人、柄池さんに救われたのだから。
まさかと思うが、その救済者が柄池さんなのか。
そうは思ったが流石に偶然にしてもあり得ない話なので、その考えはここでやめにする。
「私も助けられたからこそ、こうして人を守りたいと思ったからな」
「その救済者って人に大きな影響を受けたのですね」
「ああ、矮小な私を許してくれたのだ、あの救済者は。それと、少し私情を話してしまって済まない」
「全然そんなことはありませんよ。もしかしたらその救済者と関係のある装備かもしれませんし」
俺からの否定。
まさかと思える話があっただけでも、俺にとっても無駄な話ではない。
「後は国の方で任せればいい。王に成ってからは大変だろうけど、頑張ってくれ」
「分かりました」
俺は理解を言葉にした。




