3 強敵は予想よりも早く来る
戦闘を終えて、俺達は次のフロアへと進む。
次のフロアはモンスターはいなかったが、一つの宝箱があった。
先ほどのフロアと同じく草木で区切られていて、その中で俺は宝箱を開ける。
宝箱の罠についてはしばらくは考えないで開ける方針で。
宝箱の中は袋に入った緑の固形物とポーションとロングソードをひとつづつだ。
あ、緑の固形物は毒消しだってね。
判別はアイテムボックスに入れて判明した。
「よし、じゃあ、次のフロアへと行こうか」
俺は周りを見渡して呟く。
ポーションも手に入ったし、回復手段の確保はありがたい。
一応、急ぎの用事ではないけど、急いだほうが吉だろうね。
捕まった人がいる様子でもないから。
もしその人がいれば、教えてくれるはずだし。
(あそこに通路があるから、行きましょう)
アムリスの声の後に、俺は通路へと視線を向ける。
でも、時間が許せば、魔法は試してみたいな。
魔法の準備と威力は一度試して、確認したいし。
と、ここで、足音が聞こえる。
俺が入ってきた方からだ。
足音からして、一人でない。
その通路から二人の人間が姿を見せた。
(あ……嘘……)
アムリスからの驚きの声。
声からするに会いたくない人物か。
「あら? 他の冒険者がこんなところにも」
女性からの声。
その女性は金髪の人間で弓を構えて、白いミニスカートをまとう。
だが、人と違う特徴として、耳が横に長い。
俺の知識では、あれはエルフって種族と判断。
隣には銀髪の男性で、片手剣を持っていた。
男性は白い制服をまとっている。
俺も見覚えがある制服だ。
名前はうろ覚えだが、かなりいいところの高校である。
「フェリア……あなたと会うとはね……」
アムリスが俺から出て声を出す。
顔色も険しいうえに、いやな感情も顔から見える。
「知り合いか? アムリス」
「ええ、あの子、優勝候補の一人。そして、前々回の決定戦、その王者のエルフの娘よ」
来たか、優勝候補。
いずれ対面はすると思ってたけど、予想より早い。
「あら、アムリスまでいたの? 無能の日陰者のあなたが」
フェリアと呼ばれる女性は首をかしげて確認の声を出す。
「悪かったわね、フェリア。私も参加するなんて思わなかったわよ」
「あら、そう? じゃあ、さっさと棄権してくださる? それで、わたくしの糧となってくれれば許しますわ」
「それはいやよ。特にあなたの糧なんて、まっぴらごめんよ」
「あら、そう……? では、今から瞬時に糧とさせて頂きましょうか」
フェリアは宣言するとともに、背後の矢に手を伸ばす。
うわ、あっちやる気満々か。
こりゃ、不味い流れだ。
このままだと、戦闘する。
それは避けたい。
「ちょっと待て! 今はお互いに戦うのは得策でないだろ?」
現状を俺から話す。
あっちだって分かっているはずだろ、モンスターが関係ない人まで危害を加えているのは。
だから、ここでつぶし合いは無駄な危害を増やすだけだ。
その言葉にフェリアは俺へ視線を向ける。
気に入らないとの言葉も視線に混ざっているね。
彼女が反論すると思った。
その矢先、次に言葉が来たのは隣の男性だ。
「うん、それは僕も同感だ。公に出たモンスターがさらうのは見た光景だから」
この男性は話が分かる人だ、助かる。
表情も見たところ険しい顔はない。
「じゃあ、ここは戦わずにということで」
「いや、それでも、僕は決闘を申し込む。君は面白そうだからね」
そんなのないだろ。
不味い選択だって分かってなのか?
「な、なぜ……? 現状は分かっているだろ?」
「これがやってはいけないことだとは承知だ。でも、それ以上に君と戦いたくてね。悪いとは思っているけど、この高鳴りが抑えられない状態だ」
その高鳴りは堪えてほしいのだけど。
高鳴りが抑えられないって曲でも脳内に流しているのか?
もう、こうなったら戦うしかないか。
相手二人とも聞いてくれそうにないようだし。
「ところで、何故アムリスが無能の日陰者と言われるか分かる? パートナーさん」
フェリアからの質問。
それは俺に向けてだ。
「いや、何にも聞いてないな」
「まあ、言いたくはないでしょうし教えましょう。それは、国の王女として生まれながら、スキルもうまく扱えず、魔法も戦闘もダメだと言われたからなのよ」
「俺は教えてほしいなんて言ってないぞ」
「新米兵士にも勝てないと聞き、しかも、歴代の王国の血族きっての無能と言われるばかり、あなたに仕える者からも無能の日陰者と言われているくらい有名ですわ。王様もきっとあなたを秘匿したかったのでしょうね?」
フェリアってやつなんで聞きたくもないこと語っているんだ?
俺だって聞きたくもないことなんだぞ。
アムリスも口を歪めている。
「そんなわけない!」
アムリスはフェリアに向けて反論をする。
「わけないなんて、それこそあり得ませんわ。だったら、なぜ、あなたを秘匿したのです? 周りの王族からの接触もあなたは禁じられていたでしょう? 王様があなたの存在を隠したいからでは?」
「そんなわけ……」
「認めなさい。無能の日陰者であることを。それと、無駄に戦う必要もなければ、棄権してくれると助かりますわ」
「……」
アムリスは視線を下げていた。
反論出来ないくらい悔しいことなのか。
嘘だって反論もないから、あのフェリアの言っていることは事実なんだろうか。
でも、俺は無能呼ばわりされることには反論したいんだよ。
「ちょっと待て、勝手に無能だなんて決めつけるなよ」
俺からの言葉の横槍。
パートナーのアムリスなんだ、こっちにも反論の権利はあるだろ。
「あら、あなたが? どれくらいあなたと無能の付き合いがあっての言葉ですの?」
フェリアは疑問する。
付き合いが短いくせにと言いたいだろうな。
はっきり言ってやる。
「一日だけだ。はっきり言って、アムリスのことはよく知らない」
「お笑いですわ」
「だからこそだよ、俺もお前もアムリスの可能性なんて分からないのに無能扱いするんじゃない」
俺だっていじめられっ子だったのにそのいじめっ子に感謝されるようになったんだ。
そのきっかけがアムリスにある。
彼女を無能扱いなんて、腹が立ってくるんだよ。
「では、あなたの冒険者のLVは?」
「俺はLV5だ」
「笑わせてくれるわ。私のパートナーのLVは50よ。10倍の差があるじゃない」
LVの差はでかいし俺も内心では驚きだ。
でも、だからと言って引き下がるつもりもない。
「可能性ってものはLVの差だけで決まるんじゃない。まだ、本人にも気付かない力だってあるんだよ。少なくともな、俺は日陰者だったがここまで戦えるようになったんだ、気付かない力ってのがあるのも分かる」
「だから何ですの? それでもあなたは100%負けるのよ、何を勝機に見出しているの?」
「100%負けと断言した奴には見えない可能性と力があるんだよ、こっちにはな」
「……ははは! お笑いですわ。根拠なんてないでしょうに?」
「世の中、ダンジョンなんて出てくる可能性なんて想定できなかっただろ? それだけで何が起こるか分からないって証明できるさ」
「ふっ! よく言うわね!」
フェリアからの反論。
俺はもうここまで言われたら、負けるわけにはいかない。
それに、勝つための方法はないわけじゃないんだ。
と、ここで突然、部屋の真ん中に女性が現れる。
上から飛んできたわけでもなく、ワープしたかのようだ。
「では、決闘の宣言を聞きまして、エルドシールダー所属の私、メイルオンがジャッジを務めさせていただきます」
現れた女性の宣言。
その女性は目までを覆う兜と関節を覆う鎧を身にまとっていた。
髪は後ろで束ねていて、銀色だ。
声も落ち着きがあって成人女性を思わせる。
「私たちがすぐに倒して見せますわ! 覚悟なさい!」
「そんなに自信出しすぎだと、負けたときのショックがでかいぞ。負けのイメージもしといたほうがいい」
フェリアの言葉に俺の反論。
すぐにでも戦闘の火ぶたが落とされる瞬間だ。
「早速、私、メイルオンが幸前継刀と天川照日の戦闘を見届けます。戦闘開始」
そのメイルオンの言葉の後に両者が動き出す。
アムリスは俺の中へと早速入った。